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[HQR05-P06] 常時微動データを用いて微高地を判別する試み:埼玉県大宮台地北部〜加須低地の例
キーワード:常時微動観測、段丘、自然堤防、沖積層
沖積低地に隣接した更新世段丘は、形成後の侵食・埋没により残丘化して沖積低地内に取り残された場合、自然堤防などの沖積低地の微高地とよく似た地形となり、形態のみから互いを識別することが難しくなることがある。両者を識別することはその土地の形成史を考える上で重要であるのみならず、構成する地質の違いから地盤特性や液状化の起こりやすさが異なると考えられ、防災上も重要である。
平野の地形区分は一般的に空中写真判読に基づいて行われるが、前述の通り比高のよく似た地形、典型的な形態・分布ではない場合などは、ボーリングや検土杖による掘削調査が必要となる。しかし、掘削調査は時間や費用がかかり、面的なデータ収集の面では限界がある。そこで、非破壊かつ簡便な方法として、常時微動データに基づく地盤特性から段丘と自然堤防を判別する手法を検討した。
埼玉県加須市から久喜市を中心に広がる大宮台地の北部〜加須低地には、後期更新世(MIS 5c)に形成された段丘面である大宮面と,大宮面を開析した谷を埋積した沖積低地が分布しており,大宮面の一部は沖積低地内に点在している(納谷・安原、2014)。沖積低地には河川による大規模な自然堤防が分布する。大宮台地北部〜加須低地における大宮面と自然堤防は,後背湿地との比高はほぼ同じである。
大宮台地北部〜加須低地の地形区分は1/5万地質図幅「鴻巣」(納谷・安原、2014)で詳細になされている。一方、この地域では、概ね1 km間隔の格子点上で常時微動観測が行なわれている(先名ほか,2023)。各格子点上で極小サイズ(半径0.6 m)及び小サイズ(半径10 m以下)の微動アレイ観測が実施されているので,高分解能で地盤特性(周波数ごとのレーリー波位相速度等や深さ数10 mまでのS波速度構造)の評価が可能となっている。
まず予備解析として、これらの常時微動データの解析結果を地形ごとに分類し、それぞれの傾向を検討した。具体的には、鴻巣図幅内の断片化した大宮面と自然堤防が混在するエリアを対象として、大宮面と自然堤防の地盤特性を検討した。その結果、大宮面と自然堤防では、表層数 mまではS波速度がほぼ同じだが,それ以深では異なることが分かった。大宮面と自然堤防にそれぞれ分布する沖積層とローム層では表層数mのS波速度はほぼ同じだが、深部では異なるか、あるいはその厚さに系統的な違いがあることを反映していると推定される。微動観測で得られるこの違いを手がかりとすれば大宮面と自然堤防の識別が可能と期待される。一方、自然堤防と後背湿地における微動アレイ探査の結果には、その分解能の範囲で、ほとんど違いが現れなかった。これは、これらの地形区分における地盤構造の相違はたかだか表層1 m程度のものでしかないことを示しているからと考えられる。すなわち、表層の微地形が沖積低地の堆積過程における現時点でのスナップショットに過ぎないことを表している。
上述の予備解析による見込み(大宮面と自然堤防は常時微動データから識別可能)を検証するために、検土杖調査によって地質が確認されている大宮面および自然堤防上の地点で、2023年12月に極小アレイによる常時微動観測を行った。場所は埼玉県白岡市、久喜市、加須市、鴻巣市の大宮面と自然堤防上のそれぞれ4地点、計8地点である。H/VスペクトルとS波速度から表層の軟弱層(沖積層およびローム層)の基底深度を推定したところ、大宮面上では深さ6 m程度、自然堤防上では深さ12 m程度となり、いずれも地下構造と整合的であった。位相速度からは大宮面と自然堤防のデータが明確に異なる傾向を示し、例えば周波数が8.5-9.0 Hzの位相速度は大宮面の4地点ではいずれも190 m/sより速く、自然堤防の4地点ではいずれも140m/sより遅い。これは条件が揃えば常時微動観測データで大宮面と自然堤防を判別できることを示している。
実際、先名ほか(2023)の格子データに立ち返って対象エリアの93地点のデータを検討した結果、周波数7 Hz、位相速度170 m/sを閾値とすると8割の確率で大宮面と自然堤防を判別することができた。
今後は、微動観測データからの推定が地形区分と異なる残りの2割についてその要因を検討し、この手法が適用できる条件について検討する予定である。また、この手法が他地域でも適用可能かどうかについても検討を進める。
文献
納谷・安原, 2014, 鴻巣地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
先名ほか, 2023, 防災科学技術研究所研究資料,No. 498.
