11:15 〜 11:30
[HDS09-08] 南海トラフ巨大地震時の新たな文明災リスクの考察:リニア中央新幹線の地震被災
キーワード:南海トラフ巨大地震、リニア中央新幹線、地震被害、文明災
●はじめに: 現代社会の自然災害では、過去にはなかった文明災が重なって、災害がより複雑化・深刻化することがある。東日本大震災の際の福島第一原発災害がその顕著な例である。本講演では、将来の南海トラフ巨大地震(M8〜9)による超広域大震災の際に、リニア中央新幹線の地震被害が新たな文明災リスクになる可能性を考察する。
●リニア中央新幹線の概要: 本線(以下「リニア」と略記)は、JR東海が東京・大阪間に計画している超電導磁気浮上方式の路線である。現在、品川・名古屋間285.6kmで工事が進められている(開業時期は2027年以降)。最高設計速度は時速505km、両地を最短約40分で結ぶ。リニアはU字型のガイドウェイの内側を約10cm浮上して走行し、左右も電磁力によってガイドウェイの中央に保持されるので(ただし、ガイドウェイと車両の間隙は数cm)、地震時にも脱線しないという。また、品川・名古屋間の約86%がトンネルであり、一般に地下は地震動が小さいという理由で地震に強いとされている。
●南海トラフ巨大地震による被害の可能性: しかしリニアは、路線の大部分が、南海トラフ巨大地震(リニアの工事中か供用中―ほぼ今世紀いっぱい―には発生すると考えるのが妥当)で震度6弱以上と予測される地域を通るから、相当の被害を受ける可能性がある。リニアの営業運転時間帯にこの地震が発生すれば、早期地震警報システムによって全列車が必ず減速・停止に向かうが、時速150km程度以下になると浮上と左右案内の電磁力が弱くなり、支持車輪による接地走行となる。時速500kmから停止するまでに70〜90秒かかるので、時速100km前後で車輪走行中の何本かの列車が、在来鉄道と同様の形で激しい揺れに襲われる。その結果、車両がガイドウェイと激しく接触し、ガイドウェイ側壁を破壊してガイドウェイ外に飛び出すこと(脱線)も起こりうるだろう。甲府盆地や名古屋周辺のリニア路線では震度6強以上の揺れも予想され、強震動継続時間が長いから、リニアの土木構造物が損壊する恐れもある。大深度地下トンネルや山岳トンネルでも、地質条件によっては地震動が強く、広範囲の歪・応力変化も必ず生ずるので、地下水の変動や深部の液状化なども生じて、とくに断層破砕帯などで路盤やトンネルの損壊、高圧水の噴出などがありうる。大規模な斜面崩壊による列車や路線や非常口の埋没、非常口のアクセス道路の崩壊なども否定できない。電力施設や駅施設や車両基地なども被害を受ける可能性がある。伊勢平野・奈良盆地を通る名古屋・大阪間でも、強震動と地震時地殻変動による被害が名古屋以東より激しい可能性がある。要するに、南海トラフ巨大地震によって、リニア路線のほぼ全域で多種多様な大被害〜小被害が同時多発すると推測される。
●震災地への多大な負担: リニアが通る山梨・静岡・長野・岐阜・愛知・三重・奈良・大阪の府県では、南海トラフ巨大地震によって大震災が生じる。東京・神奈川の都県も場合によっては大きな被害を受ける。しかし、それぞれの都府県内でリニアが地震被害を受ければ、沿線自治体は事故対応を迫られる。列車に被害がなくても、全列車が緊急停止して全乗客が避難するから(1編成の定員は1000人弱)、その支援や受入が必要になる。余震も続くなかでの大深度地下トンネルや山岳トンネルからの脱出は、在来鉄道より格段の困難が予想され、場合によっては多数の閉じ込めもありうる。つまり、南海トラフ大震災の真っ只中で、大型旅客機の墜落事故が同時発生したような状況になる。その結果、各自治体は本来の震災対応と被災住民の救援・救出が著しく阻害され、震災の増幅も起こりかねない。そもそも、各都府県の「地域防災計画」において、「地震・津波災害対策」と「大規模事故災害対策」が遊離していることが多いようである。したがって、リニアについてはJR東海に基本的責任を十分に持ってもらう(専門の救助隊の常備など)とともに、「防災基本計画(中央防災会議)―地域防災計画」の内容を抜本的に見直す必要があるだろう。政府には、南海トラフ巨大地震災害の被害最小化とリニア乗客の安全確保の両面について、重大な責任がある。なお、リニアは全路線の大部分がトンネルであることから、南海トラフ巨大地震および活断層地震による大事故の際に多くの救出困難者が生ずることもあると予見される。よって、乗客を把握するために乗客名簿の作成・保管を義務づけるべきであろう。
