日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:00 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:金丸 仁明(東京大学)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、座長:荒川 創太(海洋研究開発機構)、鈴木 雄大(東京大学)

14:45 〜 15:00

[PPS07-15] Comet Interceptor搭載水素イメージャによる彗星コマ中の水素の温度およびD/H比の測定可能性

*鈴木 雄大1吉岡 和夫1村上 豪2桑原 正輝3亀田 真吾3田口 真3吉川 一朗1河北 秀世4、新中 善晴4 (1.東京大学、2.JAXA/ISAS、3.立教大学、4.京都産業大学)

キーワード:彗星、Comet Interceptor、D/H比、大気、紫外線

長周期彗星は、彗星の中でも特に宇宙風化が進んでいない始原的な天体として注目されている。彗星の大気(コマ)中の水素原子は主に核表層から昇華した水分子の光解離によって生成されており、彗星の活動度を知る手がかりとなる。また、水素同位体比(D/H比)は初期地球への水供給源となった天体を特定する際の1つの指標とされている。
 現在、初の長周期彗星フライバイミッションのComet Interceptor探査機 (CI) の開発が進行中である。CIに搭載されるHydrogen Imager (HI) では、バンドパスフィルターとガスフィルター(吸収セル)を用いて、コマ中の水素原子の放つLy-α線の放射輝度分布を測定する。吸収セルは水素分子(または重水素分子)で満たされた小型のガラスセルであり、セル内部に設置されたフィラメントに電圧を印加することにより水素原子(または重水素原子)のLy-α線のみを選択的に吸収することができる。しかし、その吸収率は観測対象の水素の温度に依存するため、水素温度の観測的制約が重要になる。また、核付近では水素原子によるLy-α線の多重散乱・自己吸収効果が支配的となり、Ly-α線の放射輝度は水素原子の数密度に比例しなくなる。従って、光学観測による水素・重水素原子の数密度の定量のためには、放射伝達モデルを用いた数値計算により観測されたLy-α線の放射輝度を水素の数密度に変換する必要がある。
 そこで、本研究ではまず、実験による吸収セルの吸収率のフィラメント温度依存性の測定結果を用いて、コマ中の水素温度の推定精度を計算した。その結果、1,000 K程度の精度で水素温度を測定できることが分かった。続いて、ひさき衛星による長周期彗星の紫外線分光観測結果を基に構築した放射伝達モデルを用いて、CI/HIで観測されるLy-α線の放射輝度を視線上の水素原子の柱密度の関数として求めた。その結果、D/H比を相対誤差率60%以内で測定できることが分かった。これは67P/Churyumov-GerasimenkoのようにD/H比が高い彗星と103P/Hartley 2のようにD/H比の低い彗星を判別できることを意味する。さらに、1,000 Kの精度で水素温度を制約できれば、D/H比の推定精度が相対誤差率40%程度まで向上し、D/H比が高い彗星、低い彗星と中間的な彗星の3段階で判別可能になることが分かった。
 本発表では、Comet Interceptor探査機搭載Hydrogen Imagerのガスフィルターを用いた、長周期彗星のコマ中の水素温度およびD/H比の測定可能性に関する定量的な検討結果について紹介する。