日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG34] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:津旨 大輔(筑波大学)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、桐島 陽(東北大学)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

17:15 〜 18:45

[MAG34-P05] 森林源流域からの溶存態137Cs流出メカニズム

*永田 祐太郎1恩田 裕一2榊原 厚一3高橋 純子2、平松 翼3 (1.筑波大学生命環境学群地球学類、2.放射線・アイソトープ地球システム研究センター、3.信州大学理学部理学科)

キーワード:福島第一原子力発電所、溶存態Cs-137、渓流水、リター、森林源頭部、溶存有機炭素

2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所の事故にって大量の放射性物質が環境中に放出され、陸域においてはその72%が森林に沈着した。その中でも137Csは半減期が30年と長く被害を長期化させる要因となっている。森林の大部分は未除染であり森林において137Csは林床から樹体へと吸収されることで循環し、河川を通して森林外へと流出している。森林から流出する溶存態137Csは出水時に濃度が上昇することが知られておりその要因として飽和地表流の発生によるリターからの溶出やリター通って形成された高濃度の土壌水の流出が考えられている。また河川水中の溶存態137CsはK+とのイオン交換やリターからの溶出で形成され溶存態137Cs濃度とK+,DOC濃度には正の相関が見られるといった報告が複数ある。
本研究では福島県川俣町山木屋地区の世戸八山流域の流域源頭部において渓流水、地下水、リター通過水、樹幹通過雨、堆積リターのサンプリングを行い溶存態137Cs, K+,NH4+,DOC濃度から森林源流部においてリターが溶存態137Cs溶出に与える影響を調査した。堆積リターの濃度は839.8 Bq/kg-4354.1 Bq/kgでありばらつきがあった。リター通過水中の137Cs, K+,NH4+,DOC濃度から求めたリターからの溶出量は河道近傍のリターで少なく、次に降雨時に飽和地表流が発生する地点で多く、斜面に存在しているリターからの溶出量が最も多かった。これは飽和地表流の発生によって河道沿いリターからの溶出が進んでいることを示唆している。地下水においてK+濃度は深度が深いほど高い値を示しNH4+は深度が浅いもので高い値をとった。また出水時においてK+とNH4+濃度はそれぞれ流域出口に近い浅い井戸で平水時の2倍、3.8倍と高い値を示した。その他の井戸ではK+濃度は平水時と同程度、NH4+濃度は平水時よりも低い値であった。また出水時における各井戸の水理水頭の変化から飽和地表流の発生や地下水の流動方向の変化が確認された。
源頭部の流水中の溶存態137Cs, K+,DOCは夏季に高くなる傾向を示し、それぞれ平水時の1.7,1.6,1.4倍であった。また137Cs,DOC濃度は出水時に平水時平均の2倍以上と最も高い値をとった。一方でK+濃度は出水時においても平水時と同程度の値だった。以上のことより森林源流域の溶存態137Cs濃度はイオン交換及び有機物分解に伴い季節変動性を示し、出水時の溶存態137Cs濃度上昇の要因はイオン交換でなくリターからの直接溶出である可能性が高いことが考えられた。