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[O08-P79] 区立おとめ山公園における湧水の大腸菌調査及び薬品測定による大腸菌の発生源の推定
キーワード:湧水、大腸菌、地下水、おとめ山公園
1.背景目的
海城学園中高地学部では 10 年以上にわたり新宿区立おとめ山公園にて湧水量の観測や研究などを行ってきた。 過去にその活動中に湧水を飲んだ部員が腹を下した事例があったことから大腸菌がおとめ山の湧水に含まれることが疑われた。もし大腸菌が含まれ、それが下水由来の場合、下水に含まれる様々な病原体により問題が発生する可能性が考えられる。そこで今回、大腸菌の発生源を近隣の下水管からの漏水由来、おとめ山公園に生息する様々な動物由来のいずれかだと仮定して研究を行った。
2.方法
2-1 試料採取
2023年7月14日,10月20日,12月20日、2024年3月11日の計四回、湧出口(①),上の池(②),水辺のもり(③) の園内三箇所(図1参照)で湧水の採集を行った。なお12月20日の地点③では水が枯れていたので同じ水辺のもり内の上流区域で採集を行った。今後地点①で採集したものを試料①、地点②で採集したものを試料②、地点③で採集したものを試料③と呼ぶ。
2-2 解析方法
2-2-1 大腸菌測定
測定は試料を採集した当日に行った。1つの試料につき100mlの100 倍希釈、10 倍希釈、1 倍希釈の3 パターンをそれぞれ2個作成する動作を試料①②③それぞれに行った。その後作成した試料をフィルターがついた実験用容器に入れ大腸菌を吸着させた。そのフィルターをカンテン培地に設置することで培養を行った。それを翌日、目視で観察することによって測定を行い、大腸菌及び大腸菌群のCFU(コロニー形成単位)を算出した。
2-2-2 薬品測定
分析以外の工程は試料を採集した当日に行った。まず試料①②③を100ml 量りとりOasis HLBカードリッジに通し、疎水性である薬品をカードリッジ内の樹脂に濾し取った。次にそのカードリッジに疎水性のメタ ノールを通し、樹脂内の疎水性の部質をメタノールに置き換えることで試料の濃集を行った。その後ロータリー エバポレーターを利用して溶媒を蒸発させ、LC/MS/MS によって下水によく含まれるジフェンヒドラミン、ク ラリスロマイシン、カルバマゼピン、べザフィブラートの四種類の薬品の量を測定した。
3 結果
3-1 大腸菌
計4回の測定の結果を図 2 に示す。試料の採集場所ごとに比較を行うと、上の池での大腸菌及び大腸菌群の量 が多くなっている傾向が見られた。しかしながら 3 月の測定分では大腸菌量が他の地点と変わらなかった。
3-2 薬品
まだ測定ができていない 3 月分を除いた計3回の測定の結果を図 2 に示す。まず薬品の種類について比較を行 うと地中で分解をされにくいジフェンヒドラミンとカルバマゼピンは通年で全ての箇所で観測できたが、分解さ れやすいクラリスロマイシンは12 月のみ観測でき、同じく分解されやすいベザフィブラートは観測されなかっ た。ジフェンヒドラミンは虫刺され薬に多く含まれる薬品である。
4 考察と結論
先行研究から大腸菌群の CFU/100ml の値が被圧地下水だと 100CFU/100ml、不圧地下水でも 1000CFU/100ml 程度だと言われている。実際に観測された大腸菌群の量はそれに比べてかなり多くなっており、主な発生源は別にあると考えられ、それが動物由来のものだと考えた。なお、降水量が少ない冬・夏は水が下流に流れにくいため、大腸菌の量が多くなったと考えられるのでここでは考察しない。また、7 月に極めて多く検出されたジフェ ンヒドラミンも、虫刺され薬に多く含まれる薬品であることから今回は考察しない。ここで、湧出口の大腸菌は 比較的少ないことから、動物由来の大腸菌よりも地下水由来の大腸菌が多く含まれると考えられる。薬品測定の結果、下水によく含まれるジフェンヒドラミンとカルバマゼピンが一年を通して観測されたがクラリスロマイシ ンとベザフィブラートなどの分解されやすい薬品はほぼ検出されなかったことから、漏水地点はおとめ山の近隣 地域ではないと考えられる。過去の海城中高地学部のおとめ山公園の湧水の涵養域の研究から涵養域の範囲は東端が東池袋、西端が練馬、北端が板橋に広がっているとわかっている(図3参照)。また、クラリスロマイシンとベザフィブラートなどが検出されなかったことから、地下水の浸透に時間がかかり、これらの薬品が分解された 可能性が高い。以上のことから考えると下水道が漏水している場所は 5km 程度離れた距離にあると考えること ができ、該当する場所としては、練馬駅前などが考えられる。
5.参考文献
清水彬光「新宿区立おとめ山公園周辺の地下水の変動把握および涵養域の推定」2015 年
村橋毅など「Pharmaceutical concentrations and antimicrobial activity using hypersusceptible Escherichia coli lacking TolC component of multidrug efflux system in the Ayase River in Japan」2021 年
