日本地球惑星科学連合2024年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P13] 簡易アルカリろ紙法を用いた桜島における火山ガス観測

*黒瀬 こころ1、*重吉 絢斗1、吉井 由1、川田代 航汰1、近森 たお1、長瀬 楽々1、菱田 琉斗1、角倉 暖野1 (1.学校法人池田学園池田高等学校)

キーワード:アルカリろ紙法、火山ガス

1.要旨
 桜島は噴火の有無に関わらず,水蒸気,SO2,HCl,HFなどの多くの火山ガスを常時噴出している。平林1)は,KOH水溶液に桜島の酸性火山ガスを吸収させ,桜島の火山活動とCl-/SO2などの組成比変動から化学的前兆現象を報告した。そこで,我々は火山活動を把握し,将来の噴火予知を目指して,現在の桜島から放出されている酸性火山ガス(HF,HCl,SO2)の組成比変動の測定に挑んだ。
 我々は複数種類の酸性ガスを同時に吸着することができるアルカリろ紙2)3)を用いた火山ガスの簡易捕集装置を製作,さらに自作吸光度計による定量法を確立し,2022年4月から1ヶ月毎に,県内15カ所に設置して観測している。これらのデータから火山活動の化学的指標としての火山ガス評価を行い,さらに火山灰量と火山ガスとの関係から,噴火前後における火山ガスの成分放出モデルを提唱した。
2.方法
2-1アルカリろ紙法3)
 アルカリろ紙法とは,塩基が付着したろ紙に酸性ガスを中和反応で吸着させるものである。アルカリろ紙はNa2CO3 水溶液(70g/L)に蒸留水で湯煎して洗浄した後に簡易デジケータ内で乾燥させたろ紙(10×2cm)をつけて,一晩乾かし作成した。そして,降灰や降雨からろ紙を守るためにペットボトルとプラコップなどを用いて簡易曝露架台「ソーダ君」(Fig.1,2)を作成,その中にろ紙を入れ,生徒や先生の協力を得て,県内15カ所に1設置した。設置期間は1ヶ月とした。
2-2 自作吸光光度計
 屋外設置を終えたアルカリろ紙は30分間70℃の蒸留水で湯煎して,その濾液で自作吸光光度計(Fig.3)を用いて比濁・吸光分析を行った。比濁法には青色LEDを用い,受光素子を用いた。架台は基板を針金とハンダで組み立て,遮光ケースに収めた。
 アルカリろ紙に,HClはCl-として,SO2はSO32-として,HFはF-として吸着するのでそれぞれ塩化銀比濁法4),硫酸バリウム比濁法,SPANDS法5)等にて濃度決定を行う。いずれにおいても試薬との反応前後の光電流の値を記録し,その光電流の比から吸光度を求め,検量線(Fig.5)を基に濃度を求めた。
3.結果と考察
3-1 火山活動や噴火とHCl/SO2変動の関係の検証
 平林1)は1974~80年に火口から3km圏内の観測点で観測し,「HCl/SO2比が大きくなる時に火山活動が活発になり,1979年の噴火のない月のピークについて噴火の前兆現象である」と報告している。我々も桜島にある火口から3km圏内にある赤水,有村において火山ガスの捕集量から求めたCl-/SO2と期間内の噴火回数を比較する。
 Fig.6がCl-/SO2と期間内の噴火回数を求めたものである。棒が噴火回数,折れ線が比率を表し,縦が比率と回数を,横が観測期間を表す。Cl-/SO2の値が大きいときには噴火数が大きくなることが分かり,比較的穏やかな現在において火山活動が活発だった時期の平林の実験結果と一致した。
 また,有村の4月において,噴火がなかったもののCl-/SO2の値が大きくなっており,これは噴火の前兆現象とみられる。
火山ガスの付着量を火山活動の化学的指標として評価するために日平均噴火数と比較した。以下の火山ガス濃度は有村と赤水を平均したものである。Fig.7からSO2が少ない期間(4/17~7/10)はその後の噴火の前兆現象なのではないかと考えられる。
Fig.8よりCl-とF-の付着量変動は概ね一致するが,2022年の4月の付着量が8月頃の噴火の前兆なのではないかと考えられ,Cl-とF-の付着量変動が火山活動の指標となる可能性がある。
また,我々は火山ガスの挙動と火山灰量関係(Fig.9と10)や桜島噴火の機構を併せて考え,Fig.11のような火山ガス放出モデルを考えた。
噴火の前兆現象としてはHF・HClの濃度上昇やSO2濃度減少それに伴うCl/SO2の上昇
であり,噴火に伴うSO2濃度変動は火山活動の指標と考えられる。
5.参考文献
1)平林 順一 , 桜島における火山ガスの成分変化と火山活動,京大防災研究所年報第24号B-1,昭和56年4月,p11~20)
2)山田 悦他 ,パッシブサンプラー法による京都山間部における大気汚染物質濃度の経年変化観測1996~2005,分析化学/61巻 (2012) 4号,391~326
3)光永 晴美他,有害物質を使用しないアルカリろ紙法による大気中硫黄酸化物分析法の確立,分析化学67巻 (2018) 12号 ,p743~747
4) 共立理化学,水質用DPR試薬塩化物取扱説明書
5)ハンナインスツルメンツ社製デジタルテスター低濃度フッ化物HI729取扱説明書
6) 鹿児島地方気象台,桜島噴火観測表及び桜島の火山活動解説資料2023.8