日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 沿岸海洋⽣態系─1.⽔循環と陸海相互作⽤

2022年5月27日(金) 10:45 〜 12:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、コンビーナ:山田 誠(龍谷大学経済学部)、藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、コンビーナ:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、座長:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)

11:00 〜 11:15

[ACG42-07] 係留系による高頻度観測とタンク法を併用した底生微細藻類の基礎生産量の定量と現場法の検証

*尾崎 竜也1小森田 智大1、山田 勝雅2、田井 明3 (1.熊本県立大学、2.熊本大学、3.九州大学)


・はじめに

河川を通して陸起源の物質が流れ込む河口干潟は水深が浅く, 潮汐に伴い塩分が大きく変動する. このような環境において, 堆積物に付着する底生微細藻類が潤沢な光を享受して繁茂することが知られている. 一般に河口干潟における底生微細藻類は生物量の面で植物プランクトンを圧倒し, 河口干潟の高い生物生産を支える基礎生産者として重要な役割を担う.そのため, 底生微細藻類の基礎生産量に関する情報はその生態系を理解する上で必須の情報である. しかし, 国外海域の Estuary を対象とする底生微細藻類の基礎生産量を測定したこれまでの研究では 25 件中 17 件が,一定期間 (~ 1日) の海洋環境を反映させる「現場法」であった. この手法では天候や潮汐周期の変動を反映させることができないため,ある季節の代表値を求める際の代表性に疑問符が付く. そこで本研究では, 2021年10月の有明海に面する緑川河口干潟を対象に,野外で採取した堆積物試料に対して多段階の光を照射する「タンク法」により光―光合成曲線(P-Iカーブ)を構築し, 係留系による光合成有効放射(PAR)データを組み合わせることで高精度に基礎生産量を定量する.次に、気象庁による潮位データを元に現場法が実施可能な日を定義する. 最後に, 現場法が実施可能な日の基礎生産量と基礎生産量の月間平均値とを比較することで, 現場法による基礎生産量推定の妥当性を検討することを目的とした.

・材料と方法

有明海に面する緑川の河口域の 2 地点 (中洲, カメ洲) において, 2021 年 10 月 8 日に多項目水質計(AAQ, JFE アドバンテック)を用いて塩分, 光合成有効放射 (PAR) を測定し, 表層水, 表層堆積物 (1 cm) 試料を採取した.水試料については Chlorophyll a (Chl-a) 濃度, 溶存無機炭素を測定した. 堆積物試料については粒度組成, 含水率, Chl-a 含量を測定した. また, 水, 堆積物の両方の試料で炭素安定同位体比を分析した. 基礎生産量の培養実験については, 最大PAR を 2,493 µmol m-2 s-1 とした培養装置内で光量を 5 段階 (100, 50, 10, 1, 0 %) に設定し, 培養瓶に堆積物試料を添加して, 現場海水で満たし, NaH13CO3 溶液を添加し培養した. P – I カーブの算出には, Eilers and Peeters (1988) の生理学的方程式を用いた. 係留系は2021 年 9 月 22 日 から 2021 年 12 月 6 日にかけて, 海底直上におけるPAR, Chl-a 濃度, 濁度, 水温, 塩分を 10 分間隔で測定した.

・結果と考察

本研究における P – I カーブを Fig 1 に示す. 地点間で P – I カーブに明確な違いがあり, 中洲においては 100 % 区分よりも 50 % 区分において炭素同化効率が高く, 強光阻害を受けたことが考えられる. 中洲およびカメ州の P – I カーブは, それぞれy = 0.267 + 1.96×10-6x – 6.61×10-19x2 ならびに y = 0.172 + 1.04×10-6x – 2.19×10-19x2 であり, 10月における基礎生産量の平均値は, それぞれ 352.7 mgC m-2 d-1 でならびに 399.9 mgC m-2 d-1 であった. 係留系による 1 日あたりの PAR 積算量 (µmol m-2 d-1) の推移を Fig 2 に示す. 1 日あたりの PAR 積算量 (µmol m-2 d-1) は両地点で 10 月 5 日と 20 日前後でピークが出現した. これらのピークは, 大潮時に対応するため, 潮汐周期の影響を反映すると考えられる. 現場法は干潟が干出する際に行うため, 熊本港における潮位が 51 cm 以下の日を「現場法の実施可能日」とし, それらの日における基礎生産量を抜き出した. 次に, 現場法の実施可能日における基礎生産量と10月における基礎生産量の平均値との比をとると, その範囲は中洲で 0.87 – 1.49 であり, カメ洲で 0.93 – 1.18 であった (Table 1). 現場法による基礎生産量は最干時間が昼であり, 天候が晴れのときに平均値を上回り, 最干時間が夜で天候が曇りまたは雨のときに平均値を下回る傾向にあった. また, 現場法を想定した測定値は大きくても50 % 程度の過大評価となり、月間の基礎生産量の代表値として概ね妥当であることが示唆された.