09:15 〜 09:30
[MSD35-01] 衛星搭載水蒸気観測用差分吸収ライダー(DIAL)の技術実証〜海上風速同時観測の検討〜
キーワード:水蒸気、ライダー、海上風速
近年日本では線状降水帯による大雨の発生や台風の大型化が防災上大きな社会問題となっており防災・減災、国土強靱化のための対策が急務となっている。豪雨災害は予測精度を向上させることにより軽減されるが、予測には特に海上の下部対流圏の水蒸気分布情報が重要であることが指摘されている。衛星搭載ライダーは日本周辺海上の水蒸気観測が可能であり、数値予報モデルへのデータ同化により豪雨予測精度の向上が期待される。
現在の水蒸気観測は、ラジオゾンデ、陸域リモートセンシング、衛星の赤外線・マイクロ波センサ、GNSSなどで行われているが、空間及び時間分解能に問題がある。さらに上部対流圏・下部成層圏の境界領域に空白域がある。また、受動的衛星観測は水平方向のカバー領域は広いが、鉛直方向の分解能が不十分である。衛星搭載ライダーは、全球域の高分解能・高品質水蒸気データを提供するとともに、バイアス誤差が無いためパッシブリモートセンシング装置の校正にも利用でき、衛星搭載センサによる面的な観測とのシナジー効果が期待できる。
我々は、1350nmの吸収帯を利用したOPA(Optical Parametric Amplifier)送信機を用いた2ビーム衛星搭載水蒸気DIALを提案している[1]。QPM(Quasi Phase Matching)素子を用いたOPAシステムは、1パスアンプであるため、従来の位相整合型OPO(Optical Parametric Oscillator)に比べて制約が少なく、衛星搭載用として有利である。
水蒸気の鉛直分布と同様に、海面付近の水蒸気量の測定は、豪雨の予測や海洋と大気間のフラックスの推定に特に重要である。そこで、我々はDIALミッションの仕様を大きく変えることなく、IPDA(Integrated Path Differential Absorption)技術を用いて、大気後方散乱と海面反射の両方の信号を用いた海面付近の水蒸気のDIAL観測を追加提案した。これは大気後方散乱信号よりも強い海面反射信号の差分吸収を利用するものである。衛星軌道高度を400kmとしたIPDA-DIALの水蒸気密度のランダム誤差は、水平分解能20kmで、海面から高度300mまでの水蒸気積算量を誤差10%、海面から高度600mまでの水蒸気積算量なら誤差5%で観測することができる。このシミュレーションは夜間を想定しているが、この波長域は水蒸気の吸収により背景光量が少ないため、昼間の観測にも有利である。例えば昼間観測でも海面から高度500mまでの水蒸気積算量を誤差10%で測定可能である。
また衛星搭載ライダーで測定される海面散乱係数から海上の風速を推定する方法[2]をIPDA-DIALのoff信号に適用することにより、大気混合層(熱帯では海面から高度500m前後)の水蒸気量と同時に、海面付近の風速を計測することにより、客観解析データなどの気温情報と合わせると、潜熱・顕熱フラックスのスナップショット毎の計算が可能になる。
今回は実際のCALIPSOの海面散乱係数データを用いて、日本南方の海上風速測定の検証を行った。使用したデータはCALIPSO衛星の1064nmの減衰後方散乱係数を用いて海上軌跡に沿った風速を求めた。検証のために、AMSR-2のマイクロ波放射計によるL3-海上風速データ[3]と気象観測船啓風丸による気象観測データとの比較を行った。図にこれら3つのデータの比較結果を示す。比較日(2018/7/30)のパスは台風の外側を横切る軌跡であり、風速が大きい地点ではCALPSOから求めた風速に比べてマイクロ波放射計の値が小さくなっているが、これはライダーの測定領域がマイクロ波放射計より狭いことに起因していると考えられる。一方比較的風速が低い領域では両衛星観測データと観測船での測定値はよく一致しており、海面散乱係数からの海上風速推定の有効性が確認できた。
風速が大きい場合には海面からの散乱強度が減少するため、水蒸気観測誤差に影響が出る可能性がある。例えば風速5m/sに比べて風速15m/sの海面散乱信号強度は約40%に減少するが、IPDA方式による水蒸気測定誤差は海面散乱光強度に比べて弱い大気散乱光強度に依存するため、その影響は無視できることを確認した。
参考文献
[1] 阿保真他、レーザセンシング学会誌、1 (2020) 72.
