日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 地球表層における粒子重力流のダイナミクス

2024年5月29日(水) 15:30 〜 16:45 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、酒井 佑一(宇都宮大学農学部)、志水 宏行(砂防・地すべり技術センター)、田邊 章洋(防災科学技術研究所)、座長:酒井 佑一(宇都宮大学農学部)、志水 宏行(砂防・地すべり技術センター)、田邊 章洋(防災科学技術研究所)

16:30 〜 16:45

[MIS15-04] 深層学習を用いた混濁流の平面2次元逆解析モデルの構築

*藤島 誠也1成瀬 元1 (1.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:混濁流、タービダイト、機械学習、深層学習、逆解析

混濁流とは,乱流によって浮遊砂を支持し,それによって生じる周囲流体との密度差を駆動力とする堆積物重力流である.近年,深海底での混濁流の現地観測が行われるようになり,海底谷のような側方に制約された地形での混濁流の水理条件(例えば流速や流れの厚さ)などが明らかになりつつある.しかし,海底斜面や海溝のような複雑な地形上を側方に広がりながら流れる混濁流の現地観測の成功例はない.地震や津波によって発生した混濁流は広範囲に拡大しつつ海底斜面上を流れることが明らかになっており,平面的な広がりを持つ混濁流の水理条件を明らかにすることは,地震や津波の規模推定の鍵となることが期待される.そこで,本研究では深層学習を用いて混濁流堆積物から水理条件を推定する平面2次元逆解析モデルの構築を行った.さらに,水槽実験を用いてモデルの性能検証を行った.逆解析モデルの構築,および性能のテストは以下のように行った.まず,混濁流の平面2次元数値モデルにランダムな計算条件(計算領域の上流端境界における流速・浮遊砂濃度・流れの厚さ・流れの継続時間)を与えて数値実験を繰り返し行い,斜面勾配が途中で変化する平板上の地形に堆積したタービダイトの層厚・粒度分布のデータセットを得た.この計算条件と堆積したタービダイトの特徴との組合せを逆解析モデルの訓練データセットとする.その後,作成した訓練データセットを用いて,全結合ニューラルネットワークに境界条件と堆積物分布の関係を学習させる.これにより,堆積物分布を入力すると,それを堆積させた流れを再現するための計算条件を推定する逆解析モデルを構築した.その後,訓練データとは独立に生成したテストデータセットに逆解析モデルを適用することにより,モデルの汎化性能を検証した.さらに,逆解析モデルを水槽実験堆積物に適用し,推定された計算条件をもとに数値計算を行って,計算された混濁流の挙動と水槽での実測値を比較した.その結果,本研究で開発した逆解析モデルは人工データに対しては上流端境界の流速・浮遊砂濃度・流れの厚さ・浮遊砂濃度・流れの継続時間を高い精度で推定することが可能であることが示された.また,構築した逆解析モデルを水槽実験堆積物に適用した結果,流れの厚さや継続時間を高い精度で推定することができた.一方,粒径階ごとの浮遊砂濃度を推定したところ,比較的高い濃度の粒径階の値はよく推定できていたが,低濃度の粒径階の濃度の推定誤差は大きかった.また,流速は他の水理パラメーターと比較して推定誤差が大きく,過大評価傾向であった.低い浮遊砂濃度は電子天秤の測定限界を下回っているために発生した誤差であると考えられる.一方,流速の推定誤差が大きかった理由は,設定した摩擦係数が小さすぎたことが原因であったかもしれない.低い摩擦係数のもとでは,水槽の上流部分にみられた流れのバイパス領域を再現するためにはかなり大きい流速が必要とされるため,結果として流速が過大評価になったものと考えられる.今後は順計算モデルのパラメータの評価を適切に行い,逆解析の精度を向上させる必要があるだろう.