日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG25] 文化水文学

2024年5月27日(月) 13:45 〜 15:00 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、近藤 康久(総合地球環境学研究所)、高橋 そよ(琉球大学)、安原 正也(立正大学地球環境科学部)、座長:中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、安原 正也(立正大学地球環境科学部)、近藤 康久(総合地球環境学研究所)

14:00 〜 14:15

[HCG25-02] 本邦における天然炭酸水湧出地の地理的分布と商品化の歴史

*安原 正也1 (1.立正大学地球環境科学部)

キーワード:天然炭酸水、地質、起源、商品化、輸出品

火山周辺や領家帯・三波川帯を中心として,日本には二酸化炭素(CO2)の産出地が全国に分布する(福田ほか,1982).群馬県磯部や大阪府河内長野では,その高純度で大量の CO2の噴出をもって企業化された歴史もある(炭酸ガスやドライアイスの製造等).一方,CO2が地下水に吹き込み,その地下水が地上に湧出したものが天然炭酸水である.日本人は古くから天然炭酸水を浴用には使用してきたが,飲用としては馴染みの少ないものであったようである.しかし,明治時代にはいり,各国の大使館や外国人が利用するホテル・レストラン,さらには“赤道を越えても腐らない安全な水”として海外航路の船舶への販売を目的に,全国で天然炭酸水の商品化・企業化が始まった.宮城県実沢,福島県金山,京都府笠置,兵庫県布引・宝塚・有馬・平野・籠坊,島根県頓原など,多くの例をあげることがでる.当時は消費地(東京,横浜,大阪,神戸等)までの距離と輸送手段,未熟な瓶詰方法(封入不備によるCO2の漏出)といった問題があり,比較的短期間で事業を終えた例もある一方で,近くに神戸港を抱え,海外に販路を求めた兵庫県の天然炭酸水のように大きな成功をおさめたケースもある.鈴木(2021)によると,1911年に輸出された25万ダースのうち94%が神戸港からのものであり,そのほとんどが宝塚・布引・平野の炭酸水であったとされている.輸出先はフィリピン,シンガポール,中国が主であったが,北米,ヨーロッパ,オーストラリア等にも輸出されたようである(鈴木,2021).すなわち,天然炭酸水は商品化の初期の段階からグローバル商品としての側面を有しており,変動帯に位置する日本にとっては同じく“地の恵”とも言える「山塩(陸塩)」(安原,2023)とはこの点で対照的である.
 天然炭酸水の炭酸成分,すなわち含有されるCO2については古くは火山ガスがその起源と考えられてきた.宝塚の天然炭酸水の初期のボトルに’Bottled at the volcanic spring Takaradzuka’と表示されていることからもわかる.時代が降って1980年前後になると,第四紀火山から離れた兵庫県の各所,また京都府や大阪府南部に湧出する天然炭酸水(CO2)の起源が疑問視されるようになったものの,福田(1982)が「各地において新しい火山とは無関係に二酸化炭素を主成分とする天然ガスが湧出していることが知られている・・・(中略)上に述べたような二酸化炭素の産出の理由については解答はなに1つ浮かんでこない」と述べているように,CO2の起源は依然として不明のままであった.2000年代に入ると同位体地球化学の発展によって,このような前弧域におけるCO2の起源として,大陸プレートの下に沈み込む海洋プレート(スラブ)から脱水した流体がその起源であることが明らかになりつつある(たとえば,Jarrard, 2003; Kusuda et al., 2014).当日は,全国の天然炭酸水(CO2)の性状と起源に関する最近の研究成果についても併せて紹介したい.