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[MZZ44-P02] 奄美大島,徳之島および宮古島で使用されていた石臼の岩石学的特徴について
キーワード:石臼、安山岩、硫黄鳥島、奄美大島、徳之島、宮古島
1.はじめに
沖縄島の民家で広く用いられていた石臼(碾臼)の岩石学的特徴について,演者は最近予察的な調査結果を発表した(川村,2023).この発表では,沖縄島の石臼は一定の岩石学的特徴(斑状,黒~暗灰の色調,斜長石と輝石からなる斑晶,ある範囲の帯磁率)に収まり,これらは従来の考えの通り硫黄鳥島産である.石材として大城(2020)により検討が求められていた久米島産の安山岩は,石臼には用いられた例はまだ見つかっていない.ところでこのような石臼は,沖縄島以外の南西諸島でも用いられているといわれている.そこで演者は,沖縄島の石臼についての調査結果(川村,2023)と,それ以外の島で用いられていた石臼石材の特徴を比較し,硫黄鳥島産石臼の分布範囲を岩石学的データをもとに明らかにしようと考えた.本発表では,鹿児島県奄美大島,徳之島および沖縄県宮古島内の博物館施設で収蔵されている石臼石材の調査結果を取り上げる.
2.調査方法
(1)対象
石臼は,奄美大島では奄美市立奄美博物館、徳之島では天城町立ユイの館,伊仙町立歴史民俗資料館,徳之島町立郷土資料館,宮古島では宮古島市総合博物館の収蔵品の一部を調査した.
(2)岩相の観察
岩相は,川村(2023)と同様に,付着物のない面を対象に石基の色調,気泡の有無・大きさ,斑晶鉱物の有無やその種類・粒径・量を肉眼で観察して記載した.
(3)帯磁率の測定
石臼同士の類似性を検討するために,川村(2023)と同様の方法により,帯磁率の測定値20点の平均値と標準偏差を求めた.帯磁率は,岩相記載と同様に付着物がないおおむね平坦な面を選んで,1面につき20点ずつ測定した.測定機器には携帯型帯磁率計(Terraplus社製KT-10)を用いてピンモードで測定した.
3.調査結果
石臼95点(上下別に計数)を調査した.内訳は奄美市11点,天城町6点,伊仙町21点,徳之島町10点,宮古島市47点である.調査した石臼は火山岩(黒色~暗灰色~灰色)であった.肉眼観察結果では,一般的に斜長石の斑晶を含む斑状組織で,まれに輝石が見られることから輝石安山岩である.石臼の帯磁率の平均値は,奄美大島で2.5~31.9×10-3SI,徳之島で2.7~27.4×10-3SI,宮古島で3.1~20.1×10-3SIである.
4.沖縄島の石臼との比較
調査した奄美大島の石臼の岩石の色調,組織,斑晶鉱物の組成は,沖縄島のものと同様である.奄美大島の石臼の帯磁率平均値は,沖縄島のそれの範囲内に収まっている.これらのことから,奄美大島でみられる石臼は沖縄島のものと岩石学的に類似しており,硫黄鳥島産の石材が用いられているといえる.また,徳之島や宮古島の石臼の特徴も沖縄島のものと同様である.また、両島の石臼の帯磁率平均値と標準偏差は,沖縄島のそれの範囲内に収まっている.これらのことから,両島でみられる石臼も沖縄島のものと岩石学的に同一であり,こちらも硫黄鳥島産の石材が用いられているといえる.
5.課題
本調査結果のような離島における同一石材による石臼の分布状況が明らかになれば,南西諸島の食文化と石材利用の関係が明らかになる.今後は硫黄鳥島産石臼の北限・南限を明らかにするため,南西諸島における調査を継続したい.
謝辞 奄美市立奄美博物館,伊仙町立歴史民俗資料館,天城町立ユイの館,徳之島町立郷土資料館,宮古島市総合博物館の学芸員諸氏には調査にご協力いいただいた.本研究の費用の一部にJSPS科研費・基盤研究(B)課題番号21H00621(代表者 先山徹)を使用した.ご支援いただいた関係各位に御礼申し上げる.
引用文献
川村教一(2023)沖縄県で使用されていた石臼の岩石学的特徴について(予報).日本地質学会第130年学術大会2023京都大会講演要旨,T10-O-2.
