日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG02] 自然資源・環境に関する地球科学と社会科学の対話

2024年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、古市 剛久(森林総合研究所)、佐々木 達(法政大学)、座長:大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、古市 剛久(森林総合研究所)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)


11:30 〜 11:45

[HGG02-09] Rethinking "community-based" resource management: Mobile, transient and muliti-sited lives in Southeast Asia

*小泉 佑介1、祖田 亮次2 (1.一橋大学、2.大阪公立大学)

キーワード:コミュニティ、移動性、資源管理、東南アジア

東南アジアにおける様々な(農村)開発プロジェクトにおいて,コミュニティ・ベースという言葉が頻繁に用いられていれるが,多くの研究者が指摘しているように,このような定型的で規範的な概念で地域社会を捉えることには限界がある。中でも開発プロジェクトにおける「コミュニティ」概念が抱える大きな課題の1つは,地理的な空間を固定的なものとして捉え,文化的な結びつきの強い定住的な社会を念頭に置いており,さらにはそれを「理想的な」ものとして捉えているため,流動的な生活スタイルやmulti-sitedな生業の在り方には大きな関心を払ってこなかったことにある。本発表が注目する東南アジアのボルネオ島やスマトラ島といった人口希薄な森林フロンティアに目を向ければ,広範な地域を移動しながら生活する人々や,コミュニティの構成員が頻繁に入れ替わるような開拓社会が各地に見られ,そこでは一定の人口規模を維持していたコミュニティが次の世代には跡形もなく消えてしまっているようなことさえある。東南アジアにおける開発プロジェクトをより前進させていくためには,こうした一定の地理的範囲を1つの生活基盤としながらも,そこに縛られない人々の生き方をどのように取り込むのかがキーファクターの1つになってくるだろう。
本発表では,定住を前提とした「コミュニティ」概念を批判的に検討しつつ,東南アジアの森林フロンティアにおける人々の生き方を「transient」という観点から捉え,既存の「コミュニティ」概念の再構築を試みる。ここでのtransientとは,人々が必ずしも特定の場所に縛られないような生き方を想定している。ボルネオ島やスマトラ島では,こうしたtransientな生き方が世代を超えて受け継がれており,現代においても様々な場面でその一端が見え隠れしている。その好例の1つとして,本稿が注目するのは,1980年代からボルネオ島やスマトラ島で急速に拡大するアブラヤシ・プランテーションと,それに呼応するかたちで焼畑地や未利用地でアブラヤシ栽培を始めた小農たちである。
 アブラヤシは永年性作物であり,栽植して4年経った後の約20年間は毎月2度の定期的な収穫作業が必要となるため,小農たちは自らの農地(管理)を軸とした生活を送っているように考えられがちである。一方,アブラヤシは病虫害に強く,定期的な除草や施肥をおこなう必要はあるものの,獣から果実を食べられる心配はなく(人に盗まれるということはあるが),農地管理に割く時間はきわめて少ない。また,小農たちは一定の面積を越えると労働者を雇う傾向にあり,自らは農園経営者としてマネジメント役に回るため,個人や世帯で広大な面積の農園を経営することも可能であるし,平日に都市で仕事をして週末に農地管理をするといったスタイルも少なくない。すなわち,小農の「生活圏」はアブラヤシの生産現場とは必ずしも合致していないのだ。このような植物特性を持つアブラヤシは,transientな生き方を好む人々にとって相性の良い作物であるといえよう。本稿ではこうしたアブラヤシ小農の生業を「transient」という視点から分析することによって,開発プロジェクトにおける「コミュニティ」概念の再構築を試みる。