[2] Y. Hu et al., Atmos. Chem. Phys., 8 (2008) 3593.
[3] https://doi.org/10.57746/EO.01gs73b1h9cmqv0tv8a51dsctp
現在の水蒸気観測は、ラジオゾンデ、陸域リモートセンシング、衛星の赤外線・マイクロ波センサ、GNSSなどで行われているが、空間及び時間分解能に問題がある。さらに上部対流圏・下部成層圏の境界領域に空白域がある。また、受動的衛星観測は水平方向のカバー領域は広いが、鉛直方向の分解能が不十分である。衛星搭載ライダーは、全球域の高分解能・高品質水蒸気データを提供するとともに、バイアス誤差が無いためパッシブリモートセンシング装置の校正にも利用でき、衛星搭載センサによる面的な観測とのシナジー効果が期待できる。
我々は、1350nmの吸収帯を利用したOPA(Optical Parametric Amplifier)送信機を用いた2ビーム衛星搭載水蒸気DIALを提案している[1]。QPM(Quasi Phase Matching)素子を用いたOPAシステムは、1パスアンプであるため、従来の位相整合型OPO(Optical Parametric Oscillator)に比べて制約が少なく、衛星搭載用として有利である。
水蒸気の鉛直分布と同様に、海面付近の水蒸気量の測定は、豪雨の予測や海洋と大気間のフラックスの推定に特に重要である。そこで、我々はDIALミッションの仕様を大きく変えることなく、IPDA(Integrated Path Differential Absorption)技術を用いて、大気後方散乱と海面反射の両方の信号を用いた海面付近の水蒸気のDIAL観測を追加提案した。これは大気後方散乱信号よりも強い海面反射信号の差分吸収を利用するものである。衛星軌道高度を400kmとしたIPDA-DIALの水蒸気密度のランダム誤差は、水平分解能20kmで、海面から高度300mまでの水蒸気積算量を誤差10%、海面から高度600mまでの水蒸気積算量なら誤差5%で観測することができる。このシミュレーションは夜間を想定しているが、この波長域は水蒸気の吸収により背景光量が少ないため、昼間の観測にも有利である。例えば昼間観測でも海面から高度500mまでの水蒸気積算量を誤差10%で測定可能である。
また衛星搭載ライダーで測定される海面散乱係数から海上の風速を推定する方法[2]をIPDA-DIALのoff信号に適用することにより、大気混合層(熱帯では海面から高度500m前後)の水蒸気量と同時に、海面付近の風速を計測することにより、客観解析データなどの気温情報と合わせると、潜熱・顕熱フラックスのスナップショット毎の計算が可能になる。
今回は実際のCALIPSOの海面散乱係数データを用いて、日本南方の海上風速測定の検証を行った。使用したデータはCALIPSO衛星の1064nmの減衰後方散乱係数を用いて海上軌跡に沿った風速を求めた。検証のために、AMSR-2のマイクロ波放射計によるL3-海上風速データ[3]と気象観測船啓風丸による気象観測データとの比較を行った。図にこれら3つのデータの比較結果を示す。比較日(2018/7/30)のパスは台風の外側を横切る軌跡であり、風速が大きい地点ではCALPSOから求めた風速に比べてマイクロ波放射計の値が小さくなっているが、これはライダーの測定領域がマイクロ波放射計より狭いことに起因していると考えられる。一方比較的風速が低い領域では両衛星観測データと観測船での測定値はよく一致しており、海面散乱係数からの海上風速推定の有効性が確認できた。
風速が大きい場合には海面からの散乱強度が減少するため、水蒸気観測誤差に影響が出る可能性がある。例えば風速5m/sに比べて風速15m/sの海面散乱信号強度は約40%に減少するが、IPDA方式による水蒸気測定誤差は海面散乱光強度に比べて弱い大気散乱光強度に依存するため、その影響は無視できることを確認した。
参考文献
[1] 阿保真他、レーザセンシング学会誌、1 (2020) 72.
[2] Y. Hu et al., Atmos. Chem. Phys., 8 (2008) 3593.
[3] https://doi.org/10.57746/EO.01gs73b1h9cmqv0tv8a51dsctp