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[MZZ46-P20] 島原半島ユネスコ世界ジオパーク内の小・中学生に提供している学習プログラムの展開
キーワード:ふるさと教育、学習需要、学習プログラム、学習の担い手不足、ガイド養成及び育成
1. はじめに
島原半島内の小・中学校では、ふるさと教育の推進や多忙化する学校教育現場などを理由に、ジオパーク学習(以下、ジオ学習)の件数が年々増加し、2023年度は過去最多の71件であった。ジオ学習の拡大の背景には、学習を提供する島原半島ジオパーク協議会(以下、同協議会)が、学習プランをまとめた学習案内しおりを作成し、教育委員会を通じて学校へ周知してきたことや、教職員向けのジオ学習を毎年実施してきたことなどが挙げられる。これは2009年の世界ジオパーク認定以降、ジオ学習の導入を促進してきた成果といえる。
これを踏まえて同協議会では、これまでジオパーク地域を構成する各市のジオ学習の活動実態(森本,2022)や、ジオパークを題材にした夏休み自由研究作品の傾向をもとにジオ学習の教育効果を分析してきた(森本,2023)。しかし一方で、教育活動の柱である学習プログラムの種類や内容、学習手法などについて詳細な議論をしてこなかった。
そこで本発表では、同協議会が提供してきた代表的な5つの学習プログラムを紹介し、それらの特徴を通じて今後のジオ学習の課題や展望を検討する。
2. 学習プログラムの種類や内容、学習手法
2‐1.講話
本講話は、火山などの地球活動からもたらされる災害や恵みを通じて、防災意識の向上や郷土への誇りを醸成させることを目的に実施している。学習時間は40分~80分程度で、学習内ではジオパーク専門員(以下、専門員)やジオパーク認定ガイド(以下、ガイド)が、写真や小道具などの資料を用いて学習を行っている。
2‐2.バスツアー
本ツアーは、ジオパークの見どころであるジオサイト(以下、サイト)や移動中の車窓風景の見学を通じて、地域の魅力を紹介するものである。学習時には、地形や地層の特徴から紐解く「島原半島の成立ちをさぐるコース」や雲仙普賢岳の災害を学ぶ「平成噴火をたどるコース」などの学習コースに沿って、関連したサイトを案内している。また、各サイトでは謎掛けを準備し、それを現地で児童や生徒と一緒に解き明かしていく学習を展開している。学習時間は半日ないしは1日である。
2‐3.まち歩き学習
児童や生徒の気付きや感想を書き込める学習専用の「宝物マップ」を用いて、学校周辺部で見られる風景や地域資源(宝物)を探索する学習である。各学校の周辺部では地域資源が異なるため、学校ごとのオリジナルコースが作成されている。この学習コースの作成には、学校側の要望や学習時間を協議した専門員がオーダメイドで行っている。
2‐4.理科学習
実験を通じた扇状地などの地形のでき方や、剥取り標本を用いた地層の観察、専用のシートを用いた岩石標本作りなど、専門員が考案した教材をもとに理科学習を提供している。ワークショップを伴うため、児童や生徒にとって学習意欲の向上を促しやすい特徴をもつ。学習時間は、学校側と応相談で決めている。
2‐5.SDGs学習
気候変動をテーマにしたゲーム要素を取り入れたワークショップを通じて、SDGsとジオパーク活動の関わりを伝えている。学習内では、島原半島の身近な食材を事例に、その食材が今後の気候変動により消失する恐れがあると伝え、気候変動は地域の人々の暮らしに密接に関係する課題であると紹介している。学習時間は最低120分必要となる。
3.考察
上記のことから、同協議会が児童や生徒の学びと楽しさの充実を図り、多面的な内容や手法にて学習プログラムを提供してきたことがわかる。学習プログラムの展開を2012年度から振り返ったところ、2012年度は講話とバスツアーのみであったが、2014年度に理科学習、2015年度にまち歩き学習、2020年度にSDGs学習が始まったことが明らかになった。このことは、ジオ学習の中心的な役割を担ってきた専門員が、学習プログラムを考案しながら拡大させてきたことを示している。
一方で専門員に依存してきた学習スタイルが多いため、学習の担い手不足やその担い手となるガイドの高齢化が課題である。2012年度から2023年度までの学習別の対応者属性の累計件数をみると、専門員は幅広い学習に対応してきたものの、ガイドはバスツアーが全体の約7割を占め、理科学習やSDGs学習はほとんど行ってこなかった。また、ガイドが中心を担ってきたバスツアーも、ガイドの高齢化に伴い年々対応が難しくなってきた。今後は、ガイドの若返り化やスキルアップを図りつつ、幅広い学習に対応できるガイドの養成や育成が急務である。
4.今後のジオ学習の展望
