13:45 〜 15:15
[O08-P27] 月食画像から求めた月の大きさと誤差の原因
キーワード:月食、月の大きさ、食分、画像処理ソフト
背景
2022年11月8日に皆既月食があり、話題となった。月食は地球の影が月に映る現象であるが、地球の影には、太陽光の一部が遮られた半影と、ほぼ遮られた本影がある。月食とは一般に本影食のことを指し、皆既月食は月が完全に本影に覆われている状態である。月食の画像から月の大きさを推定できることが先行研究で明らかにされている1)。しかし、使用する画像によって誤差が生じ、その原因として、画像を撮影するときの露出や、クレーターの影響があると推定された。
目的
画像から求めた月の大きさと、実際の大きさとの間の誤差は、撮影時の露出や月面のクレーターの影響が考えられた。そして新たに、月食の進行による食分の影響も考えられた。そこで、食分の変化と月の大きさとの関係を調べ、月の大きさを推定するのに適した食分の程度を確認することを目的として研究を行った。
手法
コンピュータ画面から画像の座標を読み取り、計算で求める方法を採った。座標は画像ソフトを用いて読み取った。
地球の影は半影から本影へと次第に暗くなっていて輪郭がはっきりしないため、画像処理ソフトを用いて画像をポスタライズ処理し、明るさを諧調に分け、輪郭をはっきりさせてから座標の読み取りを行った(図1)。
月食画像における月の中心や地球の本影の中心は、円の中心を求める手法による。具体的には、画像処理した月の円周上に任意の二点をとり、二点を通る直線の垂直二等分線を引く。この作業を二回行うと垂直二等分線の交点が円の中心点となるため、半径を求めることが出来る。地球の本影の半径も月と同様に、本影上の任意の点をとり、中心点を求め、半径を求める。こうすることで、画像上の月と地球の半径の比が分かる。
図2は日食時と月食時の太陽、地球、月の位置関係を簡易的に表したものである。図より、日食時の月の影と月食時の地球の影は、同じ割合で収縮していることが分かる。しかし、地球が月より大きいため、地球の影の収束点は月の軌道よりはるかに離れたところになり、月面に映る地球の影は実際の地球の大きさより小さくなる。このとき月の大きさと、地球の影の小さくなった部分の大きさは錯角により等しくなる。これによって、月面の地球の影は月の直径分ほど小さくなる2)。月の公転軌道は楕円であり、地球との距離は変化するが、月が地球から遠ざかると、月に映る地球の影は同じ割合で小さくなるため、地球と月の距離の変化によって、大きさの割合は変化しないと考え計算を行った。
画像上の月の半径をR、地球の本影の半径をrとし、地球の半径については赤道半径と極半径の違いはあるが、今回は半径を6,370 kmとして表計算ソフトを用いて計算を行った。一つの画像につき、月と地球の影の輪郭の任意の点の読み取りを20回ずつ行って平均値を求め、月の実際の半径を求めた。
結果
求めた月の半径は、どの食分のときでも実際の半径1,737 kmよりやや大きな値となり、300 km程度の誤差があった(図3)。画像上の月の大きさはほぼ一定となったが、地球の影の大きさは値の幅が大きくなった。また、食分の違いによる求めた月の大きさの違いはあまり見られなかった。
考察
食分の変化と求めた月の大きさとの関係は、食分の違いによる差があまりなかったことから、求めた月の大きさの値の食分による影響は少なく、撮影時の露出や月面のクレーター等の影響の方が大きいと推定される。画像上の月の大きさがほぼ一定となったのは、どの月食の画像においても月の輪郭ははっきりと確認することが出来るため、正確に座標の読み取りを行うことが出来たためであると推定される。それに対して、地球の影の大きさの値の幅が大きくなったのは、初めに挙げた露出条件や月面のクレーター等の影響を、受けていると考えられる画像と、あまり受けていないと考えられる画像があり、画像によって差があるためであると推定される。また、求めた月の半径が実際の月の半径より大きくなったこと、画像上の月の大きさの値はほぼ一定であったことから、地球の本影の大きさを小さくしているのではないかと考えた。そこで、今まで月の大きさの1倍として計算していた地球の本影の小さくなった割合を、月の大きさの1.1から1.3倍として計算してみると、1.2から1.3倍の間で実際の月の大きさに近い値が得られた(図4)。このことから、地球の本影は月一つ分よりも小さくなっていることが推定される。その根拠として、地球大気によって太陽の光のうち、波長の長い赤系の光が屈折して本影の中に入り、波長が短く散乱しやすい青系の光は月まで届かないため、皆既月食が赤銅色に見えることが挙げられる。
参考文献
1)岐阜県立加茂高等学校理数科TEAMKAGUYA(2014):「月食から求める月の大きさと月までの距離」,武蔵野大学数理工学コンテスト第一回受賞作品
