17:15 〜 18:45
[MIS22-P08] 表層型メタンハイドレートが賦存する海鷹海脚中部マウンドの海底状況,微地形,地形変化
キーワード:上越沖、海鷹海脚、表層型メタンハイドレート、地形、音響マッピング
概要
表層型メタンハイドレート(MH)の賦存が確認されている上越沖海鷹海脚中部のマウンド上で,2013年に自律型海中探査ロボット(AUV)を用いた地形および後方散乱強度データを取得し,2021年に無人遠隔操作ロボット(ROV)と高分解能三次元画像マッピングシステム「SeaXerocks1」を用いた高分解能海底三次元画像マッピングを実施した.海鷹海脚は,日本海東縁の陸棚から沖合へ向かって北方へ伸び,東西に非対称な形状を呈する高まりである.海鷹海脚中部の西側斜面に,一つの大きなポックマーク(すり鉢状の窪地)に二つのマウンドが近接する特徴的な地形がある.ROVを用いた目視観察と,堆積物コア,LWD(掘削同時検層)により,マウンドでは表層型MHの賦存が確認されている.我々の一連の調査では当該マウンド上面における2021年当時の海底状況と,2013年から2021年の間に発生したと考えられる地形変化を明らかにした.
音響マッピングおよび海底状況観察のデータ取得概要
2013年に実施したAUV Deep1(深田サルベージ建設株式会社)を用いた音響マッピングでは,マルチビーム測深器とサイドスキャンソナーおよびサブボトムプロファイラーシステムを使用した.地形データは3 mグリッド作成に十分な精度を持つ.AUVは海底から高さ約25mを速度約3ノット(約5.5km/h)で航行した.
2021年にはSeaXerocks1をROV Kaiyo3000(海洋エンジニアリング株式会社)下部スキッドに艤装して,海底面の3次元イメージングを実施した. SeaXerocks1は速度約0.2〜0.5ノットで高度 4〜5 mから海底を見下ろすようにして,静止画像を毎秒約16枚の静止画像とレーザースキャニングを用いた微細地形を取得した.静止画像には歪み補正と色調補正を施し, ROVとレーザースキャニングによる位置情報を統合した位置情報を各画素に与え,海底面の地形変化と色と位置情報を持つ3次元点群データに変換した.静止画像の分解能は測線直交方向に約2 mm(画素数に相当)× 測線方向に数十cm(ROV航行速度と静止画像取得数による)で,取得時の状況と各種補正により分解能が低くなる.これにより詳細かつ面的な海底状況と同範囲の地形データを得た.地形データは0.2 mグリッド作成に十分な精度を持つ.
観察結果
(1)海底地形と後方散乱強度の特徴
AUV Deep1を用いて取得した詳細な地形および後方散乱強度データは,海面からの音響マッピングでは分からなかった詳細な特徴を示した.海鷹海脚中部のポックマークは正円に近い形状をしており直径約500 mで,すぐ北側の縁に大きさ200~250 mで雫型の北マウンドが,北西の縁に250~300 mで楕円に近い形状を呈する西マウンドが,ポックマークの縁に食い込むようにして発達している.両マウンドが伸長する方向は同一ではなく,その間は明瞭に分かれている.各マウンドの上面に凹凸があるが比高約20 mの範囲で一様であり比較的平坦である.マウンド上面の高まりはマウンドを緩く縁取るドーナツ状に(マウンド中心近くが低いように)見える.SeaXerocks1で取得したより高精度の地形データは櫛状に抜けているものの,局地的な凹地や高まりの配置をよく表現した.後方散乱強度分布は,概観するとポックマーク全体で低く,両マウンド上で高かった.マウンド上では後方散乱強度が周辺の海底と比較して顕著に高い中で,凸地形部分では相対的に高く,凹地形部分で相対的に低い傾向があった.
(2)海底環境概況
SeaXerocks1によりマウンド上では,広く堆積物が覆う海底に,岩石露頭,バクテリアマット,各種生物(蟹,烏賊,魚,イソギンチャク,ヒトデなど)や,海中にバブル柱を観察した.バブル柱は崖錐の縁から立ち上っているように見え,海底を直上から観察したROVからは,海底面の明らかな特徴を確認できなかった.時折ROVが不安定な挙動をした場所ではROV直下に急激な高度変化があったことが考えられるが,このようなAUVによる地形図では表現されていなかった小規模な凹凸をSeaXerocks1が取得した地形図上に読み取ることができる.マウンド周囲の海底では露頭とバクテリアマットが見られなかった.
(3)バブル湧出域における海底地形変化
地形データを2013年と2021年で比較したところ,両マウンド上に複数の地形変化を検出した. 2013年には小規模な高まりであり,2015年に海底面にMHの露出を観察したが,2021年には周辺を急崖で囲まれる陥没地形を呈していた箇所があった.また2013年から2021年の間に谷地形の範囲が拡大している箇所があった.地形変化が見られた場所では2021年にバブル湧出が観察された.
まとめ
ROVを用いた海底面の状況調査により表層型MHが賦存するマウンド上面の生物や岩石露頭の分布を把握し,海中に立ち上るバブルを観察した.バブルが観察された場所で8年の間の地形変化が示された.地形変化は表層型MHが消失した影響を受けている可能性がある.