同協議会では、これまでジオ学習を通じて子どもたちへ郷土愛の醸成や地球環境と人々との関わりを伝えてきた。ジオパーク認定から約15年が経過し、ジオパークを取り巻く社会環境も変化してきた。今後の多様な学習需要に応えるためにも、ジオ学習を提供する側の持続可能な組織づくりや学習体制などの強化が必要である。
島原半島内の小・中学校では、ふるさと教育の推進や多忙化する学校教育現場などを理由に、ジオパーク学習(以下、ジオ学習)の件数が年々増加し、2023年度は過去最多の71件であった。ジオ学習の拡大の背景には、学習を提供する島原半島ジオパーク協議会(以下、同協議会)が、学習プランをまとめた学習案内しおりを作成し、教育委員会を通じて学校へ周知してきたことや、教職員向けのジオ学習を毎年実施してきたことなどが挙げられる。これは2009年の世界ジオパーク認定以降、ジオ学習の導入を促進してきた成果といえる。
これを踏まえて同協議会では、これまでジオパーク地域を構成する各市のジオ学習の活動実態(森本,2022)や、ジオパークを題材にした夏休み自由研究作品の傾向をもとにジオ学習の教育効果を分析してきた(森本,2023)。しかし一方で、教育活動の柱である学習プログラムの種類や内容、学習手法などについて詳細な議論をしてこなかった。
そこで本発表では、同協議会が提供してきた代表的な5つの学習プログラムを紹介し、それらの特徴を通じて今後のジオ学習の課題や展望を検討する。
2. 学習プログラムの種類や内容、学習手法
2‐1.講話
本講話は、火山などの地球活動からもたらされる災害や恵みを通じて、防災意識の向上や郷土への誇りを醸成させることを目的に実施している。学習時間は40分~80分程度で、学習内ではジオパーク専門員(以下、専門員)やジオパーク認定ガイド(以下、ガイド)が、写真や小道具などの資料を用いて学習を行っている。
2‐2.バスツアー
本ツアーは、ジオパークの見どころであるジオサイト(以下、サイト)や移動中の車窓風景の見学を通じて、地域の魅力を紹介するものである。学習時には、地形や地層の特徴から紐解く「島原半島の成立ちをさぐるコース」や雲仙普賢岳の災害を学ぶ「平成噴火をたどるコース」などの学習コースに沿って、関連したサイトを案内している。また、各サイトでは謎掛けを準備し、それを現地で児童や生徒と一緒に解き明かしていく学習を展開している。学習時間は半日ないしは1日である。
2‐3.まち歩き学習
児童や生徒の気付きや感想を書き込める学習専用の「宝物マップ」を用いて、学校周辺部で見られる風景や地域資源(宝物)を探索する学習である。各学校の周辺部では地域資源が異なるため、学校ごとのオリジナルコースが作成されている。この学習コースの作成には、学校側の要望や学習時間を協議した専門員がオーダメイドで行っている。
2‐4.理科学習
実験を通じた扇状地などの地形のでき方や、剥取り標本を用いた地層の観察、専用のシートを用いた岩石標本作りなど、専門員が考案した教材をもとに理科学習を提供している。ワークショップを伴うため、児童や生徒にとって学習意欲の向上を促しやすい特徴をもつ。学習時間は、学校側と応相談で決めている。
2‐5.SDGs学習
気候変動をテーマにしたゲーム要素を取り入れたワークショップを通じて、SDGsとジオパーク活動の関わりを伝えている。学習内では、島原半島の身近な食材を事例に、その食材が今後の気候変動により消失する恐れがあると伝え、気候変動は地域の人々の暮らしに密接に関係する課題であると紹介している。学習時間は最低120分必要となる。
3.考察
上記のことから、同協議会が児童や生徒の学びと楽しさの充実を図り、多面的な内容や手法にて学習プログラムを提供してきたことがわかる。学習プログラムの展開を2012年度から振り返ったところ、2012年度は講話とバスツアーのみであったが、2014年度に理科学習、2015年度にまち歩き学習、2020年度にSDGs学習が始まったことが明らかになった。このことは、ジオ学習の中心的な役割を担ってきた専門員が、学習プログラムを考案しながら拡大させてきたことを示している。
一方で専門員に依存してきた学習スタイルが多いため、学習の担い手不足やその担い手となるガイドの高齢化が課題である。2012年度から2023年度までの学習別の対応者属性の累計件数をみると、専門員は幅広い学習に対応してきたものの、ガイドはバスツアーが全体の約7割を占め、理科学習やSDGs学習はほとんど行ってこなかった。また、ガイドが中心を担ってきたバスツアーも、ガイドの高齢化に伴い年々対応が難しくなってきた。今後は、ガイドの若返り化やスキルアップを図りつつ、幅広い学習に対応できるガイドの養成や育成が急務である。
4.今後のジオ学習の展望
同協議会では、これまでジオ学習を通じて子どもたちへ郷土愛の醸成や地球環境と人々との関わりを伝えてきた。ジオパーク認定から約15年が経過し、ジオパークを取り巻く社会環境も変化してきた。今後の多様な学習需要に応えるためにも、ジオ学習を提供する側の持続可能な組織づくりや学習体制などの強化が必要である。