平野の地形区分は一般的に空中写真判読に基づいて行われるが、前述の通り比高のよく似た地形、典型的な形態・分布ではない場合などは、ボーリングや検土杖による掘削調査が必要となる。しかし、掘削調査は時間や費用がかかり、面的なデータ収集の面では限界がある。そこで、非破壊かつ簡便な方法として、常時微動データに基づく地盤特性から段丘と自然堤防を判別する手法を検討した。
埼玉県加須市から久喜市を中心に広がる大宮台地の北部〜加須低地には、後期更新世(MIS 5c)に形成された段丘面である大宮面と,大宮面を開析した谷を埋積した沖積低地が分布しており,大宮面の一部は沖積低地内に点在している(納谷・安原、2014)。沖積低地には河川による大規模な自然堤防が分布する。大宮台地北部〜加須低地における大宮面と自然堤防は,後背湿地との比高はほぼ同じである。
大宮台地北部〜加須低地の地形区分は1/5万地質図幅「鴻巣」(納谷・安原、2014)で詳細になされている。一方、この地域では、概ね1 km間隔の格子点上で常時微動観測が行なわれている(先名ほか,2023)。各格子点上で極小サイズ(半径0.6 m)及び小サイズ(半径10 m以下)の微動アレイ観測が実施されているので,高分解能で地盤特性(周波数ごとのレーリー波位相速度等や深さ数10 mまでのS波速度構造)の評価が可能となっている。
まず予備解析として、これらの常時微動データの解析結果を地形ごとに分類し、それぞれの傾向を検討した。具体的には、鴻巣図幅内の断片化した大宮面と自然堤防が混在するエリアを対象として、大宮面と自然堤防の地盤特性を検討した。その結果、大宮面と自然堤防では、表層数 mまではS波速度がほぼ同じだが,それ以深では異なることが分かった。大宮面と自然堤防にそれぞれ分布する沖積層とローム層では表層数mのS波速度はほぼ同じだが、深部では異なるか、あるいはその厚さに系統的な違いがあることを反映していると推定される。微動観測で得られるこの違いを手がかりとすれば大宮面と自然堤防の識別が可能と期待される。一方、自然堤防と後背湿地における微動アレイ探査の結果には、その分解能の範囲で、ほとんど違いが現れなかった。これは、これらの地形区分における地盤構造の相違はたかだか表層1 m程度のものでしかないことを示しているからと考えられる。すなわち、表層の微地形が沖積低地の堆積過程における現時点でのスナップショットに過ぎないことを表している。
上述の予備解析による見込み(大宮面と自然堤防は常時微動データから識別可能)を検証するために、検土杖調査によって地質が確認されている大宮面および自然堤防上の地点で、2023年12月に極小アレイによる常時微動観測を行った。場所は埼玉県白岡市、久喜市、加須市、鴻巣市の大宮面と自然堤防上のそれぞれ4地点、計8地点である。H/VスペクトルとS波速度から表層の軟弱層(沖積層およびローム層)の基底深度を推定したところ、大宮面上では深さ6 m程度、自然堤防上では深さ12 m程度となり、いずれも地下構造と整合的であった。位相速度からは大宮面と自然堤防のデータが明確に異なる傾向を示し、例えば周波数が8.5-9.0 Hzの位相速度は大宮面の4地点ではいずれも190 m/sより速く、自然堤防の4地点ではいずれも140m/sより遅い。これは条件が揃えば常時微動観測データで大宮面と自然堤防を判別できることを示している。
実際、先名ほか(2023)の格子データに立ち返って対象エリアの93地点のデータを検討した結果、周波数7 Hz、位相速度170 m/sを閾値とすると8割の確率で大宮面と自然堤防を判別することができた。
今後は、微動観測データからの推定が地形区分と異なる残りの2割についてその要因を検討し、この手法が適用できる条件について検討する予定である。また、この手法が他地域でも適用可能かどうかについても検討を進める。
文献
納谷・安原, 2014, 鴻巣地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
先名ほか, 2023, 防災科学技術研究所研究資料,No. 498.