日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 人間環境と災害リスク

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 203 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、コンビーナ:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)

09:30 〜 09:45

[HDS09-03] 常時微動計測から推定した東茨城台地内の谷底平野の地形発達と地震時リスク

*小荒井 衛1、川村 直輝1先名 重樹2中埜 貴元3 (1.茨城大学理学部理学科地球環境科学コース、2.防災科学技術研究所、3.国土地理院)

キーワード:谷底平野、常時微動観測、勾配、沖積層深度、東茨城台地

谷底平野の堆積層の厚さ(沖積層の基底深度)や構成物質の特徴は様々と考えられ、地盤の揺れやすさや液状化などの地震時地盤災害リスクを地形分類ベースに考えるうえで考慮すべき事項となる。地形発達の観点からは、上流側の急勾配な場所ほど堆積層は薄くかつ構成物は粗粒で、下流側の緩勾配な場所ほど堆積層は厚くかつ構成物は細粒であると考えられ、緩勾配な谷底平野ほど地震時地盤災害リスクは高いことが想定される。本研究では茨城県内の台地を刻む谷底平野を対象に、まずは勾配と沖積層の厚さとの関係を明らかにすることを目的に調査を実施した。
本研究では、茨城県の東茨城台地を刻む谷底平野において、地理院地図断面図機能を用いた谷底平野の断面図の作成、ボーリングデータの収集、常時微動観測を行った。具体的には、水戸周辺(桜川とその支流の谷底平野、涸沼前川の支流の谷底平野)と石岡市・小美玉市玉里地区(恋瀬川の最下流部と園部川の最下流部とそこから派生する谷底平野)を対象にした。
常時微動観測で求めたS波速度構造と計測点近傍のボーリングデータを対比して、S波速度300m/s付近でS波速度が大きく変化する深度が、谷底平野における沖積層の基底と判断した。そして、S波速度構造とボーリングデータを縦断方向に並べて、谷底平野の縦断面図を作成した。
水戸市近傍の谷底平野は上流部と下流部の1/500より小さな緩勾配が、中流部の1/100~1/300程度の急勾配を挟むような勾配になっており、小美玉市・石岡市の谷底平野は上流から、急勾配~緩勾配になっていた。また、下流部ほど沖積層が厚いという結果であったが、水戸市近傍の谷底平野では中流の急勾配から下流の緩勾配に変わる箇所で沖積層の厚さが急激に厚くなっている(中流部の急傾斜部では5m以下なのに対し、下流部では20m以上)という結果であった。これは、侵食段階の進行度の差であると考えられる。水戸市近傍の谷底平野は、中流の急勾配の部分が侵食前線となり上流側に後退していく途中段階であり、小美玉市・石岡市の谷底平野は侵食前線の後退が上流まで進み切った状態であると考えられる。
園部川下流部、恋瀬川下流部の幅の広い谷底平野では、横断方向に常時微動観測とボーリングデータの収集を行った。その結果、同じ谷底平野内でも、谷底平野の中心部では沖積層が厚い(20m以上)のに対し、台地に近い側では沖積層がかなり薄く(10m以下)なっていた。つまり,沖積層基底の横断形状はU字形ではなくV字形であることが伺える。
地震時リスクについては、対象地域内の谷底平野の沖積層が主にシルトであることから、液状化リスクが高い条件に該当しないが、下流部や谷底平野の中央部ほど沖積層が厚いという傾向は鮮明であり、同じ谷底平野内でも下流部の低勾配の箇所や幅の広い谷底平野の位置に応じて、地震時リスク評価の細分化を検討する必要はあるかもしれない。