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[HQR05-03] バイオマーカーからみた中国河姆渡文化期とそれ以前の姚江平野における気候・植生変化

キーワード:河姆渡遺跡、稲作、考古学、バイオマーカー
イネの栽培化は約5000年前までに中国長江下流域の新石器文化で達成されたと考えられている.姚江平野の形成とともに出現した河姆渡文化(約7000 – 5000 年前)では盛んな稲作の結果として大きく栽培化が進行した.この稲作と環境変遷の関係に注目した多数の研究が行われている.しかし,信頼性のある年代決定が行われた気候,植生復元は不足しており,この問題の理解を妨げている.本研究では,遺跡近傍堆積物からバイオマーカーを用いて高時間分解能の古環境情報を得てこれを微化石群集解析と比較した.そして気候変化と植生史および生活史の関係を詳細にかつ総合的に議論した.
本研究では,田螺山遺跡近傍(TKサイト)および河姆渡遺跡北方平野部(HKサイト)のボーリングコア試料中に含まれる植物片・貝殻の 14C 年代,イネ科植物起源の5環トリテルペンメチルエーテル(PTMEs),グリセロールジアルキルグリセロールテトラエーテル(GDGTs),燃焼起源化合物の多環芳香族炭化水素(PAHs),長鎖脂肪酸のδDおよびδ13Cの分析を行い,河姆渡文化期とそれ以前の姚江平野の古環境復元,気候復元を行った.同試料のプラントオパール(宇田津ほか),花粉,珪藻(金原ほか)の分析結果と比較した.
両コアの水田層(TK: 7000-6400BP, 6200BP以降; HK: 6800-6700BP)でArundoinとCylindrinの含有量とPTMEsに対する割合が大きかった.TKコアの河姆渡文化以前(8200-7400 BP)でも[Cylindrin] / [Arundoin]の値がHK水田層での値と近い値であった.ArundoinとCylindrinはイネ属で検出されているPTMEsである.近年河姆渡文化以前の層でイネ属の花粉やプラントオパールが報告されていたが,バイオマーカーで新たなイネ属植生記録を得ることができた.
HKコア水田層のGDGTs組成からGDGT-0,1,2,3の含有量とGDGTsに対する割合が高かった.メタン生成アーキアはGTGT-0を産生しメタン栄養アーキアはGDGT-0,1,2,3を産生する.これらのアーキアは水田に生息する.このことから水田があったという考えを支持できた.
HKコアのPAHsの結果,水田層ではReten含有量が大きかった.DMP – x は水田層下部で小さく水田層上部で大きかった.Retenは針葉樹の燃焼によって生じる.DMP – xは燃焼物質が木材であるときに小さい値をとり,葉・茎で大きい値をとる.Phenanthrene/Anthanthrene, Benz[a]anthracene/Chryseneの値は水田層のみで稲藁燃焼時に近い値を示した.樹木の燃焼は火による伐採と関係があるといえる.稲藁の燃焼は収穫残渣の焼却であると考えられ,これは馬家浜文化の研究より古い.
本研究の高解像度な脂肪酸δD値から2枚の水田層の開始期である7Ka,6Ka前後では小さい値をとっていた.この地域の降水のδDは湿潤な気候のときに小さくなる.稲作開始時の気候が湿潤であったことがいえた.この結果は長江下流域の花粉記録に基づく低解像度な古気候復元(J. Y. Li et al., 2018)と一致する.我々の得た結論は乾燥化によって稲作が始まったとするPatalano et al. (2015)とは全く逆である.
以上の結果は河姆渡文化とそれ以前の姚江平野の古環境を高解像度で復元したものであり,栽培化プロセスと新石器文化の理解に重要な役割を果たしている.