大城逸郎(2020)石臼いろいろ.おきなわ石の会.http://okinawanoishi.blog96.fc2.com/blog-entry-472.html(2023.6.26閲覧)
沖縄島の民家で広く用いられていた石臼(碾臼)の岩石学的特徴について,演者は最近予察的な調査結果を発表した(川村,2023).この発表では,沖縄島の石臼は一定の岩石学的特徴(斑状,黒~暗灰の色調,斜長石と輝石からなる斑晶,ある範囲の帯磁率)に収まり,これらは従来の考えの通り硫黄鳥島産である.石材として大城(2020)により検討が求められていた久米島産の安山岩は,石臼には用いられた例はまだ見つかっていない.ところでこのような石臼は,沖縄島以外の南西諸島でも用いられているといわれている.そこで演者は,沖縄島の石臼についての調査結果(川村,2023)と,それ以外の島で用いられていた石臼石材の特徴を比較し,硫黄鳥島産石臼の分布範囲を岩石学的データをもとに明らかにしようと考えた.本発表では,鹿児島県奄美大島,徳之島および沖縄県宮古島内の博物館施設で収蔵されている石臼石材の調査結果を取り上げる.
2.調査方法
(1)対象
石臼は,奄美大島では奄美市立奄美博物館、徳之島では天城町立ユイの館,伊仙町立歴史民俗資料館,徳之島町立郷土資料館,宮古島では宮古島市総合博物館の収蔵品の一部を調査した.
(2)岩相の観察
岩相は,川村(2023)と同様に,付着物のない面を対象に石基の色調,気泡の有無・大きさ,斑晶鉱物の有無やその種類・粒径・量を肉眼で観察して記載した.
(3)帯磁率の測定
石臼同士の類似性を検討するために,川村(2023)と同様の方法により,帯磁率の測定値20点の平均値と標準偏差を求めた.帯磁率は,岩相記載と同様に付着物がないおおむね平坦な面を選んで,1面につき20点ずつ測定した.測定機器には携帯型帯磁率計(Terraplus社製KT-10)を用いてピンモードで測定した.
3.調査結果
石臼95点(上下別に計数)を調査した.内訳は奄美市11点,天城町6点,伊仙町21点,徳之島町10点,宮古島市47点である.調査した石臼は火山岩(黒色~暗灰色~灰色)であった.肉眼観察結果では,一般的に斜長石の斑晶を含む斑状組織で,まれに輝石が見られることから輝石安山岩である.石臼の帯磁率の平均値は,奄美大島で2.5~31.9×10-3SI,徳之島で2.7~27.4×10-3SI,宮古島で3.1~20.1×10-3SIである.
4.沖縄島の石臼との比較
調査した奄美大島の石臼の岩石の色調,組織,斑晶鉱物の組成は,沖縄島のものと同様である.奄美大島の石臼の帯磁率平均値は,沖縄島のそれの範囲内に収まっている.これらのことから,奄美大島でみられる石臼は沖縄島のものと岩石学的に類似しており,硫黄鳥島産の石材が用いられているといえる.また,徳之島や宮古島の石臼の特徴も沖縄島のものと同様である.また、両島の石臼の帯磁率平均値と標準偏差は,沖縄島のそれの範囲内に収まっている.これらのことから,両島でみられる石臼も沖縄島のものと岩石学的に同一であり,こちらも硫黄鳥島産の石材が用いられているといえる.
5.課題
本調査結果のような離島における同一石材による石臼の分布状況が明らかになれば,南西諸島の食文化と石材利用の関係が明らかになる.今後は硫黄鳥島産石臼の北限・南限を明らかにするため,南西諸島における調査を継続したい.
謝辞 奄美市立奄美博物館,伊仙町立歴史民俗資料館,天城町立ユイの館,徳之島町立郷土資料館,宮古島市総合博物館の学芸員諸氏には調査にご協力いいただいた.本研究の費用の一部にJSPS科研費・基盤研究(B)課題番号21H00621(代表者 先山徹)を使用した.ご支援いただいた関係各位に御礼申し上げる.
引用文献
川村教一(2023)沖縄県で使用されていた石臼の岩石学的特徴について(予報).日本地質学会第130年学術大会2023京都大会講演要旨,T10-O-2.
大城逸郎(2020)石臼いろいろ.おきなわ石の会.http://okinawanoishi.blog96.fc2.com/blog-entry-472.html(2023.6.26閲覧)