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[O08-P97] 重力可変装置で火星表層の水の流れを解析する 第2報
キーワード:重力可変装置、火星重力、水の浸透、毛細管現象
背景と目的 地球より小さな重力をもつ天体上での現象を理解するための実験環境を作ることを目的として重力可変装置を製作した.具体的には,固体表層を持つ火星や,月を含むさまざまな衛星である.これらの星の探査を行うに当たり,その星での重力下で予備実験を行うことは重要であると考えた.
この装置を用いて,火星表面の水の流れをシミュレートすることを計画した.これまでの火星探査で,堆積岩の存在や液体が流れた痕跡などが報告されてきた.また,2015年には,水(液体)が流れている証拠が確認された.火星表面での重力は地球の0.4倍(3.71m/s2,0.379G)でしかない.火星表面で水はどのように流れているのだろう.その様子を調べるために水の浸透実験装置を製作した.火星重力での水の振る舞いを地球上の水と比較してその違いについて考察した.
重力可変装置 アトウッドの滑車を応用して落下棟を製作し,重力可変装置とした.落下棟の上部に約100cmの間隔をあけて2個の滑車を設置した.落下していく物体を「落下カプセル:35.0㎝×25.0㎝×33.6㎝」,上昇していく物体も木箱を用いて内部に機材などを配置できるようにして,これを「上昇カプセル:9.8㎝×9.8㎝×12.5㎝」とした.この両カプセルをワイヤーで繋ぎ,滑車に吊るした.上昇カプセルを電磁石で固定し,その電源を切る事で落下カプセルを落下させる.落下カプセルにはCrossbow 社製の加速度計CXL17LF3を取り付けた.落下直後の振動を抑えるために,上昇カプセル側面にウレタンシートを貼り付け,同様にウレタンシートを貼り付けた板材で上昇カプセルを挟みこむ上昇カプセル保持装置を考案した.上昇カプセルが電磁石から離れた後,ウレタンシートの適度な摩擦で振動を吸収する.
実験結果 落下カプセルと上昇カプセルにおもりを載せて調節し,火星の重力をつくった.各カプセルに載せるおもりを調整し,最終的に落下カプセル2.60kgにおもりを1.52kg(合計4.12kg),上昇カプセル0.60kgに0.18kgのおもりを装着した(合計0.78kg).約0.6秒間,0.362±0.014Gの重力加速度を落下カプセル内に発生させた.火星の表面重力と比べて0.017Gほど小さいが,ほぼ火星の重力を再現できた.
水の浸透実験 水の浸透状況を観察するための装置を製作した.上部容器には水20ccを貯めることができる.この容器は直径27mmで底には円形の直径16mmの穴が空いており,底をゴム栓で塞いでいる.下部容器は大きさが33×33×85mmで,底部は網底になっている.砂はこの下部容器に底面から高さ50mmまで均一につめておく.上部容器のゴム栓には鎖がつけられており,この鎖の先は落下棟の天板に接続されている.火星重力実験で,落下カプセルを落下させたときに,火星重力に達した位置でこのゴム栓が抜け,上部容器に蓄えられていた水が下部容器の砂の上に流れ落ちる.1Gから火星重力になったタイミングを知るために,落下カプセル内には水準器を設置した.水が染みこむ様子をカメラ(オリンパス Tough TG-5)で高速度撮影(1/240fps)する.粒径φ1.5〜2.5mmとφ0.71〜0.99mmの2種のガラスビーズを用いた.
水の浸透実験結果 地上重力下での砂への水の浸透状況と火星重力下での砂への水の浸透状況を比較した.水が砂の両面に届いた瞬間を時間軸の原点とした.落下直後の落下カプセルの振動期間は,上部容器から水が落ちてこない状態となり,水が浸透している期間に振動は影響しなかった.
地球重力下と火星重力下であきらかに,水の浸透速度が異なった.また,水の浸透速度は実験時間内に一定となった.それぞれの水の浸透速度は粒径φ1.5〜2.5mmの砂では地上重力では約64.9mm/s,火星重力では約56.1mm/s,また,φ0.71〜0.99mmの砂では地上重力では約26.6mm/s,火星重力では約24.6mm/sであった.ともに,地上重力での浸透速度の方が大きくなった.
考察 重力および砂の粒径が浸透速度に与える効果を理論的に考察しようと試みている.水の浸透速度は最終的に一定速度になっているので,水の落下を妨げる要因として毛細管現象を考えている.地上重力で下部容器に砂を詰めた状態での毛細管現象による水が吸い上げられた高さを測定した.この値から導出される力が抵抗として働いて,終端速度を作ったと考えて,実験結果を説明可能か検証する.
今後の展望 現在ISECG(2018)が計画中の月面および火星への長期有人探査ミッションを実現するため
に食糧等の物資の供給方法が課題となっており,これを解決する手段として宇宙農業が提案されている.宇宙農業の適用が想定される火星重力下における水の挙動の解明が必要である.この解明に向けて,重力と砂の粒径との関係の構築を目指す.また,斜面を流れる水についても,実験的に重力の影響を確認する.
参考文献 「惑星地質学」宮本英昭,平田成,橘省吾編集,東京大学出版会 2008年.
C. Sunday et al. Cite as: Rev. Sci. Instrum. 87, 084504 (2016).
G. Viera-Lopez et al. astro-ph.IM arXiv:1703.10315v1 (2017).
E.W. Washburn, Phys. Rev. 17 (3) (1921).
