13:45 〜 15:15
[O08-P92] 冷凍庫を用いた簡易的な雪の再現実験および天然雪との比較
キーワード:人工雪実験装置 、雪結晶 、イエローナイフ
1.研究の背景と目的
雪結晶の理解は上空大気の状況や気象の解明と結びつけることができ,それは天気予報の正確性向上に繋げられる.雪結晶の理解にはその観察と再現の二つのアプローチがある.
先行研究として,観察の面では,関東圏に住む人から雪の写真を募集し,その日の気象条件と雪の結晶を結びつけることにより大気と雪の関係について研究を行う#関東雪プロジェクト(荒木2018).再現実験として,極低温室内にウサギの毛をたらし,そこにシャーレから蒸発した水蒸気をあてることにより雪結晶の再現をさせた(Nakaya1954)などがある.この雪の再現には,大型かつ高価な設備が必要であり,一般人の参加が難しい.
また,安価で可能な雪の実験としてペットボトルとドライアイス,タコ糸を用いた雪結晶の再現の方法もあるが,これはドライアイスを用いるために温度制御が難しいことや再現できる雪結晶に限りがあること,凝結核にタコ糸を用いるため,より自然の雪に近づける余地がある,などの課題がある.
これらを踏まえて,本研究では従来の装置と価格であまり大きな差が無く、且つ多様な雪結晶を再現できる設備の開発を目的とした.
2.研究手法
実験1:イエローナイフでの雪結晶観察と考察
2023年10月23-26日,カナダのイエローナイフ郊外にて,外気温まで冷やしたアルミホイルの上に雪を落とし手持ち顕微鏡で観察,撮影を行い,#関東雪結晶プロジェクトの区分に従って写真を分別,それを基にして観察時間帯の大気の状態を予測し,実際のデータと照らし合わせ予測の正確性を確かめた.
雪の種類と形状を調べたところ,雪の結晶の形からおおよその上空の大気や気温の予測ができることがわかった.だが,大気中の水蒸気量に関しては当時のイエローナイフ上空の詳細なデータを得ることができず,予測にとどまった.
実験2:人工雪発生装置の開発と考察
温度−20℃に設定した冷凍庫に内部が空洞のプラスチック球の入れ,凝結核として線香の煙を入れる.そこに水の入った丸底フラスコと接続された耐熱ゴムチューブを挿入.それを介して水蒸気を送り込み,プラスチック半球内に水蒸気の勢いと温度差を利用した対流を起こし,凝結核に氷晶が形成されることを意図した.水蒸気の量は水の温度を変えることにより調節し,いくつかの雪のような氷晶を確認することに成功したが,ほとんどの氷晶は凝結核として入れた線香の煙ではなく,プラスチック半球の壁面に形成された.
3.結果と考察
天然の雪は水蒸気量に変化がありつつも,ある一定の種類に区分することができた.例えば,ある日の雪はすべて六花結晶,別の日の雪はすべて不定形結晶,と言った具合である,それに対し,人工雪の場合は同じ条件下で作ったにも関わらず,一定の種類に分類できない場合があった.例えば,同じ水蒸気量と気温で作られた雪結晶が片方はカモメ型,もう一方は十字型,といった具合である.人工雪も天然の雪も,氷晶の形成には気温と水蒸気量が関係していることが確認できた.
本研究の再現実験で特定の雪氷晶が形成されなかった理由としては,雪の結晶は雲内部のミクロな氷や水滴に形成されるものであり,ナノサイズである線香の煙では小さすぎたのではないか,と推測している.
4. 結論
天然の雪は水蒸気量に変化がありつつも,ある一定の種類に区分することができたが,人工雪の場合は同じ条件下で作ったにも関わらず,一定の種類に分類できない場合があった.
5. 今後の展望
本研究の実験装置は,基本的にはかなりの雪結晶を生成できることを示唆した.今後のアプローチとして,温度センサを用いて気温,湿度などの条件を詳細な数値化をすることや,砂粒や塩などの,より粒の大きい凝結核の使用も検討している.
6.参考文献
荒木健太郎,2018:シチズンサイエンスによる超高密度雪結晶観測「#関東雪結晶プロジェクト」.雪氷,80,115-129
平松和彦,1997:ペットボトルで雪の結晶をつくる.1997年度日本雪氷学会全国大会講演予稿集,216
Nakaya, U.,1954:Snow crystals:Natural and artificial. Havard University Press, Cambridge,510pp
7. 謝辞
本研究を行うにあたり,田島丈年先生・三輪貴信先生(中央大学附属中学校高等学校教員)には実験および発表の指導をいただいた.また,竹田宝生氏(中央大学附属高等学校)には実験・研究において多大なサポートをいただいた.ここに深謝する.
