日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 防災リテラシー

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)


17:15 〜 18:45

[HDS10-P04] 桜島火山観測所による市民参加型減災コミュニケーション

*阪本 真由美1中道 治久2 (1.兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科、2.京都大学防災研究所)

キーワード:火山観測所、桜島、減災コミュニケーション

本研究では、火山観測情報をどのように市民の防災リテラシーに活用することができるのか、大学の附置施設である火山観測所によるオープンサイエンスの実践事例から検討する。火山噴火は「いつ」「どこで」「どのように」起こるのかを正確に知ることが難しい不確実性を伴う現象であり、そのような現象に対する市民のリテラシーを深めるには、災害対応に関係する関係者間のコミュニケーションが重要になる。
火山について豊富な知見を有する機関の一つが、火山観測所である。このうち大学の火山観測所については、京都大学火山研究センター(1928年設立)、京都大学桜島火山観測所(1960年設立)、東京大学地震研究所霧島火山観測所(1963年設立)、等の長い観測の歴史を有するところがある。これらの観測所は、火山の常時観測を行うとともに、主に地球物理学的な観点から現象を解析・分析し得られた成果を研究や教育に活かすための取り組みを行っている。そこで本研究では、大学の観測所が市民の防災リテラシーにどのような役割を担うことができるのか、日本の火山のなかでも最も活発な火山活動を続ける桜島の観測を行う京都大学桜島火山観測所の取り組みから検討する。
桜島火山観測所は、京都大学防災研究所の附属施設として1960年12月に設立された。桜島では1955年10月の南岳山頂爆発を契機に火山活動が活発化した。噴火の被害拡大を心配した地域住民の要請により、観測・調査を行った京都大学教授の佐々憲三は、噴火が長期化することから継続的に火山を観測、調査研究する施設が必要であることを文部省に働きかけ、それにより観測所は設置された。
活発な噴火を続ける桜島火山観測所に対する市民の関心は高い。その一方で、観測所は常時火山観測を行なっており精密な観測機器を扱っていることや、施設スペースが限られていること、職員の業務的な制約もあり、観測所施設を市民に常時公開することは難しい。そこで、市民に向けた情報公開の取り組みとして、①リアルタイム観測データを観光客が多数訪れる桜島ビジターセンターで公開する、②施設公開ツアーを年に1回実施している。本研究ではこれらの取り組みの実践の特徴を、防災リテラシーの観点から検討することにした。
まず、桜島ビジターセンターのリアルタイムの観測データ公開であるが、桜島ビジターセンターは、桜島フェリー乗り場の近くに位置する鹿児島県の施設であり、NPO(桜島ミュージアム)により運営されている。ビジターセンターには、桜島噴火の歴史、自然環境、地域の人々の暮らしについての展示があり、その展示の一角で、桜島火山観測所によるリアルタイムの観測データを表示するモニターが設置されている。モニターの横には、公開されているデータが具体的にどの観測機器によるものなのか解説したパネルが桜島ミュージアムにより設置されており、過去の噴火の観測記録とともに展示されている。
次に、桜島火山観測の施設公開であるが、観測所は京都大学の教育研究施設公開(京大ウィークス)の一環として、一般向けに施設を公開している。2023年7月22日に実施された施設公開は、桜島・錦江湾ジオパークでガイドの企画運営を行なっている「桜島ジオサルク」と連携して行われた。施設公開は人気であり定員80名に対し284名の応募があった。ツアー応募者の内訳は桜島3%(9名)、鹿児島市内(桜島を除く)61%(175名)、鹿児島県内25%(73名)、県外9%(27名)と応募者の多くは地元の鹿児島市内の人であった。
これら火山観測所による観測データの公開や施設公開の取り組みは、観測所と多様な団体(桜島ミュージアムや桜島ジオサルク等)と連携して行われており、市民との新たな対話の場を創出することにつながっていた。また、多様な団体との連携することにより、観測所に関する情報が解釈され、わかりやすく住民に伝えられている特徴があった。このことは防災リテラシーにおける、研究者と市民との「境界」を繋ぐ「境界地作業者」の存在が重要であることを示唆している。