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[MIS22-P07] 日本海北東部堆積物中の硫黄同位体比変動に見られる更新世の活発な海底メタン湧出イベント
キーワード:日本海、海底堆積物、メタンハイドレート、嫌気性メタン酸化、硫黄同位体比
メタンハイドレート胚胎域の海底堆積物中に記録された過去のメタン湧出イベントとそれに伴う環境変動の解明は、地球環境の変遷に伴うメタン湧出量変化の環境影響評価と将来予測に直結する。そのためには、堆積物に記録されたメタン湧出イベントとその年代の正確な特定が必要である。本研究では、表層型メタンハイドレート胚胎域である日本海酒田海丘、上越海丘、海鷹海脚より採取された海底深部掘削コアの年代測定(珪藻化石群集組成、火山灰分析、貝殻および植物片の放射性炭素同位体年代測定)と、堆積物中の硫黄化合物の硫黄安定同位体比(δ34S)分析による過去メタン湧出イベントの特定を実施した。年代測定から推定された各サイトのコアボトムの年代と堆積速度は、酒田海丘 (RC2101A):750 kyr (海底下 37 m)、0.8–20.8 cm/kyr;上越海丘(C8007A):450 kyr (海底下98 m)、18.8–137.3 cm/kyr;海鷹海脚(C8008A):260 kyr (海底下87 m)、10.8–81.8 cm/kyrを示した。酒田海丘のサイトRC2101Aのコアでは、δ34Sはコア全体で負の値(–41‰から–21‰)を示した。この値は海水由来の硫酸イオンによる堆積物中の有機物の分解によって生成された硫化水素および二次的に形成された硫黄化合物の値と一致している。一方で、上越海丘のサイトC8007Aおよび海鷹海脚のサイトC8008Aのコアでは、–35‰から+14‰、および–47‰から+10‰と大きく変動しており、特に約7万年前、25万年前、36万年前で正の値を示していた。活発なメタン湧出の見られる海底堆積物中では、硫酸イオンが有機物だけでなくメタンの酸化によって急速に消費されるため、堆積物中の硫黄化合物のδ34S値は相対的に増加し、海水中の硫酸イオンのδ34S値(+21.24‰、Tostevin et al., 2014)に近づく傾向がある。そのため、メタン湧出域の硫黄化合物では34Sの濃縮が観察されている(δ34S = +10‰〜+40‰)(例えば、Liu et al., 2022)。サイト C8007AおよびC8008Aのコアにおける34Sの濃縮は、上越沖での活発なメタン湧出イベントの発生を示している可能性がある。今後は、本研究で推定したメタン湧出イベントを基礎とした堆積物中の詳細な生物地球化学データの解析を進めていくことで、過去のメタン湧出イベントが日本海の環境へ与えた影響の理解を進める予定である。
本研究は経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。
本研究は経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。