雪結晶の理解は上空大気の状況や気象の解明と結びつけることができ,それは天気予報の正確性向上に繋げられる.雪結晶の理解にはその観察と再現の二つのアプローチがある.
先行研究として,観察の面では,関東圏に住む人から雪の写真を募集し,その日の気象条件と雪の結晶を結びつけることにより大気と雪の関係について研究を行う#関東雪プロジェクト(荒木2018).再現実験として,極低温室内にウサギの毛をたらし,そこにシャーレから蒸発した水蒸気をあてることにより雪結晶の再現をさせた(Nakaya1954)などがある.この雪の再現には,大型かつ高価な設備が必要であり,一般人の参加が難しい.
また,安価で可能な雪の実験としてペットボトルとドライアイス,タコ糸を用いた雪結晶の再現の方法もあるが,これはドライアイスを用いるために温度制御が難しいことや再現できる雪結晶に限りがあること,凝結核にタコ糸を用いるため,より自然の雪に近づける余地がある,などの課題がある.
これらを踏まえて,本研究では従来の装置と価格であまり大きな差が無く、且つ多様な雪結晶を再現できる設備の開発を目的とした.
2.研究手法
実験1:イエローナイフでの雪結晶観察と考察
2023年10月23-26日,カナダのイエローナイフ郊外にて,外気温まで冷やしたアルミホイルの上に雪を落とし手持ち顕微鏡で観察,撮影を行い,#関東雪結晶プロジェクトの区分に従って写真を分別,それを基にして観察時間帯の大気の状態を予測し,実際のデータと照らし合わせ予測の正確性を確かめた.
雪の種類と形状を調べたところ,雪の結晶の形からおおよその上空の大気や気温の予測ができることがわかった.だが,大気中の水蒸気量に関しては当時のイエローナイフ上空の詳細なデータを得ることができず,予測にとどまった.
実験2:人工雪発生装置の開発と考察
温度−20℃に設定した冷凍庫に内部が空洞のプラスチック球の入れ,凝結核として線香の煙を入れる.そこに水の入った丸底フラスコと接続された耐熱ゴムチューブを挿入.それを介して水蒸気を送り込み,プラスチック半球内に水蒸気の勢いと温度差を利用した対流を起こし,凝結核に氷晶が形成されることを意図した.水蒸気の量は水の温度を変えることにより調節し,いくつかの雪のような氷晶を確認することに成功したが,ほとんどの氷晶は凝結核として入れた線香の煙ではなく,プラスチック半球の壁面に形成された.
3.結果と考察
天然の雪は水蒸気量に変化がありつつも,ある一定の種類に区分することができた.例えば,ある日の雪はすべて六花結晶,別の日の雪はすべて不定形結晶,と言った具合である,それに対し,人工雪の場合は同じ条件下で作ったにも関わらず,一定の種類に分類できない場合があった.例えば,同じ水蒸気量と気温で作られた雪結晶が片方はカモメ型,もう一方は十字型,といった具合である.人工雪も天然の雪も,氷晶の形成には気温と水蒸気量が関係していることが確認できた.
本研究の再現実験で特定の雪氷晶が形成されなかった理由としては,雪の結晶は雲内部のミクロな氷や水滴に形成されるものであり,ナノサイズである線香の煙では小さすぎたのではないか,と推測している.
4. 結論
天然の雪は水蒸気量に変化がありつつも,ある一定の種類に区分することができたが,人工雪の場合は同じ条件下で作ったにも関わらず,一定の種類に分類できない場合があった.
5. 今後の展望
本研究の実験装置は,基本的にはかなりの雪結晶を生成できることを示唆した.今後のアプローチとして,温度センサを用いて気温,湿度などの条件を詳細な数値化をすることや,砂粒や塩などの,より粒の大きい凝結核の使用も検討している.
6.参考文献
荒木健太郎,2018:シチズンサイエンスによる超高密度雪結晶観測「#関東雪結晶プロジェクト」.雪氷,80,115-129
平松和彦,1997:ペットボトルで雪の結晶をつくる.1997年度日本雪氷学会全国大会講演予稿集,216
Nakaya, U.,1954:Snow crystals:Natural and artificial. Havard University Press, Cambridge,510pp
7. 謝辞
本研究を行うにあたり,田島丈年先生・三輪貴信先生(中央大学附属中学校高等学校教員)には実験および発表の指導をいただいた.また,竹田宝生氏(中央大学附属高等学校)には実験・研究において多大なサポートをいただいた.ここに深謝する.