日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM02] 地形

2023年5月26日(金) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)、岩橋 純子(国土地理院)、Parkner Thomas(University of Tsukuba, Graduate School of Life and Environmental Sciences)、高波 紳太郎(明治大学)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[HGM02-P06] 相模川支流,道志川流域における支流合流点付近の段丘発達過程と支流の地形特性

*高橋 尚志1 (1.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:河成段丘、テフラ、結合性、土砂動態システム

氷期―間氷期サイクルの気候水文環境変動に応答した上~中流河川の埋積・下刻の結果として形成された,氷期の堆積段丘の発達過程を復元する上では,斜面および支流域における土砂生産ならびに本流河谷への土砂供給を把握し,する必要がある.最終間氷期以降の河谷の埋積における支流からの土砂供給過程を明らかにするためには,支流合流点付近における段丘発達史を復元することが有効である.本流の河床上昇および下刻に対する支流の応答性や合流点付近の地形発達は,本流に対する支流集水域の地形量や土砂生産・土砂供給速度などに大きく依存すると考えられる.本報告では,丹沢山地を流れる相模川支流,道志川流域において,支流合流点付近の最終間氷期以降の河谷埋積過程と支流の地形特性の関係について議論する.
丹沢山地北部をおおむね南西から北東に向かって貫流する道志川は,南側に丹沢山地の主稜線が平行し,それを源流とする支流群が右岸側に合流する.一方,左岸側には相模川本流や秋山川との分水嶺を成す道志山塊が平行し,これを源流とする比較的小規模な支流が流入する.道志山塊は北東(道志川下流)に向かって高度を下げる.現在の道志川の流路は河谷の北側を穿入蛇行しており,もっぱら右岸側(丹沢山地側)に後期更新世以降の段丘面が発達する.これらの段丘面は,山側には緩傾斜したⅢS(相模原面相当)面,ならびに本流側にはⅢT(田名原面相当)面に大きく分類される.ⅢS面は上部の支流性角礫層,および下部の角礫混じりの褐色砂~シルト層によって,ⅢT面は埋谷性堆積物および一部べニアとなっている本流性円礫層によって,それぞれ構成される.ⅢS面下部を構成する砂~シルト層は,道志川沿いの青根,梶野,三ヶ木地区などで観察可能であり,一部斜交葉理などがみられ,鬼界葛原テフラ(K-Tz)など複数のテフラ層が挟在する.梶野では,K-Tzの上位に,下位から黄褐色火山灰層および白色火山灰層(本報告ではKJN-3およびKJN-4と呼ぶ)が挟在するのが支谷内で観察された.KJN-4は風化していたため同定はできていないものの,支流沿いにKJN-4を追跡すると約2~3%の勾配で支流流下方向に傾斜している.このことからKJN-4降下当時には,支流河床はこの程度の勾配を持っていたと推測される.また,K-TzとKJN-3の間の層準の砂~シルト層の試料を用いて珪藻分析を実施したが,珪藻は検出されなかった.珪藻が検出されなかった原因としては,堆積速度や流速がきわめて大きかった,もしくは堆積後に乾燥して好気的環境にさらされた可能性が考えられる.さらに,上記の砂~シルト層は支流性角礫層に覆われる.この支流性角礫層によって構成されるⅢS面は,支流流下方向に土石流停止勾配(8%)以上の勾配で傾斜する.
以上から,道志川右岸に発達するⅢS面を構成する支流性の角礫混じりの砂~シルト層は,緩勾配な河川もしくは湿地のような環境で堆積した可能性がある.その原因として,本流の河床上昇に伴い支流の局地的基準面が上昇し,砂~シルトが堆積可能な河川区間または静水的な環境が支谷の下流側に成立し,それが維持されながら本流河床の上昇(河谷の埋積)が進んだ可能性が考えられる.その後,山間部では支流からの土砂供給様式は土石流へと変化し,合流点付近には支流性扇状地が発達してⅢS面が形成された.また,上記の砂~シルト層が合流点付近から見いだされる支流の多くは,集水域の面積―起伏比が,他の道志川の支流と比較してやや小さい傾向がみられた.本流河床の上昇期にこれらの支流では,集水域内で生産された礫質砕屑物が本流河谷との合流点付近まで到達しづらくなっていた可能性がある.今後,支流―本流間の長期的土砂結合性を議論するためには,ⅢS面上部を構成する角礫層の編年や,他のタイプの支流も含めた合流点付近における埋積過程の復元事例の蓄積などを進める必要がある.
本研究は,河川基金およびJSPS科研費21K13151を用いて進めた.