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[O08-P45] 紀伊半島の中新統田辺層群における礫種組成の変化と後背地の変遷
１ はじめに
和歌山県田辺市から白浜町には，新第三紀中新世に堆積した田辺層群が分布している．田辺層群は，下位から朝来累層，白浜累層に区分されている．さらに，白浜町臨海では，塔島礫岩層が白浜累層を傾斜不整合で覆っているようすが観察される（田辺団体研究グループ，1984）．
研究の進んだ田辺層群に比べて，塔島礫岩層の詳細は未だに不明な点が多い．本研究の目的は，田辺層群に含まれる礫種の変化から後背地の変遷を明らかにすることである．
２ 田辺層群における礫種構成の変化
朝来累層3地点，白浜累層9地点，塔島礫岩層11地点，目津礫岩層6地点の合計29地点で合計2900個の礫を観察した．各地点で，任意の直線に沿った礫100個について礫種や礫径を記録し，礫種組成を調査した．
朝来累層の礫種組成は，砂岩が73％～89％と多数を占める．特徴的な礫として緑色凝灰岩があげられる．この礫は和歌山県御坊市に見られる四万十帯の上部白亜系竜神層の凝灰岩（坂本・別所，1992；木村ほか，1996）と酷似している．
白浜累層の礫種組成は，石英及び結晶片岩が66～96％と最も多く，次いで火成岩類，砂岩，泥岩，チャートを含む．朝来累層中に礫として含まれていた緑色凝灰岩は確認されていない．白浜累層の結晶片岩礫は，現在の紀ノ川流域の三波川帯の岩石を起源にしていると考えられる．
塔島礫岩層の礫種組成は，各地点ともに砂岩が73～97％と多数を占めており，ほかに泥岩，緑色凝灰岩，チャート，結晶片岩，まれに火成岩類などを含む．また，石英の礫が見られたが，これは結晶片岩中の石英脈が礫となったものと考えられる．砂岩は硬度及び色の違いから2種に分けることができ，そのうちラミナを含む硬い砂岩礫は朝来累層中に礫として含まれているものと考えられる．
目津礫岩層の礫種組成は，砂岩が65～91％と多数を占めて，次いで泥岩，緑色凝灰岩，結晶片岩，チャートなどを含む．
田辺層群のうち，下部の朝来累層中の礫種で特徴的な緑色凝灰岩礫は，上位の白浜累層になると見られなくなる．一方，上部の白浜累層では，これに代わって結晶片岩類の礫が出現し，多数を占めるようになる．最上部の塔島礫岩層，目津崎の地層では，朝来累層と白浜累層の両層の特徴が見られる．
３ 田辺層群へ礫を供給した後背地の地質構造の変遷
はじめ，付加体が上昇，地表に露出して削剥を受けることで，砂岩礫が大量に供給される．後背地で，四万十帯の竜神層が削剥を受ける頃，緑色凝灰岩の礫がもたらされ，朝来累層が形成される．次の時代に，三波川変成帯が上昇，露出して結晶片岩礫が多量に供給される．白浜累層の礫種は結晶片岩類が19～60％と最多であることから，結晶片岩は堆積場の近くまで広く露出するナップ構造をとっていたと考えられる．このとき三波川帯の岩石が四万十帯を覆っているため，緑色凝灰岩礫の供給は遮られる．最後に，朝来・白浜累層が陸化して侵食を受け，礫岩層に含まれていた緑色凝灰岩礫や結晶片岩類の礫が再度礫となり，再堆積して塔島礫岩層になった．
４ 各層に含まれる礫の礫径の比較
白浜累層の特徴的な礫である石英及び結晶片岩と塔島礫岩層及び目津礫岩層に最も多く含まれる砂岩について，地域ごとの礫径を比較した．
塔島礫岩層と目津礫岩層に含まれる砂岩礫の礫径の最大値は，それぞれ30cmと14cmであった．これは，下位の朝来累層の砂岩礫の礫径の最大値36cmよりも小さい値であることから，朝来累層の礫が再堆積したものであると考えて矛盾はない．同様に，石英及び結晶片岩礫の礫径の最大値は，それぞれ10cmと6cmであった．これは，白浜累層の石英及び結晶片岩礫の礫径の最大値13cmよりも小さい値であることから，白浜累層の礫が再堆積したものであると考えて矛盾はない．
５ 参考文献
木村克己ほか（1996） 地質学雑誌，102, 116-124．
中屋志津男ほか（1999）アーバンクボタ，38，付図．
