13:45 〜 15:15
[O08-P14] 活火山「池田・山川」における簡易希釈法を用いた火山ガス観測
キーワード:火山ガス
1.はじめに
気象庁が常時観測していない活火山「池田・山川」をフィールドに噴火予知を目指し,簡易法を工夫して火山ガス定期観測に取り組んでいる。今回は3年間の総括を行い,噴火や火山活動の化学的指標となる特性成分濃度や組成の変化を検討する。
2.方法
Fig.1の指宿火山群に位置する3カ所1)の噴気帯で火山ガス測定を行う。測定成分は岩崎2)の表を参考にCO2・H2S・SO2とし,水蒸気量は凝縮体積から求めた。噴気温度は熱電対温度計で行った。
(1) 希釈ポリ袋を用いた簡易希釈法による火山ガス測定
私たちは短時間で簡単に測定するために,廉価な市販ガスセンサーの活用を考え,チャック付き耐熱性高密度ポリエチレン袋(Fig.2)を用い周囲の空気で正確に50倍程度に希釈し,ガスセンサーとガス検知管を併用し濃度決定することにした。
SO2の測定はH2Sのガス検知管でH2Sを除去後,SO2の検知管で濃度測定する沢田3)の方法を用いた。
なお,簡易希釈法を用いて火山ガスと同濃度程度のCO2で系統誤差の検討実験を行い,火山ガスを300mL採取量とすることで5%程度の誤差になることを確認した。
(2)凝結水・温泉水の化学分析法
昨年度から火山ガスの凝結水・温泉水も採取し,溶けている火山ガスの分析を行っている。凝結水はシリンジに結露したものを回収し,電導率やpHもセンサーで測定し,SO2は酸化処理した後,硫酸バリウム比濁法,Clーは塩化銀比濁法を用いて濃度を求めた。
3.結果と考察
(1) 指宿火山群における火山ガスの定期観測結果
噴気温度・各火山ガスの結果をFig.4~8に示す。
噴気温度は,水の沸点付近であり,湯峰権現は平均98.8℃,標準偏差2.4,スメ谷は平均98.1℃標準偏差2.2,鰻池スメ広場は平均97.4℃標準偏差1.4で3地点とも98~103℃の範囲で推移し,平均98.1℃である。
水蒸気濃度は,凝結した体積変動から濃度を計算した。湯峰権現は平均88% 標準偏差4,スメ谷は平均91%,標準偏差3,鰻池スメ広場は,平均86% 標準偏差3で3地点とも80~95%で推移し,平均88%である。
CO2・H2S共に変動が大きくいづれも鰻池スメ広場>スメ谷>湯峰権現の傾向がある。
SO2は,一昨年7月から測りはじめ,最初は5~20ppm程度あったが,月を経るごとにどんどん下がり,現在は検知管の検出限界0.1~0.01ppm付近を推移している。
噴気温度や火山ガス成分の火山活動の指標となる事象としては,SO2濃度の減少が挙げられるが,火山ガスの結露水に溶解している可能性もあり,比濁法による凝結水分析を行った。
3地点ともに,凝結水1mL中の溶解量は,SO2が150㎎/L,Cl-も150~170㎎/Lであることが分かった。SO2が全て溶けていたと仮定したときの火山ガス中の濃度は0.3ppmで,検知管の検出限界0.2ppm付近なので検知管の測定結果と一致する。
Cl-も全てHClであったとすると約1ppm弱と考えられる。
(2) 指宿火山群における噴火の化学的前兆現象
平林4)によると,噴火の化学的前兆現象として,火山ガスの特定成分の濃度変化(CO2・H2S・SO2・H2他)や組成変化(HCl・SO2・H2S)が報告されている。
指宿火山群においてもCO2/H2SとSO2/H2Sを検討したが,前者は顕著な増減が見られなかったが,SO2/H2SはFig.9のような減少がみられた。
4.研究のまとめと今後の課題
3年間の定期観測を経て指宿火山群3つの噴気での火山ガスは3地点とも噴気温度は100℃程度で,CO2(10000ppm)>H2S(200-500ppm)>SO2(20-0.2ppm) 程度であることが分かった。
さらに,噴火や火山活動の指標として,噴気温度やCO2,H2Sの各成分濃度やCO2/H2S成分比は顕著な変動が見られなかった。一方,SO2成分濃度やSO2/H2S組成変動が1年間に渡る継続的な減少傾向が見られたので,今後も注目して観測を続ける。
今後も火山ガス・温泉水の定期観測を継続し,これらを通じて活火山「池田・山川」における噴火や火山活動の指標となる特定の成分濃度変動や組成比変動等を見いだしたい。
5.参考文献
1) 国土地理院発行2.5万分1地形図
2) Iwasaki et al,1962,Volcanic gases in Japan,BuIl.Tokyo.Inst.Tech,No.47,1-54.
