15:30 〜 16:00
[MIS16-01] 発生・発達過程を考慮した融雪型火山泥流予測
★招待講演
キーワード:分布型モデル、浸透、氾濫
融雪型火山泥流とは,山腹の積雪もしくは氷河が火山灰,火山砂,火砕流などの高温の火山噴出物で融かされることで発生する泥流であり,非常に早く現象が進行する特徴を有する。融雪水は火山噴出物と混合するとともに斜面を侵食し,泥流として発達する。融雪型火山泥流は非常に流動性が高く,予期されていない下流域にも多大な被害をもたらすことがある。防災対策として融雪型火山泥流の予測は必須であるが,発生事例は少なく発生過程などはほとんどわかっていない。そのため泥流の発生および発達域である斜面での過程を予測する手法は確立されておらず,発生する泥流総量は火山噴出物の熱量と積雪量の比較から推定されているのが現状である。そこで本研究では,泥流の発生から発達,流下,氾濫を予測する手法の提案を目的とした。本予測モデルは高温の火山噴出物による融雪水浸透モデル,斜面領域での水移動および泥流発生・発達モデル,河川領域での泥流流下・氾濫モデルで構成される。
泥流発生の最初の段階である高温の火山噴出物による一次元融雪実験を行った。活火山である焼岳北西の足洗谷流域で採取した2200年前の火砕流堆積物および積雪を実験に用いた。高さ1 m,内径95 mmの耐熱ガラスカラムに積雪を充填し,カラム上端から熱した土砂を供給した。カラムの底部は木板で止水しており,底部に浸透した融雪水は飽和帯を形成した。計測項目は,①カラムの積雪表面,すなわち高温土砂との境界面の温度,②ビデオ撮影による融雪速度および融雪水の浸透過程,飽和帯水位,③実験カラム全体の重量である。高温土砂が供給されると融雪だけでなく融雪水の蒸発も起こったため,全体の重量変化から蒸発量を推定した。実験は土砂の温度を約250~630℃,積雪密度を77~409 kg/m3で変えて行った。融雪水は不飽和浸透でカラム底面に到達すると飽和帯を形成した。飽和帯水位の上昇速度は10-3 cm/sのオーダーであった。ただし,供給土砂の温度が低い実験では積雪層が全てとけずに残った。これらの実験結果をもとに高温土砂による融雪および融雪水浸透モデルを構築した。本モデルは高温の土砂層と積雪層での熱交換モデルおよび融雪水の浸透モデルから成る。熱交換モデルは熱伝導方程式および熱収支式で表される。融雪水の浸透モデルは,融雪速度と浸透速度の大小関係を考慮して不飽和浸透速度を決定するものである。本モデルは一次元融雪実験の結果を良好に再現することができた。
斜面領域での水移動モデルは計算対象を10m格子に分割し,各格子が不透水の基岩層,土層と積雪層からなるとする。各格子からは最急勾配方向に隣接する格子に水移動(飽和側方流および表面流)が起こるとした。上の融雪・浸透モデルを適用して積雪層および土層の飽和帯水位を求める。この時,積雪層-土層間および土層-基岩層間をすべり面として斜面安全率を計算した。安全率が1を下回るときには,各すべり面で崩壊が発生したと考え,すべり面より上の物質を混合した泥流が発生すると考えた。泥流は等流を仮定して流速をもとめ斜面での侵食,堆積を計算した。ここでは積雪層の侵食は無視した。斜面領域は,泥流が十分に発達する河床勾配10°の地点を下流端とした。
斜面領域の下流端で計算された泥流を河川領域の入力条件とした。河道領域では,既往の融雪型火山泥流事例に適用された土砂を含んだ平面二次元浅水流モデルを用いた。土砂の輸送は粒径別の掃流砂量について計算し,側岸侵食も考慮した。
