11:30 〜 11:45
[HDS09-09] 令和6年能登半島地震に伴う能登半島北部における津波浸水と遡上高の分布
キーワード:令和6年能登半島地震、津波、遡上高、GIS
1.はじめに
2024年1月1日16時10分,石川県能登地方においてマグニチュード7.6の地震が発生し,気象庁によって令和6年能登半島地震と命名された(気象庁,2024a).この地震に伴って発生した津波は北海道から長崎県までの日本海側で観測された(気象庁,2024b).
令和6年能登半島地震に伴う津波の分布や痕跡高,遡上高については,現地調査が行われ,その結果が速報された(石山ほか,2024;土木学会海岸工学委員会,2024;気象庁,2024c).しかし,これらの結果では調査地点が限られ,津波浸水範囲や遡上高の分布や特徴を議論することができない.このような課題に対して,過去の大規模災害では,空中写真を広範囲において判読することにより,広域で生じた現象の分布や特徴が明らかにされてきた(松多ほか,2012;Goto et al, 2019など).そこで発表者らは,津波による浸水範囲の迅速な把握,災害対応や被害の原因解明に資するデータの提供を目的として,作業チームを立ち上げ,空中写真判読に基づいて津波浸水分布図を作成し,日本地理学会webサイトを通じて公開してきた(令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会),2024a).
本発表では,顕著な津波浸水被害が認められた能登半島北部における津波浸水および遡上高の分布と特徴について,高解像度空中写真の判読と現地調査に基づいて報告する.
2.調査方法
津波浸水範囲の分布を明らかにするため,国土地理院によって撮影,公開された空中写真および国土地理院から貸与を受けた高解像度空中写真を実体視判読した.また,空中写真の撮影範囲外の地点については,報道機関が撮影した空撮映像も適宜利用した.判読した範囲は,七尾市佐々波から志賀町高浜町にかけての海岸線および輪島市舳倉島南部の海岸線の延長約370 kmである.判読の際には,津波によって運ばれたと考えられる漂流物や砂泥を指標として津波浸水の有無を判読し,QGISのデジタイジング機能を用いて津波浸水範囲をポリゴンデータとしてマッピングした.
また,マッピングした津波浸水範囲を用いて津波遡上高の分布を検討した.津波浸水範囲のポリゴンデータのうち,内陸側の線を遡上限界とみなして,線上に10 m間隔でポイントデータを発生させた.発生させたポイントデータに標高データの値を属性として付与し,津波遡上高とした.使用した標高データは1 mおよび5 m間隔の数値標高モデルである.
3.津波浸水範囲の分布とその特徴
津波浸水は能登半島の東岸と西岸,および舳倉島において認められた.津波浸水範囲の面積は約1.9 km2である.このうち,珠洲市正院町から能登町白丸にかけての地域および輪島市舳倉島では,標高2〜3 mの低地において家屋の流失や損壊を伴う津波浸水が認められた.また,能登町新保から穴水町甲にかけての地域および七尾市能登島,志賀町では小規模な津波浸水が複数地点で認められた.一方で,珠洲市川浦町から志賀町前浜までの能登半島北岸から北西岸にかけての地域では,津波の浸水がほとんど認められなかった.津波浸水範囲の分布は,地震時の隆起により離水した波食棚の分布と相補的な関係にあるため(令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会),2024b),地震時の隆起量が大きかった地域では隆起量が津波高を上回ったことで津波浸水が陸上に及ばなかったと考えられる.
4.津波遡上高の分布とその特徴
能登半島北東岸の珠洲市三崎町や珠洲市宝立町,能登町白丸,能登町鵜川では,遡上高が4 mを超えている.また,輪島市舳倉島では遡上高が5 m弱にまで達していた可能性がある.本調査は予稿投稿時にも継続中であり,当日は高解像度空中写真の判読および現地調査の結果を踏まえて発表を行う予定である.
謝辞:本研究の一部は科学研究費基金研究活動スタート支援「モバイルLiDARを用いた突発的地形災害への革新的な調査手法の開発」(課題番号:23K18735,研究代表者:岩佐佳哉)の助成により実施した.国土地理院には空中写真を迅速に撮影・公開していただいたほか,高解像度空中写真の貸与を受けた.記して感謝申し上げます.
文献:気象庁(2024a)https://www.jma.go.jp/jma/press/2401/01b/kaisetsu202401011810_2.pdf.気象庁(2024b)https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/tsunami_bosai/img/tsunami_sokuhou.pdf.石山ほか(2024)https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/news/20465/.土木学会海岸工学委員会(2024)https://coastal.jp/session20240127/.気象庁(2024c)https://www.jma.go.jp/jma/press/2401/26a/20240126_tsunamichousakekka.pdf.松多ほか(2012)E-journal GEO,7,214-224.Goto et al. (2019) Journal of Disaster Research, 14 894-902.令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会)(2024a)http://disaster.ajg.or.jp/files/202401_Noto009.pdf.令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会)(2024b)http://disaster.ajg.or.jp/files/202401_Noto008.pdf.