謝 辞
本研究は経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した
表層型メタンハイドレート(MH)の賦存が確認されている上越沖海鷹海脚中部のマウンド上で,2013年に自律型海中探査ロボット(AUV)を用いた地形および後方散乱強度データを取得し,2021年に無人遠隔操作ロボット(ROV)と高分解能三次元画像マッピングシステム「SeaXerocks1」を用いた高分解能海底三次元画像マッピングを実施した.海鷹海脚は,日本海東縁の陸棚から沖合へ向かって北方へ伸び,東西に非対称な形状を呈する高まりである.海鷹海脚中部の西側斜面に,一つの大きなポックマーク(すり鉢状の窪地)に二つのマウンドが近接する特徴的な地形がある.ROVを用いた目視観察と,堆積物コア,LWD(掘削同時検層)により,マウンドでは表層型MHの賦存が確認されている.我々の一連の調査では当該マウンド上面における2021年当時の海底状況と,2013年から2021年の間に発生したと考えられる地形変化を明らかにした.
音響マッピングおよび海底状況観察のデータ取得概要
2013年に実施したAUV Deep1(深田サルベージ建設株式会社)を用いた音響マッピングでは,マルチビーム測深器とサイドスキャンソナーおよびサブボトムプロファイラーシステムを使用した.地形データは3 mグリッド作成に十分な精度を持つ.AUVは海底から高さ約25mを速度約3ノット(約5.5km/h)で航行した.
2021年にはSeaXerocks1をROV Kaiyo3000(海洋エンジニアリング株式会社)下部スキッドに艤装して,海底面の3次元イメージングを実施した. SeaXerocks1は速度約0.2〜0.5ノットで高度 4〜5 mから海底を見下ろすようにして,静止画像を毎秒約16枚の静止画像とレーザースキャニングを用いた微細地形を取得した.静止画像には歪み補正と色調補正を施し, ROVとレーザースキャニングによる位置情報を統合した位置情報を各画素に与え,海底面の地形変化と色と位置情報を持つ3次元点群データに変換した.静止画像の分解能は測線直交方向に約2 mm(画素数に相当)× 測線方向に数十cm(ROV航行速度と静止画像取得数による)で,取得時の状況と各種補正により分解能が低くなる.これにより詳細かつ面的な海底状況と同範囲の地形データを得た.地形データは0.2 mグリッド作成に十分な精度を持つ.
観察結果
(1)海底地形と後方散乱強度の特徴
AUV Deep1を用いて取得した詳細な地形および後方散乱強度データは,海面からの音響マッピングでは分からなかった詳細な特徴を示した.海鷹海脚中部のポックマークは正円に近い形状をしており直径約500 mで,すぐ北側の縁に大きさ200~250 mで雫型の北マウンドが,北西の縁に250~300 mで楕円に近い形状を呈する西マウンドが,ポックマークの縁に食い込むようにして発達している.両マウンドが伸長する方向は同一ではなく,その間は明瞭に分かれている.各マウンドの上面に凹凸があるが比高約20 mの範囲で一様であり比較的平坦である.マウンド上面の高まりはマウンドを緩く縁取るドーナツ状に(マウンド中心近くが低いように)見える.SeaXerocks1で取得したより高精度の地形データは櫛状に抜けているものの,局地的な凹地や高まりの配置をよく表現した.後方散乱強度分布は,概観するとポックマーク全体で低く,両マウンド上で高かった.マウンド上では後方散乱強度が周辺の海底と比較して顕著に高い中で,凸地形部分では相対的に高く,凹地形部分で相対的に低い傾向があった.
(2)海底環境概況
SeaXerocks1によりマウンド上では,広く堆積物が覆う海底に,岩石露頭,バクテリアマット,各種生物(蟹,烏賊,魚,イソギンチャク,ヒトデなど)や,海中にバブル柱を観察した.バブル柱は崖錐の縁から立ち上っているように見え,海底を直上から観察したROVからは,海底面の明らかな特徴を確認できなかった.時折ROVが不安定な挙動をした場所ではROV直下に急激な高度変化があったことが考えられるが,このようなAUVによる地形図では表現されていなかった小規模な凹凸をSeaXerocks1が取得した地形図上に読み取ることができる.マウンド周囲の海底では露頭とバクテリアマットが見られなかった.
(3)バブル湧出域における海底地形変化
地形データを2013年と2021年で比較したところ,両マウンド上に複数の地形変化を検出した. 2013年には小規模な高まりであり,2015年に海底面にMHの露出を観察したが,2021年には周辺を急崖で囲まれる陥没地形を呈していた箇所があった.また2013年から2021年の間に谷地形の範囲が拡大している箇所があった.地形変化が見られた場所では2021年にバブル湧出が観察された.
まとめ
ROVを用いた海底面の状況調査により表層型MHが賦存するマウンド上面の生物や岩石露頭の分布を把握し,海中に立ち上るバブルを観察した.バブルが観察された場所で8年の間の地形変化が示された.地形変化は表層型MHが消失した影響を受けている可能性がある.
謝 辞
本研究は経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した