日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG40] 海洋と大気の波動・渦・循環の力学

2024年5月29日(水) 15:30 〜 16:45 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大貫 陽平(九州大学 応用力学研究所)、久木 幸治(琉球大学)、杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、松田 拓朗(北海道大学地球環境科学研究院)、座長:大貫 陽平(九州大学 応用力学研究所)、久木 幸治(琉球大学)、杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、松田 拓朗(北海道大学地球環境科学研究院)

16:15 〜 16:30

[ACG40-09] ラングミュア乱流が海面加熱時の混合層に及ぼす影響の波パラメータ依存性

*吉川 浩一朗1吉川 裕1牛島 悠介2 (1.京都大学大学院理学研究科、2.気象業務支援センター)

キーワード:海洋表層混合層、ラングミュア乱流

海洋表層には乱流により水温・塩分・密度が一様化された混合層が存在する。大気からの熱供給による水温変化はこの層全体で生じるため、混合層深度の大小が水温変化量を左右する。したがって混合層深度の正確な見積もりが、海面水温やそれに影響される大気現象の予測に不可欠であり、それは混合層の浅い春~夏季に特に顕著である。春~夏季における混合層内の乱流は、風応力による(風強制)シアー乱流と水面波と流れの相互作用による(波強制)ラングミュア乱流であり、海面加熱がこれらの乱流を抑制する。多くの大気海洋結合モデルでは波の高い南大洋の夏季混合層を過小評価する傾向があるが、Belcher et al.2012 では、それらモデルではラングミュア乱流の効果が適切に表現されていないこと、さらに波の高い南大洋においてはラングミュア乱流が混合層を深めている可能性があることを、波強制に対する風強制の指標であるラングミュア数 Lat = (U*/US0)1/2 (U*は風摩擦速度、US0は海面ストークスドリフト速度)を用いて指摘した。しかし、ラングミュア乱流が混合層をどれだけ深化させるかは定量的に示されていない。さらに、波の波長λや波向風向差 θww もラングミュア乱流の強度に影響することが他の先行研究(Kukulka and Harcourt 2017, Van Roekel et al.2012など)から示されているが、これらが混合層深化に与える影響についても不明である。したがって、ラングミュア乱流が海面加熱時にどれだけ混合層を深めるかは不明である。
そこで本研究では、どのような条件下でラングミュア乱流が海面加熱時の混合層をどの程度深化させるのかを調べることを目的とした。そのために、風強制(摩擦速度 U*)、波強制(海面ストークスドリフト速度 US0、水面波の波長 λ、波向風向差θww)、熱強制(B0)、緯度(f)をパラメータとして数値実験(LES)を行い、風、波、熱強制を与えて再現された混合層深度Dを、風、熱強制の下での混合層深度Dwindで割った値D/Dwindに注目して解析を行った。この値は、波強制が風と熱だけで形成される混合層をどれだけ深めたかを示す値である。そして風強制に対する波強制の強さを表す Lat-1 = (US0/U*)1/2、風強制に対する熱強制の強さを表す Z = |B0/U*2 f|、無次元化した波の波長R = λ/4πDwind、波向風向差 θww の4つの無次元数を変えた多くの実験を行い、様々な条件下での D/Dwindを調査した。本講演では、主にRへの依存性について述べる。
海面加熱時においても波強制を課した実験ではいずれも D/Dwind > 1 となり、波強制は混合層を深めることが分かった。しかし波の波長 (R) でも D/Dwind は変化し、R = 0.4 - 0.6 でD/Dwindが最大となることが分かった。この特徴的な依存性についてさらに調べるため、乱流運動エネルギー(TKE)の収支項について評価を行ったところ、波長が長い(Rが大きい)ほど、波による生成項は減少することが確認できた。これはストークスドリフト速度の鉛直シアーが、波長に反比例するからである。また、波長が短い(Rが小さい)と波によるTKE生成項は大きくなるが、大きな値は浅い部分に集中し、混合層の深化には貢献しないことが分かった。実際、深さで重みを付けた鉛直乱流流速を評価すると、R=0.4 - 0.6付近で最大となり、混合層深化に寄与する乱流が生じるのは、R=0.4 - 0.6であることが分かった。
さらに観測データや再解析データから推定されたラングミュア乱流を支配する四つの無次元数(Lat、Z、R、θww)と、数値実験結果で得られたこれらの無次元数に対する依存性をもとに、春季における D/Dwind を全球的に推定した。その結果、例えばBelcher et al.2012の示唆と同様に、南大洋では実際に波強制が強くなる頻度が高くD/Dwindも大きかったが、波長が混合層よりも短い(Rが小さい)ため、D/DwindはRを考慮するか否かで大きく値が変化した。
最後に先行研究で用いられてきた、海面加熱の強さを表す無次元数であるヘニッカー数Ho=|B0H/U*2US0|の妥当性を調べた。ここでHは長さスケールである。HにMin and Noh 2004などと同様に波長 λ を用いた場合、同じHoであっても緯度が異なると、混合層深度Dや、波の効果D/Dwindの値は大きく異なる場合があることが判明した。すなわち、このように定義したHoは海面加熱時のラングミュア乱流を表すパラメータとして不適切であるといえる。ヘニッカー数を用いてラングミュア乱流を分類するには、H=Dwindなど、fを組み込んだ長さスケールを用いれば良いことも明らかになった。