[H-DS09] 人間環境と災害リスク

[HDS09-10] 令和６年能登半島地震における富来川南岸断層の活動とその意義

★招待講演

*鈴木 康弘¹、渡辺 満久² (1.名古屋大学、2.東洋大学)

キーワード：令和6年能登半島地震、活断層、地震断層、富来川南岸断層

富来川南岸断層（活断層研究会,1981）は太田ほか（1976）により、最終間氷期の海成段丘の高度分布の不連続を根拠に認定された北東―南西走向の活断層である。渡辺ほか（2015）はさらに新旧の海成段丘面の高度分布からその活動を再認識している。その位置は富来川沿いの低地南縁付近と考えられるが、低断層崖等の明瞭な断層変位地形を伴わないため、中田・今泉（2002）等では明確に示されていなかった。
令和６年能登半島地震に伴い、この断層が想定される北東－南西方向の線上に変位量数十センチ以下の地変が生じた。その地表変形は緩やかに断層の南東側が撓み上がり、上下変位量は数十センチ以下で、10～数10cm程度の左横ずれを伴った。変位量が小さいため、地表の被覆状態により変形が現れたり現れなかったりするが、延長3km程度の範囲内に５箇所程度、確実な変形が確認される。それらは路面の変形、水田上の断裂の連続、ブロック塀の変形等である。断層トレースに沿う地域の建物被害は著しい。断層トレースは富来川河口付近を通過し、南東の領家漁港付近や富来川左岸において約30cm程度の隆起が確認される。そのため断層はさらに南西海域へ延びる可能性がある。
能登半島北部の広い範囲でSARの干渉縞のパターンの不連続が見出されるが、富来川南岸断層が出現した位置も、これと矛盾しない。また、地表の地変はLiDARデータの地震前後の上下差分にも現れている。

意義：
今回確認された左横ずれは、広域的な通常の東西圧縮とは合わない。M7.6の地震を起こした能登半島北岸の海底活断層の活動に伴う南北圧縮が引き金になった可能性が考えられる。またGNSSの西方への水平移動量がこの断層の北方の富来で大きく（86.9cm）、南方の志賀で小さい（8.6cm）ことと矛盾しない。このことから、富来川南岸断層の変位は本震に伴う付随的なものである可能性があるが、単なる揺れによる誘発ではないと考えられる。
なお、この断層の南方9kmに志賀原発が位置し、その安全審査において長年存在が否定されてきていたが、2023年10月の原子力安全委員会への報告において、重力異常の不連続を根拠に長さ9kmの活断層として認定されていた。