日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[O-07] キッチン地球科学:多様な到達点を生む実験

2024年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:熊谷 一郎(明星大学理工学部)、鈴木 絢子(東洋大学)、下川 倫子(奈良女子大学)、栗田 敬(東京工業大学 地球生命研究所)、座長:熊谷 一郎(明星大学理工学部)、鈴木 絢子(東洋大学)、下川 倫子(奈良女子大学)、栗田 敬(東京工業大学 地球生命研究所)

11:00 〜 11:15

[O07-06] 定時制高校科学部の挑戦  〜われわれの装置は今,宇宙をわたる〜

★招待講演

*久好 圭治1,2、谷口 真基2江菅 純一3 (1.大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻、2.大阪府立今宮工科高等学校定時制の課程、3.大阪府立槻の木高等学校)

キーワード:定時制高校科学部、微小重力発生装置、重力可変装置、磁気分離、反磁性、火星

定時制科学部の活動は夜9時過ぎから始まる.活動時間はわずか1時間.朝から働いて,夕方から授業を受けて,それが終わってからが活動時間だ.いい加減疲れているはずなのに,部員たちが集まってくるのは「まだ誰も見たことがないことを自分たちが見たい」というモチベーションがあるから.うっかり休んだりした日に実験が成功したりしたらショックで寝込んでしまう.だから疲れていても休まない.
誰もしたことのない事をやろうとするのだから,実験装置は自作するしかない.そんなもの市販されているはずがない.生徒会費も少ないから,あまり研究資金もない.ホームセンターや100円均一ショップで使えるものを物色する.研究資金がないから知恵を絞る.みんなの知恵と知識を寄せ集めて,実験装置を考案し自作する.
新入部員が入ってきて,まず戸惑うことは「科学部に入ったはずなのに,ここは木工部?建築部?」.パソコンやメカメカしい機器を使っての研究なんて遠い未来.最初はノコギリの引き方,ドライバーの回し方から学ぶ.今時の子の例に漏れず,ほとんどの子はこれができない.精密実験をするための実験装置を作るので,少しの歪みが影響する.不器用な子たちは叱られながら成長する.よくしたもので,定時制には時々,大ベテランのお爺ちゃんや現役職人が入学する.孫ほどの同級生に大工仕事を教えながら装置を作る.
はじめは何が何だかわからないままノコギリを引いている生徒も,「何故この歪みが影響するのか」「この穴を何のために開けるのか」を知っていくなかで,何のためのどういった装置なのかを理解していく.紙と鉛筆は使わない学びを深めていきながら,装置に愛着を持ち,実験に誇りを持つ.実験を始めたら,当然うまくいかない.またみんなで知恵を絞る.みんなの知恵と知識を寄せ集めるから,見ようとした物理現象が見えてくる.基礎学力が十分でなくても,こうして実験のイメージをつかむ.
我々の実験テリトリーは重力関連実験と磁気関連実験.重力関連では微小重力発生装置と重力可変装置を製作した.目的の精密実験をするための環境を作るためには,装置の振動を抑えることが必要.そのために,できる努力を重ねてきた.また,磁性に関する実験では,磁石には反応しないと思われている物質:反磁性体や常磁性体を対象とした.微小重力実験装置を組み合わせたり,新規の測定法をひねり出したり,苦しみながら,そして楽しみながら目的を達成している.われわれが工夫を重ねた手作りの実験装置を紹介する.