●付記: リニア工事に伴う掘削残土・工事用道路・地形改変などが、南海トラフ大震災時ないし地震以外の時期(集中豪雨時など)に、工事がなければ起こるはずのない大災害をもたらす危険性もあり、大きな問題である。
●リニア中央新幹線の概要: 本線(以下「リニア」と略記)は、JR東海が東京・大阪間に計画している超電導磁気浮上方式の路線である。現在、品川・名古屋間285.6kmで工事が進められている(開業時期は2027年以降)。最高設計速度は時速505km、両地を最短約40分で結ぶ。リニアはU字型のガイドウェイの内側を約10cm浮上して走行し、左右も電磁力によってガイドウェイの中央に保持されるので(ただし、ガイドウェイと車両の間隙は数cm)、地震時にも脱線しないという。また、品川・名古屋間の約86%がトンネルであり、一般に地下は地震動が小さいという理由で地震に強いとされている。
●南海トラフ巨大地震による被害の可能性: しかしリニアは、路線の大部分が、南海トラフ巨大地震(リニアの工事中か供用中―ほぼ今世紀いっぱい―には発生すると考えるのが妥当)で震度6弱以上と予測される地域を通るから、相当の被害を受ける可能性がある。リニアの営業運転時間帯にこの地震が発生すれば、早期地震警報システムによって全列車が必ず減速・停止に向かうが、時速150km程度以下になると浮上と左右案内の電磁力が弱くなり、支持車輪による接地走行となる。時速500kmから停止するまでに70〜90秒かかるので、時速100km前後で車輪走行中の何本かの列車が、在来鉄道と同様の形で激しい揺れに襲われる。その結果、車両がガイドウェイと激しく接触し、ガイドウェイ側壁を破壊してガイドウェイ外に飛び出すこと(脱線)も起こりうるだろう。甲府盆地や名古屋周辺のリニア路線では震度6強以上の揺れも予想され、強震動継続時間が長いから、リニアの土木構造物が損壊する恐れもある。大深度地下トンネルや山岳トンネルでも、地質条件によっては地震動が強く、広範囲の歪・応力変化も必ず生ずるので、地下水の変動や深部の液状化なども生じて、とくに断層破砕帯などで路盤やトンネルの損壊、高圧水の噴出などがありうる。大規模な斜面崩壊による列車や路線や非常口の埋没、非常口のアクセス道路の崩壊なども否定できない。電力施設や駅施設や車両基地なども被害を受ける可能性がある。伊勢平野・奈良盆地を通る名古屋・大阪間でも、強震動と地震時地殻変動による被害が名古屋以東より激しい可能性がある。要するに、南海トラフ巨大地震によって、リニア路線のほぼ全域で多種多様な大被害〜小被害が同時多発すると推測される。
●震災地への多大な負担: リニアが通る山梨・静岡・長野・岐阜・愛知・三重・奈良・大阪の府県では、南海トラフ巨大地震によって大震災が生じる。東京・神奈川の都県も場合によっては大きな被害を受ける。しかし、それぞれの都府県内でリニアが地震被害を受ければ、沿線自治体は事故対応を迫られる。列車に被害がなくても、全列車が緊急停止して全乗客が避難するから(1編成の定員は1000人弱)、その支援や受入が必要になる。余震も続くなかでの大深度地下トンネルや山岳トンネルからの脱出は、在来鉄道より格段の困難が予想され、場合によっては多数の閉じ込めもありうる。つまり、南海トラフ大震災の真っ只中で、大型旅客機の墜落事故が同時発生したような状況になる。その結果、各自治体は本来の震災対応と被災住民の救援・救出が著しく阻害され、震災の増幅も起こりかねない。そもそも、各都府県の「地域防災計画」において、「地震・津波災害対策」と「大規模事故災害対策」が遊離していることが多いようである。したがって、リニアについてはJR東海に基本的責任を十分に持ってもらう(専門の救助隊の常備など)とともに、「防災基本計画(中央防災会議)―地域防災計画」の内容を抜本的に見直す必要があるだろう。政府には、南海トラフ巨大地震災害の被害最小化とリニア乗客の安全確保の両面について、重大な責任がある。なお、リニアは全路線の大部分がトンネルであることから、南海トラフ巨大地震および活断層地震による大事故の際に多くの救出困難者が生ずることもあると予見される。よって、乗客を把握するために乗客名簿の作成・保管を義務づけるべきであろう。
●付記: リニア工事に伴う掘削残土・工事用道路・地形改変などが、南海トラフ大震災時ないし地震以外の時期(集中豪雨時など)に、工事がなければ起こるはずのない大災害をもたらす危険性もあり、大きな問題である。