2024年1月1日16時10分,石川県能登地方においてマグニチュード7.6の地震が発生し,気象庁によって令和6年能登半島地震と命名された(気象庁,2024a).この地震に伴って発生した津波は北海道から長崎県までの日本海側で観測された(気象庁,2024b).
令和6年能登半島地震に伴う津波の分布や痕跡高,遡上高については,現地調査が行われ,その結果が速報された(石山ほか,2024;土木学会海岸工学委員会,2024;気象庁,2024c).しかし,これらの結果では調査地点が限られ,津波浸水範囲や遡上高の分布や特徴を議論することができない.このような課題に対して,過去の大規模災害では,空中写真を広範囲において判読することにより,広域で生じた現象の分布や特徴が明らかにされてきた(松多ほか,2012;Goto et al, 2019など).そこで発表者らは,津波による浸水範囲の迅速な把握,災害対応や被害の原因解明に資するデータの提供を目的として,作業チームを立ち上げ,空中写真判読に基づいて津波浸水分布図を作成し,日本地理学会webサイトを通じて公開してきた(令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会),2024a).
本発表では,顕著な津波浸水被害が認められた能登半島北部における津波浸水および遡上高の分布と特徴について,高解像度空中写真の判読と現地調査に基づいて報告する.
2.調査方法
津波浸水範囲の分布を明らかにするため,国土地理院によって撮影,公開された空中写真および国土地理院から貸与を受けた高解像度空中写真を実体視判読した.また,空中写真の撮影範囲外の地点については,報道機関が撮影した空撮映像も適宜利用した.判読した範囲は,七尾市佐々波から志賀町高浜町にかけての海岸線および輪島市舳倉島南部の海岸線の延長約370 kmである.判読の際には,津波によって運ばれたと考えられる漂流物や砂泥を指標として津波浸水の有無を判読し,QGISのデジタイジング機能を用いて津波浸水範囲をポリゴンデータとしてマッピングした.
また,マッピングした津波浸水範囲を用いて津波遡上高の分布を検討した.津波浸水範囲のポリゴンデータのうち,内陸側の線を遡上限界とみなして,線上に10 m間隔でポイントデータを発生させた.発生させたポイントデータに標高データの値を属性として付与し,津波遡上高とした.使用した標高データは1 mおよび5 m間隔の数値標高モデルである.
3.津波浸水範囲の分布とその特徴
津波浸水は能登半島の東岸と西岸,および舳倉島において認められた.津波浸水範囲の面積は約1.9 km2である.このうち,珠洲市正院町から能登町白丸にかけての地域および輪島市舳倉島では,標高2〜3 mの低地において家屋の流失や損壊を伴う津波浸水が認められた.また,能登町新保から穴水町甲にかけての地域および七尾市能登島,志賀町では小規模な津波浸水が複数地点で認められた.一方で,珠洲市川浦町から志賀町前浜までの能登半島北岸から北西岸にかけての地域では,津波の浸水がほとんど認められなかった.津波浸水範囲の分布は,地震時の隆起により離水した波食棚の分布と相補的な関係にあるため(令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会),2024b),地震時の隆起量が大きかった地域では隆起量が津波高を上回ったことで津波浸水が陸上に及ばなかったと考えられる.
4.津波遡上高の分布とその特徴
能登半島北東岸の珠洲市三崎町や珠洲市宝立町,能登町白丸,能登町鵜川では,遡上高が4 mを超えている.また,輪島市舳倉島では遡上高が5 m弱にまで達していた可能性がある.本調査は予稿投稿時にも継続中であり,当日は高解像度空中写真の判読および現地調査の結果を踏まえて発表を行う予定である.
謝辞:本研究の一部は科学研究費基金研究活動スタート支援「モバイルLiDARを用いた突発的地形災害への革新的な調査手法の開発」(課題番号:23K18735,研究代表者:岩佐佳哉)の助成により実施した.国土地理院には空中写真を迅速に撮影・公開していただいたほか,高解像度空中写真の貸与を受けた.記して感謝申し上げます.
文献:気象庁(2024a)https://www.jma.go.jp/jma/press/2401/01b/kaisetsu202401011810_2.pdf.気象庁(2024b)https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/tsunami_bosai/img/tsunami_sokuhou.pdf.石山ほか(2024)https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/news/20465/.土木学会海岸工学委員会(2024)https://coastal.jp/session20240127/.気象庁(2024c)https://www.jma.go.jp/jma/press/2401/26a/20240126_tsunamichousakekka.pdf.松多ほか(2012)E-journal GEO,7,214-224.Goto et al. (2019) Journal of Disaster Research, 14 894-902.令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会)(2024a)http://disaster.ajg.or.jp/files/202401_Noto009.pdf.令和6年能登半島地震変動地形調査グループ(日本地理学会)(2024b)http://disaster.ajg.or.jp/files/202401_Noto008.pdf.