日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 古気候・古海洋変動

2024年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)、座長:山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)

16:15 〜 16:30

[MIS12-08] ハワイ産現生サンゴ骨格を用いた水温変動と栄養塩変動の復元による、北太平洋亜熱帯循環域における過去100年間のローカルな水塊の動きの解明

*内山 遼平1,2山崎 敦子2,3,4、野尻 太郎5角皆 潤3渡邊 剛1,2,4 (1.北海道大学理学院、2.喜界島サンゴ礁科学研究所、3.名古屋大学大学院環境学研究科、4.総合地球環境学研究所、5.北海道大学理学部)

キーワード:サンゴ骨格、ハワイ、北太平洋亜熱帯循環、Sr/Ca比、窒素同位体比、栄養塩変動

ハワイの位置する北太平洋には、水温変動に数年から数十年規模の変動パターンが生じていることが知られている。またハワイにおいては、貿易風が風上/風下側に気候のコントラストを生むことで知られるため(Chavanne et al., 2002)、風上側と風下側のローカルな規模での水塊の動きにも注目する必要がある。広大な海洋における気候変動を大陸から離れた位置で捉えたり、ローカルな気候システムを調べるためにハワイは重要なフィールドであるが、現場観測による長期間記録は数が少ない。
造礁サンゴ骨格(CaCO3)中の組成は、骨格形成時の環境を連続的に記録することが知られており、過去の海洋環境を高い時間分解能で復元することが可能である。サンゴ骨格中のストロンチウム/カルシウム比(Sr/Ca比)は海水温と負の相関をもつことから、過去の水温復元に用いることができる。また、サンゴ骨格に含まれる有機物中の窒素同位体比(δ15Ncoral)は、栄養塩のトレーサーとして海水の動態を調べるのに用いることができる(Yamazaki et al., 2011b)。本研究ではサンゴ骨格を用いた地球化学的アプローチによって、過去100年間のハワイ近海における水温変動と栄養塩の変動を明らかにすることを目的とした。
試料として、オアフ島の2地点(東部風上側Makai Pier, 西部風下側Ko’Olina)で採取された現生ハマサンゴの長尺骨格試料を用いた。スラブ状に加工した骨格をX線照射することで年輪を確認し、最大成長方向に沿って粉末資料を採取し、ICP-OESを用いてSr/Ca比の分析を行った。Sr/Ca比-現場水温の換算式(Uchiyama et al., 2023)を用い、水温の復元を行なった。続けて、水温変動から推定した1年分のサンゴ骨格試料を1Nの塩酸で脱灰し、残留有機物を酸化分解した後、全窒素をNO3-に酸化し, Chemical conversion法を用いてNO3-からN2O化した試料を連続フロー型質量分析システムに導入し、δ15Ncoral(‰ vs. air N2)を測定した。本分析による標準試料分析の繰り返し誤差は±0.38‰(0.5σ)である。
分析の結果、風上側(Makai Pier)で1908年、風下側(Ko’Olina)で1957年まで遡る水温記録を復元することができた。風上側の水温変動が、亜熱帯循環に沿った海域の水温変動と同調していることがわかった。風上側のδ15Ncoralは、水温の上昇に伴い低下しており、水温上昇時、海水の成層化に伴う窒素固定率の上昇が反映されていると考えられる。一方で風下側の水温は風上側とは異なった水温変動をしており、風下側の水温が風上側に比べて低い時に、風下側のδ15Ncoralが上昇していること、また、風下側のδ15Ncoralの変動がNPGO指数と有意な相関(r = 0.38, 3年間の移動平均値、n = 60)を持ったことから、オアフ島風下側における湧昇の発生に伴う低水温化と栄養塩供給が示唆された。