2)高校生天体観測ネットワーク(2011):「月食観測マニュアル 解析,研究ガイド」
2022年11月8日に皆既月食があり、話題となった。月食は地球の影が月に映る現象であるが、地球の影には、太陽光の一部が遮られた半影と、ほぼ遮られた本影がある。月食とは一般に本影食のことを指し、皆既月食は月が完全に本影に覆われている状態である。月食の画像から月の大きさを推定できることが先行研究で明らかにされている1)。しかし、使用する画像によって誤差が生じ、その原因として、画像を撮影するときの露出や、クレーターの影響があると推定された。
目的
画像から求めた月の大きさと、実際の大きさとの間の誤差は、撮影時の露出や月面のクレーターの影響が考えられた。そして新たに、月食の進行による食分の影響も考えられた。そこで、食分の変化と月の大きさとの関係を調べ、月の大きさを推定するのに適した食分の程度を確認することを目的として研究を行った。
手法
コンピュータ画面から画像の座標を読み取り、計算で求める方法を採った。座標は画像ソフトを用いて読み取った。
地球の影は半影から本影へと次第に暗くなっていて輪郭がはっきりしないため、画像処理ソフトを用いて画像をポスタライズ処理し、明るさを諧調に分け、輪郭をはっきりさせてから座標の読み取りを行った(図1)。
月食画像における月の中心や地球の本影の中心は、円の中心を求める手法による。具体的には、画像処理した月の円周上に任意の二点をとり、二点を通る直線の垂直二等分線を引く。この作業を二回行うと垂直二等分線の交点が円の中心点となるため、半径を求めることが出来る。地球の本影の半径も月と同様に、本影上の任意の点をとり、中心点を求め、半径を求める。こうすることで、画像上の月と地球の半径の比が分かる。
図2は日食時と月食時の太陽、地球、月の位置関係を簡易的に表したものである。図より、日食時の月の影と月食時の地球の影は、同じ割合で収縮していることが分かる。しかし、地球が月より大きいため、地球の影の収束点は月の軌道よりはるかに離れたところになり、月面に映る地球の影は実際の地球の大きさより小さくなる。このとき月の大きさと、地球の影の小さくなった部分の大きさは錯角により等しくなる。これによって、月面の地球の影は月の直径分ほど小さくなる2)。月の公転軌道は楕円であり、地球との距離は変化するが、月が地球から遠ざかると、月に映る地球の影は同じ割合で小さくなるため、地球と月の距離の変化によって、大きさの割合は変化しないと考え計算を行った。
画像上の月の半径をR、地球の本影の半径をrとし、地球の半径については赤道半径と極半径の違いはあるが、今回は半径を6,370 kmとして表計算ソフトを用いて計算を行った。一つの画像につき、月と地球の影の輪郭の任意の点の読み取りを20回ずつ行って平均値を求め、月の実際の半径を求めた。
結果
求めた月の半径は、どの食分のときでも実際の半径1,737 kmよりやや大きな値となり、300 km程度の誤差があった(図3)。画像上の月の大きさはほぼ一定となったが、地球の影の大きさは値の幅が大きくなった。また、食分の違いによる求めた月の大きさの違いはあまり見られなかった。
考察
食分の変化と求めた月の大きさとの関係は、食分の違いによる差があまりなかったことから、求めた月の大きさの値の食分による影響は少なく、撮影時の露出や月面のクレーター等の影響の方が大きいと推定される。画像上の月の大きさがほぼ一定となったのは、どの月食の画像においても月の輪郭ははっきりと確認することが出来るため、正確に座標の読み取りを行うことが出来たためであると推定される。それに対して、地球の影の大きさの値の幅が大きくなったのは、初めに挙げた露出条件や月面のクレーター等の影響を、受けていると考えられる画像と、あまり受けていないと考えられる画像があり、画像によって差があるためであると推定される。また、求めた月の半径が実際の月の半径より大きくなったこと、画像上の月の大きさの値はほぼ一定であったことから、地球の本影の大きさを小さくしているのではないかと考えた。そこで、今まで月の大きさの1倍として計算していた地球の本影の小さくなった割合を、月の大きさの1.1から1.3倍として計算してみると、1.2から1.3倍の間で実際の月の大きさに近い値が得られた(図4)。このことから、地球の本影は月一つ分よりも小さくなっていることが推定される。その根拠として、地球大気によって太陽の光のうち、波長の長い赤系の光が屈折して本影の中に入り、波長が短く散乱しやすい青系の光は月まで届かないため、皆既月食が赤銅色に見えることが挙げられる。
参考文献
1)岐阜県立加茂高等学校理数科TEAMKAGUYA(2014):「月食から求める月の大きさと月までの距離」,武蔵野大学数理工学コンテスト第一回受賞作品
2)高校生天体観測ネットワーク(2011):「月食観測マニュアル 解析,研究ガイド」