3) 沢田可洋,ガス検知管法による火山ガス分析,験震時報第35巻第1号,1970,1-13,気象庁
4)平林順一,火山ガス災害と火山噴火予知の現状,火山第2集第30巻(1986),S327-338
気象庁が常時観測していない活火山「池田・山川」をフィールドに噴火予知を目指し,簡易法を工夫して火山ガス定期観測に取り組んでいる。今回は3年間の総括を行い,噴火や火山活動の化学的指標となる特性成分濃度や組成の変化を検討する。
2.方法
Fig.1の指宿火山群に位置する3カ所1)の噴気帯で火山ガス測定を行う。測定成分は岩崎2)の表を参考にCO2・H2S・SO2とし,水蒸気量は凝縮体積から求めた。噴気温度は熱電対温度計で行った。
(1) 希釈ポリ袋を用いた簡易希釈法による火山ガス測定
私たちは短時間で簡単に測定するために,廉価な市販ガスセンサーの活用を考え,チャック付き耐熱性高密度ポリエチレン袋(Fig.2)を用い周囲の空気で正確に50倍程度に希釈し,ガスセンサーとガス検知管を併用し濃度決定することにした。
SO2の測定はH2Sのガス検知管でH2Sを除去後,SO2の検知管で濃度測定する沢田3)の方法を用いた。
なお,簡易希釈法を用いて火山ガスと同濃度程度のCO2で系統誤差の検討実験を行い,火山ガスを300mL採取量とすることで5%程度の誤差になることを確認した。
(2)凝結水・温泉水の化学分析法
昨年度から火山ガスの凝結水・温泉水も採取し,溶けている火山ガスの分析を行っている。凝結水はシリンジに結露したものを回収し,電導率やpHもセンサーで測定し,SO2は酸化処理した後,硫酸バリウム比濁法,Clーは塩化銀比濁法を用いて濃度を求めた。
3.結果と考察
(1) 指宿火山群における火山ガスの定期観測結果
噴気温度・各火山ガスの結果をFig.4~8に示す。
噴気温度は,水の沸点付近であり,湯峰権現は平均98.8℃,標準偏差2.4,スメ谷は平均98.1℃標準偏差2.2,鰻池スメ広場は平均97.4℃標準偏差1.4で3地点とも98~103℃の範囲で推移し,平均98.1℃である。
水蒸気濃度は,凝結した体積変動から濃度を計算した。湯峰権現は平均88% 標準偏差4,スメ谷は平均91%,標準偏差3,鰻池スメ広場は,平均86% 標準偏差3で3地点とも80~95%で推移し,平均88%である。
CO2・H2S共に変動が大きくいづれも鰻池スメ広場>スメ谷>湯峰権現の傾向がある。
SO2は,一昨年7月から測りはじめ,最初は5~20ppm程度あったが,月を経るごとにどんどん下がり,現在は検知管の検出限界0.1~0.01ppm付近を推移している。
噴気温度や火山ガス成分の火山活動の指標となる事象としては,SO2濃度の減少が挙げられるが,火山ガスの結露水に溶解している可能性もあり,比濁法による凝結水分析を行った。
3地点ともに,凝結水1mL中の溶解量は,SO2が150㎎/L,Cl-も150~170㎎/Lであることが分かった。SO2が全て溶けていたと仮定したときの火山ガス中の濃度は0.3ppmで,検知管の検出限界0.2ppm付近なので検知管の測定結果と一致する。
Cl-も全てHClであったとすると約1ppm弱と考えられる。
(2) 指宿火山群における噴火の化学的前兆現象
平林4)によると,噴火の化学的前兆現象として,火山ガスの特定成分の濃度変化(CO2・H2S・SO2・H2他)や組成変化(HCl・SO2・H2S)が報告されている。
指宿火山群においてもCO2/H2SとSO2/H2Sを検討したが,前者は顕著な増減が見られなかったが,SO2/H2SはFig.9のような減少がみられた。
4.研究のまとめと今後の課題
3年間の定期観測を経て指宿火山群3つの噴気での火山ガスは3地点とも噴気温度は100℃程度で,CO2(10000ppm)>H2S(200-500ppm)>SO2(20-0.2ppm) 程度であることが分かった。
さらに,噴火や火山活動の指標として,噴気温度やCO2,H2Sの各成分濃度やCO2/H2S成分比は顕著な変動が見られなかった。一方,SO2成分濃度やSO2/H2S組成変動が1年間に渡る継続的な減少傾向が見られたので,今後も注目して観測を続ける。
今後も火山ガス・温泉水の定期観測を継続し,これらを通じて活火山「池田・山川」における噴火や火山活動の指標となる特定の成分濃度変動や組成比変動等を見いだしたい。
5.参考文献
1) 国土地理院発行2.5万分1地形図
2) Iwasaki et al,1962,Volcanic gases in Japan,BuIl.Tokyo.Inst.Tech,No.47,1-54.
3) 沢田可洋,ガス検知管法による火山ガス分析,験震時報第35巻第1号,1970,1-13,気象庁
4)平林順一,火山ガス災害と火山噴火予知の現状,火山第2集第30巻(1986),S327-338