日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[U-11] 気圏・水圏・地圏にまたがる複合災害

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:佐山 敬洋(京都大学)、竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、座長:佐山 敬洋(京都大学)、竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)

14:45 〜 15:00

[U11-05] 関東地域のマルチハザードリスク評価

*前田 宜浩1秋山 伸一1、遠山 信彦1藤原 広行1、松山 尚典2時実 良典3 (1.防災科学技術研究所、2.応用地質株式会社、3.応用アール・エム・エス株式会社)

キーワード:大正関東地震、カスリーン台風、マルチハザードリスク評価

関東地域は地震、火山、気象等に関わる多種多様な自然災害に見舞われてきた。ここ100年を振り返っても、1923年大正関東地震や1947年カスリーン台風などによる大規模な災害が発生している。大正関東地震は、フィリピン海プレートの沈み込みに伴い関東直下で発生したプレート間地震であり、この地震により関東大震災が引き起こされた。この地震では、東京において大規模な火災により大きな被害が生じたことが知られているが、建物被害の観点からは震源域に近い相模湾から房総半島南部に亘る広い範囲で強い地震動が発生したと考えられている。また、震源から離れた埼玉県東部から東京東部においても強い揺れにより多くの住家被害が発生した。一方、カスリーン台風は1947年9月に発生し房総半島をかすめて通過したが、その際に台風の北部にあった温暖前線を関東西部から北部の山沿いに押し上げ大量の降水をもたらした。これらが河川に流出したことで、埼玉県北部では利根川が決壊し、埼玉県東部から東京都東部の中川沿いの低地部では浸水による大きな被害に見舞われた。
 これらの地震、気象に関わる巨大自然災害では、いずれも埼玉県東部から東京都東部の低地帯において大きな被害が生じている。微地形区分によれば、この低地部には、旧河道、三日月湖、自然堤防、後背湿地など過去の氾濫の痕跡が広く認められる。また、地震動シミュレーション用の詳細な地下構造モデルによれば、この地域では表層の平均S波速度が小さく、地震動が大きく増幅されることがわかっている。地震や台風といった自然現象と、地形や地盤モデルといった自然条件から、この地域では過去から何度も発生した河川氾濫によって形成された軟弱な地盤により地震動が増幅されるという関連性が見えてくる。更に、大正関東地震やカスリーン台風の発生当時と比べると、この地域の住宅、人口は大きく増加していることから、今後同様の地震・降水が生じた場合の災害規模がより大規模なものになる可能性が考えられる。
 こうした異なる種類の自然災害の影響を必然的に受け得る地域では、将来どのような自然災害が発生し、どのような対策が必要かを考えるために、多種多様な自然災害を影響度と切迫度の観点で比較し、起こりうる自然災害の全体像を俯瞰できるようにすることが有効である。影響度評価のために自然災害に関連するシミュレーション技術の高度化を進めるとともに、切迫度評価のために過去の自然災害の計測データや被害データ等を収集し地理空間情報と紐づけた可視化可能なカタログを整備し、これをもとに将来の災害発生可能性の検討を進める必要がある。本発表では、地震、火山、気象等に関わる自然災害を対象とした確率論的なマルチハザードリスク評価の取り組みについて報告する。
 本研究は防災科学技術研究所の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施した。