17:15 〜 18:45
[MIS22-P06] 上越沖メタンハイドレート胚胎域における間隙水の高Cl濃度異常
キーワード:間隙水、Cl濃度、水素・酸素安定同位体比
メタンハイドレートは非在来型の天然ガス資源として注目されており、日本近海にも多く分布することから、近年でも資源調査やガス生産の技術開発が進められている。日本海東縁は、日本における代表的な表層型メタンハイドレート胚胎域として知られている。本研究では、地球深部探査船「ちきゅう」により上越海丘のハイドレート胚胎サイトと参照サイトで採取された堆積物コアから間隙水を抽出し、間隙水の地球化学的特徴を明らかにした。
ハイドレートサイトの間隙水のCl濃度は12 mbsfから60 mbsfの間で879 mM~1282 mMであった。これは上越沖の底層水のCl濃度(545 mM)の約2倍で非常に高い濃度である。今回の掘削地点がメタンハイドレート胚胎域であることを考慮すると、堆積物中のメタンハイドレートの急成長によって排出されたClが残渣水に濃縮されたことが、間隙水中のCl濃度を異常に高くする要因である考えられる(e.g., Torres et al., 2004)。この可能性を検証するために、間隙水の水素・酸素同位体比(δD・δ18O)を測定した。間隙水のδD・δ18O 値はCl濃度の増加(879~1282 mM)とともに低くなる傾向を示した(δD:-16.4‰~-9.7‰、δ18O:-2.0‰~-1.3‰)。メタンハイドレートが生成する際には、間隙水中のDと18Oが選択的にメタンハイドレートに取り込まれ、残りの水にHと16Oが濃縮され、残渣水のδD・δ18O 値は低くなる。メタンハイドレートサイトの間隙水のδD・δ18O 値の傾向はこの特徴と一致していることから、高Cl濃度の間隙水は成長したメタンハイドレートの周囲の残渣水であることが確認できた。
残渣水のCl濃度から、メタンハイドレートとして取り込まれた水とメタンの量を以下のように見積もった。まず、メタンハイドレートが生成する際に、参照サイトの間隙水中Cl- (430~550 mM)が濃縮されてCl-濃度の高い残渣水が生成したと仮定した。ハイドレート胚胎サイトと参照サイトの間隙水のCl-濃度の差からCl-の濃縮の割合を求め、ハイドレートにとりこまれた水の割合を計算した。その結果、ハイドレート生成前の間隙水の41~60%がハイドレートに取り込まれたことを示した。次に、堆積物の間隙率 (55~65%)とハイドレートに取り込まれた水の割合から、堆積物1 m³あたりのハイドレートを構成する水の量を求めた。ハイドレートを構成する水は平均2.4~3.7×10⁵ g/m³ (1.4~2.2×10⁴ mol/m³)であった。メタンハイドレートはI型と仮定すると、I型メタンハイドレートの分子式:CH₄-5.75H₂Oから、ハイドレートを構成するメタンは2.5~3.9×10³ mol/m³と計算できる。この結果から、堆積物中のメタンの量は54~84 m³/m³ (STP)と見積もられた。ハイドレートサイトの海底下堆積物中には少なくとも54 m³/m³ (STP)のメタンがハイドレートとして存在していると考えられる。本研究は、経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。
ハイドレートサイトの間隙水のCl濃度は12 mbsfから60 mbsfの間で879 mM~1282 mMであった。これは上越沖の底層水のCl濃度(545 mM)の約2倍で非常に高い濃度である。今回の掘削地点がメタンハイドレート胚胎域であることを考慮すると、堆積物中のメタンハイドレートの急成長によって排出されたClが残渣水に濃縮されたことが、間隙水中のCl濃度を異常に高くする要因である考えられる(e.g., Torres et al., 2004)。この可能性を検証するために、間隙水の水素・酸素同位体比(δD・δ18O)を測定した。間隙水のδD・δ18O 値はCl濃度の増加(879~1282 mM)とともに低くなる傾向を示した(δD:-16.4‰~-9.7‰、δ18O:-2.0‰~-1.3‰)。メタンハイドレートが生成する際には、間隙水中のDと18Oが選択的にメタンハイドレートに取り込まれ、残りの水にHと16Oが濃縮され、残渣水のδD・δ18O 値は低くなる。メタンハイドレートサイトの間隙水のδD・δ18O 値の傾向はこの特徴と一致していることから、高Cl濃度の間隙水は成長したメタンハイドレートの周囲の残渣水であることが確認できた。
残渣水のCl濃度から、メタンハイドレートとして取り込まれた水とメタンの量を以下のように見積もった。まず、メタンハイドレートが生成する際に、参照サイトの間隙水中Cl- (430~550 mM)が濃縮されてCl-濃度の高い残渣水が生成したと仮定した。ハイドレート胚胎サイトと参照サイトの間隙水のCl-濃度の差からCl-の濃縮の割合を求め、ハイドレートにとりこまれた水の割合を計算した。その結果、ハイドレート生成前の間隙水の41~60%がハイドレートに取り込まれたことを示した。次に、堆積物の間隙率 (55~65%)とハイドレートに取り込まれた水の割合から、堆積物1 m³あたりのハイドレートを構成する水の量を求めた。ハイドレートを構成する水は平均2.4~3.7×10⁵ g/m³ (1.4~2.2×10⁴ mol/m³)であった。メタンハイドレートはI型と仮定すると、I型メタンハイドレートの分子式:CH₄-5.75H₂Oから、ハイドレートを構成するメタンは2.5~3.9×10³ mol/m³と計算できる。この結果から、堆積物中のメタンの量は54~84 m³/m³ (STP)と見積もられた。ハイドレートサイトの海底下堆積物中には少なくとも54 m³/m³ (STP)のメタンがハイドレートとして存在していると考えられる。本研究は、経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。