日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] 火星と火星衛星

2023年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、今村 剛(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)、中村 智樹(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[PPS05-P22] 初期の火星・地球大気における太陽高エネルギー粒子照射による複数種アミノ酸の解離と合成の化学サイクルの再現

*櫻井 悠貴1木村 智樹1小林 憲正2、鳥越 秀峰1寺田 直樹3 (1.東京理科大学、2.横浜国立大学、3.東北大学)


大気や海洋を有する惑星において、発生しうる生命の構成に必要なアミノ酸やタンパク質の起源は未解明である。タンパク質を構成するアミノ酸やその前駆体の起源を解明することは、生命の起源の解明や生命の発生条件の理解をする上で最重要の課題である。これらの物質の起源として、大気へのエネルギー入射により大気分子から非生物的に合成したとする説があり、様々な初期惑星大気とエネルギーの組み合わせでアミノ酸の非生物的合成実験が行われてきた[e.g. Miller, 1953]。初期の火星や地球の大気は主に弱還元型(COまたはCO2, H2O, N2)と強還元型(CH4, H2O, NH3)の2種類で議論されているが、いずれの場合も太陽高エネルギー粒子(Solar Energetic Particles, SEP)を模した陽子照射により大気分子からアミノ酸や、ソリンと呼ばれる高分子の物質[Sagan and Khare, 1979]が生成することが分かっている[Kobayashi et al., 1990]。しかし、ソリンとアミノ酸や生成するアミノ酸の間の化学サイクルの全容は不明である。そこで本研究は、実験室において初期の火星・地球大気から生成されるアミノ酸組成(グリシン74.6%、アラニン19.9%、セリン5.49%)を模した粉体サンプルへ、プラズマ照射装置により生成された水素イオン(10keV, 7μA)を照射することにより、大気分子起源のアミノ酸とソリンの間の放射線化学サイクルを再現した。照射したアミノ酸粉体サンプルを高速液体クロマトグラフ分析した結果、照射によってセリンが減少し、グリシンとアラニンが増加した。また、照射サンプルを加水分解すると加水分解を行わないものと比べてグリシン、アラニン、セリンはそれぞれ増加した。これらの結果より、陽子照射により3種のアミノ酸とソリンの間で化学サイクルが発生し、そのサイクルの中で照射により複雑な構造を持つアミノ酸は、より簡単な構造を持つアミノ酸に解離することが明らかになった。また、陽子照射した混合アミノ酸の加水分解の結果から、Kobayashi et al.[1990]と同様、ソリンはアミノ酸が複数結合した物質であることが確認できた。また、グリシン、アラニン、セリンについて、加水分解では遊離アミノ酸の破壊による減少よりもソリンから供給されるアミノ酸の増加の寄与の方が大きいことが分かった。

初期火星・地球では火山活動によってSO2が大気中に存在していた可能性が示唆されている[Sekine, 2012]が、SO2を含む模擬大気物質への陽子照射により生成されるアミノ酸の種類やソリンの構造は議論されていない。そこで本研究では、SO2を含む模擬大気物質へ陽子照射をすることで、地球や火星の火山活動が活発だった時代でのSEPによるアミノ酸やソリンの生成条件やその組成、収量を推定する予定である。発表ではその現状も報告する。