N. Fries, M. Dreyer, Journal of Colloid and Interface Science Vol. 320, Issue 1, (2008).
この装置を用いて,火星表面の水の流れをシミュレートすることを計画した.これまでの火星探査で,堆積岩の存在や液体が流れた痕跡などが報告されてきた.また,2015年には,水(液体)が流れている証拠が確認された.火星表面での重力は地球の0.4倍(3.71m/s2,0.379G)でしかない.火星表面で水はどのように流れているのだろう.その様子を調べるために水の浸透実験装置を製作した.火星重力での水の振る舞いを地球上の水と比較してその違いについて考察した.
重力可変装置 アトウッドの滑車を応用して落下棟を製作し,重力可変装置とした.落下棟の上部に約100cmの間隔をあけて2個の滑車を設置した.落下していく物体を「落下カプセル:35.0㎝×25.0㎝×33.6㎝」,上昇していく物体も木箱を用いて内部に機材などを配置できるようにして,これを「上昇カプセル:9.8㎝×9.8㎝×12.5㎝」とした.この両カプセルをワイヤーで繋ぎ,滑車に吊るした.上昇カプセルを電磁石で固定し,その電源を切る事で落下カプセルを落下させる.落下カプセルにはCrossbow 社製の加速度計CXL17LF3を取り付けた.落下直後の振動を抑えるために,上昇カプセル側面にウレタンシートを貼り付け,同様にウレタンシートを貼り付けた板材で上昇カプセルを挟みこむ上昇カプセル保持装置を考案した.上昇カプセルが電磁石から離れた後,ウレタンシートの適度な摩擦で振動を吸収する.
実験結果 落下カプセルと上昇カプセルにおもりを載せて調節し,火星の重力をつくった.各カプセルに載せるおもりを調整し,最終的に落下カプセル2.60kgにおもりを1.52kg(合計4.12kg),上昇カプセル0.60kgに0.18kgのおもりを装着した(合計0.78kg).約0.6秒間,0.362±0.014Gの重力加速度を落下カプセル内に発生させた.火星の表面重力と比べて0.017Gほど小さいが,ほぼ火星の重力を再現できた.
水の浸透実験 水の浸透状況を観察するための装置を製作した.上部容器には水20ccを貯めることができる.この容器は直径27mmで底には円形の直径16mmの穴が空いており,底をゴム栓で塞いでいる.下部容器は大きさが33×33×85mmで,底部は網底になっている.砂はこの下部容器に底面から高さ50mmまで均一につめておく.上部容器のゴム栓には鎖がつけられており,この鎖の先は落下棟の天板に接続されている.火星重力実験で,落下カプセルを落下させたときに,火星重力に達した位置でこのゴム栓が抜け,上部容器に蓄えられていた水が下部容器の砂の上に流れ落ちる.1Gから火星重力になったタイミングを知るために,落下カプセル内には水準器を設置した.水が染みこむ様子をカメラ(オリンパス Tough TG-5)で高速度撮影(1/240fps)する.粒径φ1.5〜2.5mmとφ0.71〜0.99mmの2種のガラスビーズを用いた.
水の浸透実験結果 地上重力下での砂への水の浸透状況と火星重力下での砂への水の浸透状況を比較した.水が砂の両面に届いた瞬間を時間軸の原点とした.落下直後の落下カプセルの振動期間は,上部容器から水が落ちてこない状態となり,水が浸透している期間に振動は影響しなかった.
地球重力下と火星重力下であきらかに,水の浸透速度が異なった.また,水の浸透速度は実験時間内に一定となった.それぞれの水の浸透速度は粒径φ1.5〜2.5mmの砂では地上重力では約64.9mm/s,火星重力では約56.1mm/s,また,φ0.71〜0.99mmの砂では地上重力では約26.6mm/s,火星重力では約24.6mm/sであった.ともに,地上重力での浸透速度の方が大きくなった.
考察 重力および砂の粒径が浸透速度に与える効果を理論的に考察しようと試みている.水の浸透速度は最終的に一定速度になっているので,水の落下を妨げる要因として毛細管現象を考えている.地上重力で下部容器に砂を詰めた状態での毛細管現象による水が吸い上げられた高さを測定した.この値から導出される力が抵抗として働いて,終端速度を作ったと考えて,実験結果を説明可能か検証する.
今後の展望 現在ISECG(2018)が計画中の月面および火星への長期有人探査ミッションを実現するため
に食糧等の物資の供給方法が課題となっており,これを解決する手段として宇宙農業が提案されている.宇宙農業の適用が想定される火星重力下における水の挙動の解明が必要である.この解明に向けて,重力と砂の粒径との関係の構築を目指す.また,斜面を流れる水についても,実験的に重力の影響を確認する.
参考文献 「惑星地質学」宮本英昭,平田成,橘省吾編集,東京大学出版会 2008年.
C. Sunday et al. Cite as: Rev. Sci. Instrum. 87, 084504 (2016).
G. Viera-Lopez et al. astro-ph.IM arXiv:1703.10315v1 (2017).
E.W. Washburn, Phys. Rev. 17 (3) (1921).
N. Fries, M. Dreyer, Journal of Colloid and Interface Science Vol. 320, Issue 1, (2008).