日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 岩石・鉱物・資源

2023年5月26日(金) 13:45 〜 15:00 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)、座長:野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

14:00 〜 14:15

[SCG48-08] 熱水噴出孔の硫化物チムニーの累帯構造と半導体特性の関係性

*高橋 美咲1岡本 敦1、山田 亮一1、佐藤 義倫1野崎 達生2 (1.東北大学、2.国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)


キーワード:海底熱水噴出孔、チムニー、黒鉱、海底熱水鉱床

海底熱水噴出孔では噴出した熱水が周囲の海水と混合して急速に冷却されて硫化鉱物などの粒子が析出してチムニーと呼ばれる煙突状の構造物を形成する.硫化鉱物はしばしば,半導体の特性を持ち,導電性が良いことが知られている.また,チムニーは還元的な噴出熱水と酸化的な海水との間で触媒として働くことで,化学反応を通して海中に電子を放出していることが提案されている(Yamamoto. et al, 2018).一方,チムニーの鉱物組織と半導体特性との関係性は解明されておらず,チムニー全体として正孔をキャリアとするp型か,電子をキャリアとするn型のどちらの半導体として働くのかは分かっていない.また,黒鉱鉱床からも同心円状の累帯構造を持つ鉱石が産出し,チムニーが変化したものだと考えられている.本研究では,海底熱水噴出孔付近での発電現象と鉱物組織の関係性を明らかにするために,起電力測定装置を作成し,黒鉱型鉱石と現世のチムニー試料の鉱物組織解析と熱起電力測定を行った.
 秋田県北鹿地域の花岡鉱山より産出した黒鉱型鉱石と伊豆諸島南部の明神礁カルデラから採取したデッドチムニーの解析を行った。チムニーは縦75 ㎜・横 75㎜・厚さ10 ㎜,黒鉱は縦50 ㎜・横75 ㎜・厚さ1 ㎜に整形した.試料はいずれも同心円状の鉱物分布を持ち,黒鉱は直径約3㎝の主に重晶石,閃亜鉛鉱,石英からなる内側レイヤーと,主に黄銅鉱からなり亀裂状の黄鉄鉱が含まれる厚さ約20㎜の外側のレイヤーに分かれていた.現世のデッドチムニーは熱水が流通していたと考えられる内側が5㎜の厚さの黄銅鉱であり,外側は重晶石からなっていた.
電位測定に用いるプローブ間の距離は約1㎜とし,鉱物のゾーニングを横断するように数点から数十点,局所的な測定を行った.また,同心円状構造を跨ぐように広域な測定も行った.室温での自然電位の測定では,黒鉱中の黄銅鉱のような導電性の良い鉱物は100µV以下の非常に小さな自然電位であり,導電性の悪い鉱物が多くを占める領域では500 ㎷程度まで大きく検出された.これは鉱物の導電性のほかに,サンプル内の微小な硫化物がそれぞれ異なる電位を持つことが原因と考えられる.温度勾配をかけた測定では2つのペルチェ素子の上にサンプルを置き,同心円構造の内側を加熱,外側を冷却し,熱水噴出孔付近と同じ方向に温度勾配を作った.最大約120 ℃まで加熱を行い,プローブ間距離が約1㎜で1℃の温度差がある状態で起電力を測定してp型およびn型のキャリアを判別した.
黒鉱は同心円構造の中心から2-4㎝に分布するチムニー内壁の黄銅鉱領域で円の外側に近い一部はp型であったが,大部分はn型であった.常温での測定と比べて数百µV大きい電位が観測され,黄銅鉱のSeebeck係数が室温から100℃程度の領域までおよそ-400µV/Kであるという先行研究の結果と一致した(辻井・森, 2017).同じレイヤー内でp型およびn型の黄鉄鉱が存在したのは,AsやCoなどの微量の不純物が含まれることで正孔と自由電子の濃度が変化し,半導体特性が変わっているためであると考えられる.円の内側の重晶石などからなる領域は電位が一定に定まらず,測定できなかった.一方,現世のチムニー試料では,内壁に析出した黄銅鉱はn型であるのに対して,外側の重晶石は電位が定まらなかった.一般的なアクティブチムニーにおいても,初期は硬石膏,ウルツ鉱,黄鉄鉱からなり,それらが外壁を作ることで内部の温度が上がり,黄銅鉱や方鉛鉱などの硫化鉱物が形成すると考えられる.その発達時に最も内側に黄銅鉱の層が形成されると,急激な温度勾配により熱起電力が発生するのではないかと考えられる. さらに,外側の温度が下がったことで硬石膏が溶解する.熱水噴出が止まることでデッドチムニーとなり全体の温度が下がることで閃亜鉛鉱や重晶石などが形成すると考えられている.本研究で観察したチムニー試料は内側に黄銅鉱の層がありその周りが重晶石からなるデッドチムニーの構造と一致していた.また,黒鉱はチムニーが海底に長時間埋没することで,初期の黄鉄鉱や重晶石が結晶成長し,密な構造になったと考えられる.本研究の結果は,非常に高い温度勾配をもつ海底のチムニーで熱起電力が発生しうること,また,黒鉱への組織改変過程において半導体特性と温度環境が変化するために,特定の時期に熱起電力を発生する可能性を示唆している.

参考文献
Yamamoto. et al. Deep-Sea Hydrothermal Fields as Natural Power Plants. ChemElectroChem, Vol.5, Issue 16, 2018, 2162-2166.
辻井・森. 鉱物由来の鉄硫化物に着目した熱電材料開発. J. Jpn. Soc. Powder and Powder Metallurgy, Vol. 64, No. 4, 2017, 173-179.