日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG06] 地球史解読:冥王代から現代まで

2024年5月29日(水) 15:30 〜 16:30 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、座長:吉田 聡(東北大学東北アジア研究センター)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)


15:30 〜 15:45

[BCG06-13] 白亜紀末隕石衝突直後の環境擾乱: K-Pg境界層の硫黄同位体組成からの制約

藤枝 菜央2、*丸岡 照幸1西尾 嘉朗3 (1.筑波大学・生命環境系、2.筑波大学大学院・地球科学学位プロ グラム 、3.高知大学・農林海洋科学部)

キーワード:大量絶滅、隕石衝突、酸性雨、硫酸エアロゾル

白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界における大量絶滅は巨大隕石の衝突が引きがねとなった。一方で、隕石衝突はあくまで引きがねであり、大量絶滅の直接的な要因は隕石衝突後の環境変動のはずである。巨大隕石衝突後の環境変動として(1) 隕石衝突で撒き散らされたダストによる太陽光遮断、それに伴う低温化、光合成停止、(2) 衝突地層からのSO2/SO3に起因する硫酸エアロゾルによる太陽光遮断、硫酸酸性雨、(3) 隕石、衝突破砕放出物と大気の相互作用(空力加熱)のよる高温化、それによる大規模山火事、その大規模山火事による煤による太陽光遮断、(4) 衝突地層から放出されたCO2もしくは大規模山火事によるCO2による温暖化が提案されている。これらの環境変動のうちどれがどの規模で起きたのかは現在でも明確になっていない。これらのいくつかは海洋における硫酸硫黄濃度やその同位体組成に影響を与えるため、K-Pg境界層の硫黄同位体組成をもとに隕石衝突直後に起きた環境変動に関して制約を加えることができる。
本研究ではデンマーク・Stevns Klintに露出する石灰岩試料の炭酸塩置換態硫酸(Carbonate-Associated Sulfate; CAS)、パイライトの硫黄同位体比 (δ34Ssulfate、δ34Ssulfide)を分析した。K-Pg境界層においてδ34Ssulfateとδ34Ssulfideの負の変位を見出した。CAS-δ34Sは海洋硫酸の硫黄同位体を反映する。K-Pg境界層におけるδ34Ssulfateの負の変位は海洋全体での有機物供給量の抑制による硫酸還元の弱化もしくは土壌風化促進による硫酸供給量の増加を示す。パイライトにはバクテリアによる硫酸還元により生成された硫化水素の硫黄同位体比が保存されている。バクテリアによる硫酸還元は硫黄同位体分別を伴い、その程度は硫酸還元が起きたローカルな環境に依存する。δ34Ssulfideの負変位の程度はδ34Ssulfateに比べて大きく、境界層の硫黄同位体分別が大きくなったことを示している。このことは温度低下もしくは有機物供給量の弱化で説明が可能である。