日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT42] 光ファイバーセンシング技術の地球科学への応用

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:荒木 英一郎(海洋研究開発機構)、江本 賢太郎(九州大学大学院理学研究院)、宮澤 理稔(京都大学防災研究所)、辻 健(東京大学大学院 工学研究科)、座長:辻 健(東京大学大学院 工学研究科)、宮澤 理稔(京都大学防災研究所)

10:45 〜 11:00

[STT42-05] 橋梁により連続的に生成される表面波のDAS記録を利用した浅部地盤構造モニタリング

*矢武 克啓1中原 恒1江本 賢太郎2西村 太志1 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座、2.九州大学大学院理学研究院 附属地震火山観測研究センター )


キーワード:DAS、表面波解析、受動震源

Distributed Acoustic Sensing (DAS) を用いた表面波解析は,既存の光ファイバーケーブルを利用できるためコスト面で優れた浅部地盤構造の推定手法である.既存の通信用ケーブルの多くは道路に埋設されているため,車をはじめとした人間活動由来の連続的なノイズが多数記録される傾向にある.それらは常時微動として地震波干渉法解析に使用されることが多いのに対して(e.g., Dou et al., 2017),受動震源として直接利用する事例は少なく,車(Yuan et al., 2020)や採石発破(Fang et al., 2020)など散発的な震源が利用されている.本研究では,走行する車両によって振動する橋梁が連続的に表面波を励起し,最大約 5 km にわたって伝播していることを発見した.そこで,橋梁を位置が固定された連続的な受動震源として考え,それにより励起される表面波の解析を行った結果を報告する.

 我々は,2022年3月28日から4月21日にかけて宮城県大崎市古川から大崎市鳴子温泉までの国道47号線直下に埋設されている光ファイバーケーブルを使用してDAS観測を実施した.インテロゲーターはSintela社のONYXを使用した.チャンネル間隔は 6.4 m,ゲージ長は 9.6 m,チャンネル数は 4855 (測線長約 31 km),サンプリング周波数は 200 Hz で記録した.本研究ではその観測データを使用した.

 橋梁に対応するチャンネルでは常に大きな振動が記録されており,特に新岩出山大橋(全長339m)の両端からは最大で約5 km にわたって定常的に伝播する表面波が観測された.新岩出山大橋の東側の約3 kmのチャンネルの記録に対し,Multichannel Analysis of Surface Waves (MASW) [Park et al., 1999] を用いて,1分毎に表面波の分散スペクトルを作成した. 1時間分,60枚の分散スペクトルを重合して平均し充分なS/N比が得られるようにした.また、1時間分のスタックを55サンプル(55分間分)オーバーラップさせながら,観測期間中(24日間)のDAS記録に対して5分ごとの連続的な分散スペクトルを得た.

 得られた分散スペクトルには,レイリー波の基本モードと思われるピークが 2 Hzから10 Hz に出現した.また,高次モードが 3 Hz から16 Hz にわたって安定的に見られた.使用するチャンネルを複数通り変えて同様の解析を行ったところ,得られる分散スペクトルには空間的な変化があまりなく,測線方向に比較的均質な地震波速度構造が示唆された.

この手法は,比較的交通量の多い大きな橋梁の近傍でのみ有効であるという制限はあるものの,1時間ごとに長期間にわたって浅部の地震波速度構造をモニタリングできる点は,既存の手法に比べて有利である.また,DASの観測点の空間的稠密性は分散スペクトル推定の時間分解能の向上に資していると考えられる.今後,この手法は特に大地震の発生や火山活動によって生じる地盤構造の高い時間分解能での測定などに向けた活用が期待できる.

謝辞
DAS観測にあたっては,国土交通省所有の光ファイバーを使用させていただくとともに,仙台河川国道事務所の方々に便宜を図っていただいた.