日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG32] Climate Variability and Predictability on Subseasonal to Centennial Timescales

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:森岡 優志(海洋研究開発機構)、Hiroyuki Murakami(Geophysical Fluid Dynamics Laboratory/University Corporation for Atmospheric Research)、Takahito KataokaLiping Zhang、Chairperson:Hiroyuki Murakami(Geophysical Fluid Dynamics Laboratory/University Corporation for Atmospheric Research)、Takahito Kataoka森岡 優志(海洋研究開発機構)

09:15 〜 09:30

[ACG32-02] 北半球環状モード変動の季節内変調とENSOからの影響

*川村 岳1臼井 健人1岡島 悟2関澤 偲温2宮本 歩2、戸田 賢希2小坂 優2中村 尚2 (1.東京大学 理学部、2.東京大学 先端科学技術研究センター)


キーワード:北半球環状モード変動、エルニーニョ・南方振動、d4PDF

北半球環状モード変動(NAM)は冬季の北半球で最も卓越する大気循環変動パターンであり、北極振動とも呼ばれる。正位相のNAMは北極域に負の海面気圧(SLP)偏差、北半球中緯度の海盆上に正のSLP偏差を伴う。物理的には、NAMは南半球環状モードのような単一の物理現象であるとの見方や、経験直交関数解析が作り出す統計的虚像との見方がある。後者に近い考え方の一つとして、北大西洋振動(NAO)及びアリューシャン・アイスランド低気圧シーソー(AIS)との関係が指摘されている。NAMは地表気温や降水に影響を与えるため、そのメカニズムを理解することは季節予報にとって重要である。しかしながら、サンプルサイズの小ささや、AISに含まれる顕著な数十年規模変調の存在のために、観測データのみから上記の関係を議論するには限界があり、NAMが力学的にどんなメカニズムで構成されているかは依然として十分に理解されていない。そこで本研究では、地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)を用いてNAMの季節内変調を明らかにし、そのメカニズムを考察した。d4PDFの過去実験は、観測値に基づく海面水温(SST)及び海氷分布変動と放射強制力で駆動された100メンバーの大気大循環モデルアンサンブルシミュレーションデータである。その大規模データの解析により、NAMに伴うアリューシャン低気圧偏差が初冬から晩冬にかけて強化され、それに伴ってAISが晩冬に現れることが明瞭になった。さらに抽出したNAMのアンサンブル平均成分により評価したSST駆動成分の解析から、正のNAMが初冬にはエルニーニョ現象と、晩冬にはラニーニャ現象と関連しており、ENSOテレコネクションが初冬と晩冬で異なる影響を北大西洋にもたらすことが示唆された。このENSO影響はアリューシャン低気圧とアイスランド低気圧の強さの間に初冬には正相関を、晩冬には負相関すなわちAISをもたらし、NAMの季節変調に寄与していることがわかった。これらの結果は、初冬と晩冬とを問わずNAOは存在するが、晩冬になると太平洋からのテレコネクションがAISを通してNAOを駆動し、NAMを形成するというメカニズムを支持する。