日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ44] 地質と文化

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:先山 徹(NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)、川村 教一(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、鈴木 寿志(大谷大学)

17:15 〜 18:45

[MZZ44-P01] 岡山県新見市におけるカルスト台地での暮らしと地質的背景

*先山 徹1 (1.NPO法人地球年代学ネットワーク 地球史研究所)

キーワード:石灰岩、カルスト地形、ドリーネ、鍾乳洞

西南日本にはペルム紀中~後期付加体で構成されるカルスト台地が点在している.それらの台地は無数のカレンフェルトやドリーネが分布する広大な草原で特徴づけられ,地下には大規模な鍾乳洞がある.雄大な景観は観光地として知られ,国定公園やジオパーク等に認定されている.岡山県北西部の新見市に存在する阿哲台もこれらと同様ペルム紀付加体で構成されているが,台地上は生活の場であり,観光地としてはあまり認識されていない.この発表では,そのような阿哲台の暮らしと文化を形成した地質的背景について述べる。
阿哲台は中国地方の吉備高原面に属する標高400m前後の平坦面からなり,台地上にはドリーネ,カレンフェルト,カルスト谷など特有の地形が多く見られる.阿哲台に見られる鍾乳洞は天井が高く構造に支配された「直線型洞窟」,天井が低く狭い通路が網目状に連結した「横穴迷路型洞窟」,ドリーネの底から斜めに低下する「吸い込み穴型洞窟」に分けられる(阿哲団体研究グループ,1970).そのうち最も多いのは吸い込み穴型洞窟で,広い面積を占める大規模な横穴型のものは少ない。
阿哲台の地質図を見ると,全体が一つの石灰岩体ではなく,石灰岩と他の付加体堆積岩が層状に重なっていることがわかる.そのため地下に大規模な洞窟はできにくい.地表にできるドリーネは地下の鍾乳洞と関係し,しばしば地下で発達した鍾乳洞の天井が陥没することで地表にすり鉢型の陥没ドリーネが形成される.阿哲台において特に大型の吸い込み穴型鍾乳洞を伴うドリーネは,いずれも石灰岩以外の地質分布域から連続する谷の延長上に形成されている.
暮らしの場としてみた阿哲台の特徴は,集落や農地の大部分が石灰岩地域にあり,他の付加体堆積物の地域は主に森林となっていることである.日当たりの良いドリーネの傾斜地は農地として積極的に使用されている.中には小規模であるがドリーネ内に集落が形成されているところもある.そこでは水はけの良いドリーネ斜面に桃やブドウなどの果樹が栽培される一方,ドリーネの底には小川が流れ,小規模な水田も作られている.家屋はドリーネの底にも建設されている.また小川の水はドリーネの壁面にある吸い込み穴から横方向に流れている. 
 以上のことから,阿哲台の地質構造が地表に横穴の吸い込み口を有するドリーネを発達させ,阿哲台地域の人々がドリーネの利用など石灰岩地域を生活の場とすることにつながったと考えられる.集落に近い吸い込み穴型洞窟では,鍾乳洞を御神体とする日咩坂鐘乳穴(ひめさかかなちあな)神社や,修験者の修業の場となったとされる羅生門など,多くの鍾乳洞が信仰の場となった.水に乏しい阿哲台は古くから葉タバコ,ソバ,台地上を覆う黒ボク土を利用した大根などの野菜,果樹が盛んに栽培され,近年ではワイン用のブドウが盛んに栽培されるようになった。さらに2021年からは吸い込み穴型鍾乳洞の天井が陥没して形成された天然橋である羅生門を中心に,ガイド付きのジオツーリズムも展開されるようになった.大きな観光地とはなり得なかったが,むしろこのような地質とともに暮らしてきたことを知ることによって地域を誇りに思う心が生まれ,それを伝える活動につながりつつある.

引用文献 阿哲団体研究グループ(1970): 洞くつ地質学ノート 5. 阿哲台の鍾乳洞と河岸段丘.地球科学,24,225-227.