引用文献
Li, J., Dodson, J., Yan, H., Wang, W., Innes, J. B., Zong, Y., Zhang, X., Xu, Q., Ni, J., & Lu, F. (2018). Quantitative Holocene climatic reconstructions for the lower Yangtze region of China. Climate Dynamics, 50(3-4), 1101-1113. https://doi.org/10.1007/s00382-017-3664-3
Patalano, R., Wang, Z., Leng, Q., Liu, W., Zheng, Y., Sun, G., & Yang, H. (2015). Hydrological changes facilitated early rice farming in the lower Yangtze River Valley in China: A molecular isotope analysis. Geology, 43(7), 639-642. https://doi.org/10.1130/G36783.1
本研究では,田螺山遺跡近傍(TKサイト)および河姆渡遺跡北方平野部(HKサイト)のボーリングコア試料中に含まれる植物片・貝殻の 14C 年代,イネ科植物起源の5環トリテルペンメチルエーテル(PTMEs),グリセロールジアルキルグリセロールテトラエーテル(GDGTs),燃焼起源化合物の多環芳香族炭化水素(PAHs),長鎖脂肪酸のδDおよびδ13Cの分析を行い,河姆渡文化期とそれ以前の姚江平野の古環境復元,気候復元を行った.同試料のプラントオパール(宇田津ほか),花粉,珪藻(金原ほか)の分析結果と比較した.
両コアの水田層(TK: 7000-6400BP, 6200BP以降; HK: 6800-6700BP)でArundoinとCylindrinの含有量とPTMEsに対する割合が大きかった.TKコアの河姆渡文化以前(8200-7400 BP)でも[Cylindrin] / [Arundoin]の値がHK水田層での値と近い値であった.ArundoinとCylindrinはイネ属で検出されているPTMEsである.近年河姆渡文化以前の層でイネ属の花粉やプラントオパールが報告されていたが,バイオマーカーで新たなイネ属植生記録を得ることができた.
HKコア水田層のGDGTs組成からGDGT-0,1,2,3の含有量とGDGTsに対する割合が高かった.メタン生成アーキアはGTGT-0を産生しメタン栄養アーキアはGDGT-0,1,2,3を産生する.これらのアーキアは水田に生息する.このことから水田があったという考えを支持できた.
HKコアのPAHsの結果,水田層ではReten含有量が大きかった.DMP – x は水田層下部で小さく水田層上部で大きかった.Retenは針葉樹の燃焼によって生じる.DMP – xは燃焼物質が木材であるときに小さい値をとり,葉・茎で大きい値をとる.Phenanthrene/Anthanthrene, Benz[a]anthracene/Chryseneの値は水田層のみで稲藁燃焼時に近い値を示した.樹木の燃焼は火による伐採と関係があるといえる.稲藁の燃焼は収穫残渣の焼却であると考えられ,これは馬家浜文化の研究より古い.
本研究の高解像度な脂肪酸δD値から2枚の水田層の開始期である7Ka,6Ka前後では小さい値をとっていた.この地域の降水のδDは湿潤な気候のときに小さくなる.稲作開始時の気候が湿潤であったことがいえた.この結果は長江下流域の花粉記録に基づく低解像度な古気候復元(J. Y. Li et al., 2018)と一致する.我々の得た結論は乾燥化によって稲作が始まったとするPatalano et al. (2015)とは全く逆である.
以上の結果は河姆渡文化とそれ以前の姚江平野の古環境を高解像度で復元したものであり,栽培化プロセスと新石器文化の理解に重要な役割を果たしている.
引用文献
Li, J., Dodson, J., Yan, H., Wang, W., Innes, J. B., Zong, Y., Zhang, X., Xu, Q., Ni, J., & Lu, F. (2018). Quantitative Holocene climatic reconstructions for the lower Yangtze region of China. Climate Dynamics, 50(3-4), 1101-1113. https://doi.org/10.1007/s00382-017-3664-3
Patalano, R., Wang, Z., Leng, Q., Liu, W., Zheng, Y., Sun, G., & Yang, H. (2015). Hydrological changes facilitated early rice farming in the lower Yangtze River Valley in China: A molecular isotope analysis. Geology, 43(7), 639-642. https://doi.org/10.1130/G36783.1