日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 惑星科学

2024年5月31日(金) 13:45 〜 15:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:荒川 創太(海洋研究開発機構)、田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、冨永 遼佑(東京工業大学 理学院地球惑星科学系)、座長:芝池 諭人(大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台)、冨永 遼佑(理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室)、荒川 創太(海洋研究開発機構)、田畑 陽久(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

14:00 〜 14:15

[PPS07-12] 原始太陽系円盤におけるダストの酸素同位体進化: 3Dモンテカルロシミュレーション

*石﨑 梨理1橘 省吾1岡本 珠実2山本 大貴3井田 茂2 (1. 東京大学、2.東京工業大学地球生命研究所、3.九州大学)

キーワード:原始惑星系円盤、原始太陽系円盤、酸素同位体組成、ダスト

地球、火星、月、彗星といった太陽系天体は、太陽に比べ16Oに乏しい酸素同位体組成を持つことが知られている (e.g., McKeegan et al., 2011)。これは太陽系天体の形成の場となった原始太陽系円盤において、太陽と同様の16Oに富んだ同位体組成を持つ材料ケイ酸塩ダストが、CO自己遮蔽効果により16Oに富んだ円盤COガスや16Oに乏しい円盤H2Oガスと酸素同位体交換を起こし、円盤全域に輸送された結果だと考えられている (Yurimoto & Kuramoto, 2004)。
原始太陽系円盤における酸素同位体組成進化に重要な役割を果たすケイ酸塩ダスト-円盤ガス間の酸素同位体交換反応に関しては、非晶質ケイ酸塩ダストと円盤環境を模擬した低圧H2Oガス間の酸素同位体交換反応の速度論の決定 (Yamamoto et al., 2018,; 2020; under review) などの実験的研究が為されてきたが、それらを円盤モデルに適用した理論研究はこれまでほとんど為されていない。円盤でのダストの運動に伴って、化学反応を左右するダストが経験する温度や圧力などの環境が刻々と変化するため、しかし実際の反応は様々な環境を動き回るダストにおいて起こる上、反応完了後に円盤遠方の彗星形成領域まで輸送される必要があるため、太陽系天体の酸素同位体組成進化を議論するには、円盤におけるダストのダイナミクスを考慮することが必要不可欠である。そこで本研究では、原始惑星系円盤内を移流/拡散するダストが経験する酸素同位体交換反応の進行を計算し、酸素同位体交換の現在の太陽系の酸素同位体組成を達成できる原始太陽系円盤の物理化学?条件を制約することを目的としている。
原始惑星系円盤におけるケイ酸塩ダストの酸素同位体交換反応進行を調べるため、円盤内を運動するダスト粒子の軌跡を追跡する3Dモンテカルロシミュレーション (Ciesla 2010,2011; Okamoto & Ida 2022) をおこない、非晶質ケイ酸塩ダスト-円盤H2Oガスないし円盤COガス間の酸素同位体交換反応の進行をそれぞれ独立に計算した。円盤モデルとしては、ガス密度に比例した粘性加熱 (α粘性モデル) を熱源とする鉛直/動径温度分布をもつ定常降着円盤を仮定した。円盤パラメータは乱流粘性係数α = 10–2, 10–3、質量降着率Mdot = 10–6, 10–7, 10–8 Msun/yrを採用し、6通りの円盤に対して計算をおこなった。ダストサイズは ~0.1 μmとし、ガスとよく馴染んで運動するものとした。H2Oガスとの酸素同位体交換反応について、実験的に決定されたフォルステライト組成 (Mg2SiO4) のケイ酸塩-H2Oガス間の酸素同位体交換の(拡散により律速された) 速度式 (Yamamoto et al., 2018) を用いて、アブラミ式に対応する反応速度式を導出し計算をおこなった (Ishizaki et al., 2023)。同様のシミュレーションを、ケイ酸塩ダスト-円盤COガス間の酸素同位体交換についてもおこなった (Yamamoto, Ishizaki et al., under review)。
ダスト粒子が各反応の完了前までに経験した最高温度を集計すると、いずれの酸素同位体交換反応も限られた温度帯で反応を進行/完了することがわかった。フォルステライト-H2O酸素同位体交換が最も効率的に進行する温度は ~650-750 K、フォルステライト-CO酸素同位体交換が進行する温度は ~450-650 K であった。これは原始惑星系円盤において、ケイ酸塩ダストは円盤H2Oガスだけでなく円盤COガスとも酸素同位体交換をおこなうことを示唆している。
以上の結果を踏まえると、太陽系天体が太陽に比べ16Oに乏しい酸素同位体組成を持つには、COガスに対してH2Oガスが濃集された環境でケイ酸塩ダストが酸素同位体交換反応を経験した可能性がある。酸素同位体交換はスノーライン内側で起こるため、スノーラインにおける氷ペブルの昇華がH2Oガスの濃集において重要な役割を果たす可能性がある (Yurimoto & Kuramoto, 2004)。そこで私たちは (1) 同時進行する2種のガス (CO/H2O) とケイ酸塩ダストとの酸素同位体交換、(2) 氷ペブル昇華に起因するH2Oガスの濃集の2つの効果を考慮した新たなモデルを開発した。H2Oガスが濃集したスノーライン内側では太陽に比べ16Oに乏しい酸素同位体環境が達成され、この領域で同位体交換をおこなったケイ酸塩ダストが「地球型ダスト」の組成を達成できる条件が存在すると考えられる。
本講演では、新たなケイ酸塩-円盤H2O/COガス間の酸素同位体交換モデルの計算結果を示し、議論する。