坂本隆彦・別所孝範（1992）地質学論集，38，271-280．
田辺団体研究グループ（1984）地球科学，38，249-263．
和歌山県田辺市から白浜町には，新第三紀中新世に堆積した田辺層群が分布している．田辺層群は，下位から朝来累層，白浜累層に区分されている．さらに，白浜町臨海では，塔島礫岩層が白浜累層を傾斜不整合で覆っているようすが観察される（田辺団体研究グループ，1984）．
研究の進んだ田辺層群に比べて，塔島礫岩層の詳細は未だに不明な点が多い．本研究の目的は，田辺層群に含まれる礫種の変化から後背地の変遷を明らかにすることである．
２ 田辺層群における礫種構成の変化
朝来累層3地点，白浜累層9地点，塔島礫岩層11地点，目津礫岩層6地点の合計29地点で合計2900個の礫を観察した．各地点で，任意の直線に沿った礫100個について礫種や礫径を記録し，礫種組成を調査した．
朝来累層の礫種組成は，砂岩が73％～89％と多数を占める．特徴的な礫として緑色凝灰岩があげられる．この礫は和歌山県御坊市に見られる四万十帯の上部白亜系竜神層の凝灰岩（坂本・別所，1992；木村ほか，1996）と酷似している．
白浜累層の礫種組成は，石英及び結晶片岩が66～96％と最も多く，次いで火成岩類，砂岩，泥岩，チャートを含む．朝来累層中に礫として含まれていた緑色凝灰岩は確認されていない．白浜累層の結晶片岩礫は，現在の紀ノ川流域の三波川帯の岩石を起源にしていると考えられる．
塔島礫岩層の礫種組成は，各地点ともに砂岩が73～97％と多数を占めており，ほかに泥岩，緑色凝灰岩，チャート，結晶片岩，まれに火成岩類などを含む．また，石英の礫が見られたが，これは結晶片岩中の石英脈が礫となったものと考えられる．砂岩は硬度及び色の違いから2種に分けることができ，そのうちラミナを含む硬い砂岩礫は朝来累層中に礫として含まれているものと考えられる．
目津礫岩層の礫種組成は，砂岩が65～91％と多数を占めて，次いで泥岩，緑色凝灰岩，結晶片岩，チャートなどを含む．
田辺層群のうち，下部の朝来累層中の礫種で特徴的な緑色凝灰岩礫は，上位の白浜累層になると見られなくなる．一方，上部の白浜累層では，これに代わって結晶片岩類の礫が出現し，多数を占めるようになる．最上部の塔島礫岩層，目津崎の地層では，朝来累層と白浜累層の両層の特徴が見られる．
３ 田辺層群へ礫を供給した後背地の地質構造の変遷
はじめ，付加体が上昇，地表に露出して削剥を受けることで，砂岩礫が大量に供給される．後背地で，四万十帯の竜神層が削剥を受ける頃，緑色凝灰岩の礫がもたらされ，朝来累層が形成される．次の時代に，三波川変成帯が上昇，露出して結晶片岩礫が多量に供給される．白浜累層の礫種は結晶片岩類が19～60％と最多であることから，結晶片岩は堆積場の近くまで広く露出するナップ構造をとっていたと考えられる．このとき三波川帯の岩石が四万十帯を覆っているため，緑色凝灰岩礫の供給は遮られる．最後に，朝来・白浜累層が陸化して侵食を受け，礫岩層に含まれていた緑色凝灰岩礫や結晶片岩類の礫が再度礫となり，再堆積して塔島礫岩層になった．
４ 各層に含まれる礫の礫径の比較
白浜累層の特徴的な礫である石英及び結晶片岩と塔島礫岩層及び目津礫岩層に最も多く含まれる砂岩について，地域ごとの礫径を比較した．
塔島礫岩層と目津礫岩層に含まれる砂岩礫の礫径の最大値は，それぞれ30cmと14cmであった．これは，下位の朝来累層の砂岩礫の礫径の最大値36cmよりも小さい値であることから，朝来累層の礫が再堆積したものであると考えて矛盾はない．同様に，石英及び結晶片岩礫の礫径の最大値は，それぞれ10cmと6cmであった．これは，白浜累層の石英及び結晶片岩礫の礫径の最大値13cmよりも小さい値であることから，白浜累層の礫が再堆積したものであると考えて矛盾はない．
５ 参考文献
木村克己ほか（1996） 地質学雑誌，102, 116-124．
中屋志津男ほか（1999）アーバンクボタ，38，付図．
坂本隆彦・別所孝範（1992）地質学論集，38，271-280．
田辺団体研究グループ（1984）地球科学，38，249-263．