本予測手法を足洗谷流域およびその下流河川に適用した。積雪深は航空レーザー測量による実測値と均一な深度,積雪密度は150~270 kg/m3の複数の条件,噴火による噴出物量は焼岳で大規模噴火として想定される2.1×106 m3とし,温度は1000℃としてシミュレーションを行った。その結果,斜面領域下流端での泥流は,210~310秒という非常に早いタイミングでピーク流量が現れることがわかった。またピーク流量は,従来手法の2~9倍と非常に大きかった。河川領域において,焼岳から約7kmに位置する集落に泥流が到達するまでの時間は40~50分と従来手法と大きく変わらなかったが,最大流動深が12~17 mと従来手法の約7 mよりも大きかった。斜面での泥流発生・発達過程を考慮することで下流の被害がより大きい可能性が示唆された。
泥流発生の最初の段階である高温の火山噴出物による一次元融雪実験を行った。活火山である焼岳北西の足洗谷流域で採取した2200年前の火砕流堆積物および積雪を実験に用いた。高さ1 m,内径95 mmの耐熱ガラスカラムに積雪を充填し,カラム上端から熱した土砂を供給した。カラムの底部は木板で止水しており,底部に浸透した融雪水は飽和帯を形成した。計測項目は,①カラムの積雪表面,すなわち高温土砂との境界面の温度,②ビデオ撮影による融雪速度および融雪水の浸透過程,飽和帯水位,③実験カラム全体の重量である。高温土砂が供給されると融雪だけでなく融雪水の蒸発も起こったため,全体の重量変化から蒸発量を推定した。実験は土砂の温度を約250~630℃,積雪密度を77~409 kg/m3で変えて行った。融雪水は不飽和浸透でカラム底面に到達すると飽和帯を形成した。飽和帯水位の上昇速度は10-3 cm/sのオーダーであった。ただし,供給土砂の温度が低い実験では積雪層が全てとけずに残った。これらの実験結果をもとに高温土砂による融雪および融雪水浸透モデルを構築した。本モデルは高温の土砂層と積雪層での熱交換モデルおよび融雪水の浸透モデルから成る。熱交換モデルは熱伝導方程式および熱収支式で表される。融雪水の浸透モデルは,融雪速度と浸透速度の大小関係を考慮して不飽和浸透速度を決定するものである。本モデルは一次元融雪実験の結果を良好に再現することができた。
斜面領域での水移動モデルは計算対象を10m格子に分割し,各格子が不透水の基岩層,土層と積雪層からなるとする。各格子からは最急勾配方向に隣接する格子に水移動(飽和側方流および表面流)が起こるとした。上の融雪・浸透モデルを適用して積雪層および土層の飽和帯水位を求める。この時,積雪層-土層間および土層-基岩層間をすべり面として斜面安全率を計算した。安全率が1を下回るときには,各すべり面で崩壊が発生したと考え,すべり面より上の物質を混合した泥流が発生すると考えた。泥流は等流を仮定して流速をもとめ斜面での侵食,堆積を計算した。ここでは積雪層の侵食は無視した。斜面領域は,泥流が十分に発達する河床勾配10°の地点を下流端とした。
斜面領域の下流端で計算された泥流を河川領域の入力条件とした。河道領域では,既往の融雪型火山泥流事例に適用された土砂を含んだ平面二次元浅水流モデルを用いた。土砂の輸送は粒径別の掃流砂量について計算し,側岸侵食も考慮した。
本予測手法を足洗谷流域およびその下流河川に適用した。積雪深は航空レーザー測量による実測値と均一な深度,積雪密度は150~270 kg/m3の複数の条件,噴火による噴出物量は焼岳で大規模噴火として想定される2.1×106 m3とし,温度は1000℃としてシミュレーションを行った。その結果,斜面領域下流端での泥流は,210~310秒という非常に早いタイミングでピーク流量が現れることがわかった。またピーク流量は,従来手法の2~9倍と非常に大きかった。河川領域において,焼岳から約7kmに位置する集落に泥流が到達するまでの時間は40~50分と従来手法と大きく変わらなかったが,最大流動深が12~17 mと従来手法の約7 mよりも大きかった。斜面での泥流発生・発達過程を考慮することで下流の被害がより大きい可能性が示唆された。