海城学園中高地学部では 10 年以上にわたり新宿区立おとめ山公園にて湧水量の観測や研究などを行ってきた。 過去にその活動中に湧水を飲んだ部員が腹を下した事例があったことから大腸菌がおとめ山の湧水に含まれることが疑われた。もし大腸菌が含まれ、それが下水由来の場合、下水に含まれる様々な病原体により問題が発生する可能性が考えられる。そこで今回、大腸菌の発生源を近隣の下水管からの漏水由来、おとめ山公園に生息する様々な動物由来のいずれかだと仮定して研究を行った。
2.方法
2-1 試料採取
2023年7月14日,10月20日,12月20日、2024年3月11日の計四回、湧出口(①),上の池(②),水辺のもり(③) の園内三箇所(図1参照)で湧水の採集を行った。なお12月20日の地点③では水が枯れていたので同じ水辺のもり内の上流区域で採集を行った。今後地点①で採集したものを試料①、地点②で採集したものを試料②、地点③で採集したものを試料③と呼ぶ。
2-2 解析方法
2-2-1 大腸菌測定
測定は試料を採集した当日に行った。1つの試料につき100mlの100 倍希釈、10 倍希釈、1 倍希釈の3 パターンをそれぞれ2個作成する動作を試料①②③それぞれに行った。その後作成した試料をフィルターがついた実験用容器に入れ大腸菌を吸着させた。そのフィルターをカンテン培地に設置することで培養を行った。それを翌日、目視で観察することによって測定を行い、大腸菌及び大腸菌群のCFU(コロニー形成単位)を算出した。
2-2-2 薬品測定
分析以外の工程は試料を採集した当日に行った。まず試料①②③を100ml 量りとりOasis HLBカードリッジに通し、疎水性である薬品をカードリッジ内の樹脂に濾し取った。次にそのカードリッジに疎水性のメタ ノールを通し、樹脂内の疎水性の部質をメタノールに置き換えることで試料の濃集を行った。その後ロータリー エバポレーターを利用して溶媒を蒸発させ、LC/MS/MS によって下水によく含まれるジフェンヒドラミン、ク ラリスロマイシン、カルバマゼピン、べザフィブラートの四種類の薬品の量を測定した。
3 結果
3-1 大腸菌
計4回の測定の結果を図 2 に示す。試料の採集場所ごとに比較を行うと、上の池での大腸菌及び大腸菌群の量 が多くなっている傾向が見られた。しかしながら 3 月の測定分では大腸菌量が他の地点と変わらなかった。
3-2 薬品
まだ測定ができていない 3 月分を除いた計3回の測定の結果を図 2 に示す。まず薬品の種類について比較を行 うと地中で分解をされにくいジフェンヒドラミンとカルバマゼピンは通年で全ての箇所で観測できたが、分解さ れやすいクラリスロマイシンは12 月のみ観測でき、同じく分解されやすいベザフィブラートは観測されなかっ た。ジフェンヒドラミンは虫刺され薬に多く含まれる薬品である。
4 考察と結論
先行研究から大腸菌群の CFU/100ml の値が被圧地下水だと 100CFU/100ml、不圧地下水でも 1000CFU/100ml 程度だと言われている。実際に観測された大腸菌群の量はそれに比べてかなり多くなっており、主な発生源は別にあると考えられ、それが動物由来のものだと考えた。なお、降水量が少ない冬・夏は水が下流に流れにくいため、大腸菌の量が多くなったと考えられるのでここでは考察しない。また、7 月に極めて多く検出されたジフェ ンヒドラミンも、虫刺され薬に多く含まれる薬品であることから今回は考察しない。ここで、湧出口の大腸菌は 比較的少ないことから、動物由来の大腸菌よりも地下水由来の大腸菌が多く含まれると考えられる。薬品測定の結果、下水によく含まれるジフェンヒドラミンとカルバマゼピンが一年を通して観測されたがクラリスロマイシ ンとベザフィブラートなどの分解されやすい薬品はほぼ検出されなかったことから、漏水地点はおとめ山の近隣 地域ではないと考えられる。過去の海城中高地学部のおとめ山公園の湧水の涵養域の研究から涵養域の範囲は東端が東池袋、西端が練馬、北端が板橋に広がっているとわかっている(図3参照)。また、クラリスロマイシンとベザフィブラートなどが検出されなかったことから、地下水の浸透に時間がかかり、これらの薬品が分解された 可能性が高い。以上のことから考えると下水道が漏水している場所は 5km 程度離れた距離にあると考えること ができ、該当する場所としては、練馬駅前などが考えられる。
5.参考文献
清水彬光「新宿区立おとめ山公園周辺の地下水の変動把握および涵養域の推定」2015 年
村橋毅など「Pharmaceutical concentrations and antimicrobial activity using hypersusceptible Escherichia coli lacking TolC component of multidrug efflux system in the Ayase River in Japan」2021 年