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[MZZ42-05] コンゴウアナゴを用いた拓洋第5海山と日本列島沿岸域の連結性に関する研究
キーワード:MIG-seq、コバルトリッチクラスト、遺伝的多様性、深海性魚類
海洋鉱物資源開発の環境影響評価では、生物多様性とその維持・形成に寄与する連結性の事前評価が重要である。こういった生物連結性についての調査はプランクトン、ベントスからネクトンと幅広い生物種を用いて評価することが望ましいが、魚類のような広範囲を自由に動けるネクトンを用いて海山と沿岸の連結性を評価した例は殆どない。そこで、我々は2020年7月に海底掘削試験が行われ、掘削後の魚類の影響が評価された拓洋第5海山に注目し(Washburn et al. 2023)、その海域と沿岸域の接続性について調査することを目的とした。具体的には、ベイトトラップにて容易に採集でき、極域を除くほぼすべての海洋に分布するコンゴウアナゴを対象として、拓洋第5海山と沖縄トラフ、駿河湾、ベヨネース海丘という数1000kmスケールの生物連結性調査を試みた。まず、これら4海域から合計122個体のコンゴウアナゴを採集し、MIG-seq法を用いてゲノムワイドな7199SNPマーカーを取得した。このSNPデータをもとに集団構造解析を行った結果、4海域間に遺伝的分化は生じておらず、最も直線距離が離れている沖縄トラフ―拓洋第5海山(約2,500 km)においてもFstが0と遺伝的な差異がないことを示す結果となった.次に,各海域間の個体移住率を検出したところ、本研究で調べた4地点において、コンゴウアナゴは駿河湾からベヨネース海丘にかけて強い方向性を持った移住を起こしている可能性が示された.これは駿河湾からベヨネース海丘間の海流シミュレーションで示された、強い方向性を持った表層流と一致した。このことから,コンゴウアナゴのような広域分布種が,表層流によって方向性を持った移動・移住が助長される可能性が高いことが明らかになった。以上より、表層海流を利用することで、拓洋第5海山には幅広い範囲からコンゴウアナゴが供給される可能性が高く、本研究ではコンゴウアナゴの遺伝子データと海流のシミュレーションを使って、沿岸に生息する個体群と沖合海山に生息する個体群が高い接続性を持っていることを明らかにすることができた。