日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW23] 同位体水文学2023

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、座長:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)

10:10 〜 10:25

[AHW23-09] 東京都世田谷区北烏山地域の浅層地下水の硝酸イオン濃度と窒素同位体比

福井 弘樹1伊東 優希3李 盛源1、*安原 正也1中村 高志2 (1.立正大学地球環境科学部、2.山梨大学国際流域環境研究センター、3.立正大学大学院)

キーワード:都市の浅層地下水、武蔵野台地、硝酸イオン、窒素同位体比、地下水の起源

東京都世田谷区北烏山地域において,都市の浅層地下水の水質の現状把握と水質形成プロセス,また地下水の起源の解明を目的とした研究を実施中である.今回は同地域の東西約500 m,南北約400 m の範囲内に存在する17本の井戸を対象に,2022年3月(渇水期)と同年10月(豊水期)に行った調査の結果を報告する.
水位測定が可能であった4本の井戸では,地下水面は3月と10月にそれぞれ地表面下1.7-2.4 m,1.0-1.3 mに位置していた.水質組成は,両時期ともほぼすべての地点がNa(・Mg・Ca)-SO4・NO3型あるいはCa-SO4型の組成を示した.また,人為汚染の指標となる成分については,渇水期の2022年3月はCl-:3.2-7.6 mg/L,NO3-:0.7-28.6 mg/L,SO42-:2.8-38.5 mg/L,一方, 豊水期の2022年10月にはCl-:3.4-29.6 mg/L,NO3-:0.8-156.9 mg/L,SO42-:4.7-39.0 mg/Lと,地点間ばかりでなく季節間での濃度の変化も大きかった.pHについても同様で,3月には6.1-7.7であったものが,10月には3.9-6.5と,豊水期にはpHの明らかな低下が認められた.
都市の地下水の起源として,近年,下水漏水の果たす役割が注目されている(たとえば,伊東ほか,2023).上記の地下水の化学的特性,NO3-の窒素同位体比(たとえば3月には6.3-17.7‰)・酸素同位体比(同-2.3-20.1‰),さらに水道漏水,降水浸透水,下水漏水をエンドメンバーとしたNO3-濃度と窒素同位体比の関係からは,北烏山地域においても下水漏水の寄与が明らかな地点が認められる.また,脱窒反応の発生と進行が示唆される地点もある.一方で,地下水の起源として水道漏水や降雨浸透水の寄与が卓越する地点も多く認められる.すなわち,地下水形成に果たす水道漏水,降水浸透水,下水漏水の役割の相対的な違いと,脱窒反応の発生の有無と進行の程度によって,それぞれの地点の地下水の水質が決定づけられるものと考えられる.今後,SO42-の硫黄同位体比,フロン類濃度に基づく地下水の滞留時間の測定など,マルチトレーサーに基づいて同地域の浅層地下水システムの解明をさらに進めてゆく予定である.