日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

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[M-ZZ43] ジオパークとサステナビリティ(ポスター)

2023年5月21日(日) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (2) (オンラインポスター)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(フォッサマグナミュージアム)、横山 光(北翔大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[MZZ43-P22] ジオパーク理科副読本(大地のつくりと変化)の利活用について
~桜島・錦江湾ジオパークの取り組み~

*吉瀬 毅1、大木 公彦2福島 大輔3、東川 隆太郎4、二宮 さおり5、竹之内 康隆6、西村 一郎7 (1.桜島・錦江湾ジオパーク推進協議会、2.鹿児島大学総合研究博物館、3.NPO法人桜島ミュージアム、4.NPO法人まちづくり地域フォーラム・かごしま探検の会、5.鹿児島市立玉江小学校、6.姶良市立柁城小学校、7.垂水市立協和小学校)


キーワード:理科教材、副読本、環境教育、総合学習

はじめに
 ユネスコ世界ジオパークのプログラムでは、保全・教育・利用を包括的に行うことにより、地域が持続可能な発展をしていくことを推奨している(UNESCO, 2015)。持続可能な利用を行う上で、地域住民が保全についての重要性を理解している状況が必須であり、その理解を促す方法として教育は有効な手段である。
 限りある資源を不可逆な負荷がかからないように利用するために、国立公園やその拠点施設(ビジターセンター)、NPOなどで様々な環境教育がされている。例えば、高尾山ではNPOが主体となり全体計画を作成し、教育・保全と利用のバランスを取りつつ持続可能な仕組みを運用している。彼らのように保全と利用のバランスが取れた仕組みを作り、運用していくことはジオパークが理想とするボトムアップアプローチで実現される持続可能な発展の一つであろう。
 桜島・錦江湾ジオパークエリアは、ジオパークプログラムが理想とするボトムアップアプローチによる持続可能な発展を実現したい。桜島・錦江湾ジオパークのブランドやコンセプトを周知し、住民が主体的に保全・教育・利用のバランスの重要性について理解する流れが理想形の一つである。そのために副読本を利用して、桜島・錦江湾ジオパークについての認知度を上げ、「ヒトと自然のつながり」について理解(適切な保全と利用方法)を促していきたい。
 本発表では、副読本の作成と利用を通じて得た、ノウハウや知見、今後の展望について共有したい。

副読本の作成と配布のねらい
 桜島・錦江湾ジオパークでは、2017年から地球科学の専門家と鹿児島市内の小学校教諭を編集委員として「桜島・錦江湾ジオパーク理科副読本(以下、副読本)」を作成してきた。また桜島・錦江湾ジオパークのエリア拡大に合わせて、2019年からは姶良市と垂水市の小学校教諭を副読本の編集委員に加えて改訂を続けてきた。
 副読本は(小学校のカリキュラムや担当教諭の都合上)使われないことも多い。授業での使用率を向上させるために、以下の3つのねらいを持って副読本の作成と配布を行った。
1. この副読本は教科書として理科の授業で使用できるように編集した。
2. 各市の教育委員会と協力して、鹿児島の魅力の詰まった副読本を授業で教科書として使用するよう依頼した。
3. 身近な地域の地形地質を身近に感じてもらうために、写真やコラムをふんだんに使用した。
 これらのねらいによって、桜島・錦江湾ジオパークのメッセージを児童らに広く届けることができるだろう。

副読本の評価
 副読本の利用率について、アンケート調査を行った。授業評価として、自由記述を抽出した。副読本に掲載するエリアを鹿児島県内に限定することで、副読本が理科の授業で使われるだけではなく、野外学習に出かけた事や、総合学習の際に利用された事、児童にとって身近な地域について取り扱っているため親近感がわく事、親近感がわくことによる学習内容の理解が深まる事などがあった。発表者らはアンケート結果を受けて、児童が副読本で学習したことをきっかけに、適切な保全や利用方法について学ぶことを期待している。

副読本改訂の効果と今後の展開
 掲載する内容を2019年のエリア拡大より段階的に変更している。2021年度は、桜島・錦江湾ジオパークのVI(Visual Identity)マニュアル(福島, 2016; 火山学会)に合わせてデザインを刷新した。2021年の改訂は2020年度から、利用率が60%から80%に上昇し、過去最高の利用率になった。結果的に、桜島・錦江湾ジオパークのメッセージが広く、効果的に伝わったと言える。さらに、2022年度は副読本にQRコードを掲載し、参考資料として桜島・錦江湾ジオパークの情報にアクセスできるようにした。2022年度は、利便性を向上させ、課外授業でも利用ができるメリットを、理科担当の小学校教諭に研究会で告知した。こうした改訂と告知を積み重ねていったことで、副読本の利用率は目標としていた100%を初めて達成した。
 改訂の回数を重ねるごとに、利用率と満足度は向上している。ねらいの3番目について、2022年度の副読本改訂によって、QRコードを利用して桜島・錦江湾ジオパークの情報を提供できるようになった。これにより、保全に関する情報も参考資料として発信するための下準備が整った。2023年度からは、保全に関する情報も随時追加していきたい。そして、各小学校で具体的なアクションが取られたかを測るような工夫を設計していきたい。また、完全な電子書籍化には対応が間に合わず、電子黒板を利用して授業を行いたいという要望が複数あったことなど、小学校の教諭に対するフォローが不十分な点もある。
 今後、保全についての具体的なアクションを促すためのワークシートや、電子黒板に対応するための資料の作成・配布を行い、利用率の観点からだけではなく利用方法についてもジオパークのメッセージを届けられる副読本にしていきたい。

まとめ
 桜島・錦江湾ジオパークでは2017年から継続して小学校6年生向けに理科副読本を作成・配布している。ジオパークエリア内の資源を厳選した副読本を小学校の理科の授業で使用することによって、児童にとって野外学習の機会を創出する事、身近なエリアについて学習し郷土愛を醸成する事がねらい通りできている。2021年度はデザインを刷新したことで副読本の利用率が増加し、2022年度はQRコードの掲載と理科の担当教諭への告知によって利用率が更に増加した。電子版の配布によって更に利便性が向上するだろう。今後、副読本の作成と配布を通して、ジオパークの認知度を上げるだけではなく、地域資源の保全や保護についての重要性が啓発できるような仕掛けを組み込んでいきたい。