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[PPS09-08] 月の表面地形と地下空洞レーダーシグナルから得られた内部由来の揮発性物質の証拠

キーワード:地下空洞、月レーダーサウンダー、内部由来揮発性物質、マグマ上昇過程、月
月の内部由来の揮発性物質は、月形成初期の熱環境や火成活動進化を理解する重要な手がかりである。近年のアポロサンプルの再分析によって、局所的な情報ではあるが、従来考えられていたより多量の揮発性物質がマントルに存在することが示唆された[1]。さらに、探査機の分光観測によって、月面の水の全球分布も理解され始めている[e.g. 2]。しかし、月面の水の多くは外部由来のものであると考えられており、内部由来の揮発性物質の分布の理解は不十分である。内部由来の揮発性物質の新たな指標として、マグマ内の揮発性物質が低圧力環境で溶出し、マグマの先端に濃集することにより形成するガス空洞が挙げられる[3]。月の静かの海は地殻が厚く[4]、放射性元素もほとんど存在しない[5]。また、揮発性物質が関与した表面地形(IMP[6], RMDS[7])が数多く分布している。そのため、静かの海ではマグマの上昇、噴火に揮発性物質が関与したことが強く示唆されている。
本研究では、静かの海での地下ガス空洞調査のために、SELENE搭載月レーダーサウンダーを使用する。これまでのLRS解析では地下空洞のような小規模な地下構造はほとんど解釈されていない。これは、小規模な地下構造からの反射と誤認する可能性のある地表面散乱がLRSデータに重畳しているため[8]、両者を区別することが困難であったためである。本研究では、月標高データから地表面散乱成分を計算し、LRSデータから除去することで、静かの海の地下ガス空洞の存在を調査した。
その結果、マグマが地下浅部に上昇したことを示す地溝の延長上に地下エコー候補(SECs)が約30km連続して存在する領域を発見した。SECsの深さは約200mであり、地溝下に予想されるマグマ先端位置とほとんど同じであった。また、静かの海の全域的に、揮発性物質が関与した表面地形(IMP, RMDS)や、マグマ貫入を示す表面地形(地溝、陥没地形)の周辺にSECsが分布することがわかった。SECsの反射強度(> -25dB)は、レーダー方程式による解析から、空洞もしくは高空隙率物質(以降、合わせて空洞構造と呼ぶ)を示唆した。
以上のことから、静かの海にはマグマの貫入に対応した地下空洞が存在していると考えられる。マグマ貫入によって地下空洞を形成するメカニズムとして、揮発性物質を必要としないドレインバックも考えられる。しかし、地殻厚さや放射性熱源、揮発性物質の関与を示す表面地形との対応関係を考慮すると、マグマ先端に揮発性物質が濃集してできたガス空洞である可能性が高いと考えられる。本講演では、静かの海の近傍に存在する晴れの海と豊かの海の解析結果を加えて、異なる海領域ごとの違いについても発表予定である。
参考文献
[1] Saal et al. (2008), Nature. [2] Milliken et al. (2017), Nature Geoscience. [3] Head and Wilson. (2017), Icarus. [4] Ishihara et al. (2009), GRL. [5] Kobayashi et al. (2012), EPSL. [6] Qiao et al. (2018), Meteoritics & Planetary Science. [7] Zhang et al. (2020), JGR [8] Kobayashi et al. (2002), Earth, Planets and Space.
本研究では、静かの海での地下ガス空洞調査のために、SELENE搭載月レーダーサウンダーを使用する。これまでのLRS解析では地下空洞のような小規模な地下構造はほとんど解釈されていない。これは、小規模な地下構造からの反射と誤認する可能性のある地表面散乱がLRSデータに重畳しているため[8]、両者を区別することが困難であったためである。本研究では、月標高データから地表面散乱成分を計算し、LRSデータから除去することで、静かの海の地下ガス空洞の存在を調査した。
その結果、マグマが地下浅部に上昇したことを示す地溝の延長上に地下エコー候補(SECs)が約30km連続して存在する領域を発見した。SECsの深さは約200mであり、地溝下に予想されるマグマ先端位置とほとんど同じであった。また、静かの海の全域的に、揮発性物質が関与した表面地形(IMP, RMDS)や、マグマ貫入を示す表面地形(地溝、陥没地形)の周辺にSECsが分布することがわかった。SECsの反射強度(> -25dB)は、レーダー方程式による解析から、空洞もしくは高空隙率物質(以降、合わせて空洞構造と呼ぶ)を示唆した。
以上のことから、静かの海にはマグマの貫入に対応した地下空洞が存在していると考えられる。マグマ貫入によって地下空洞を形成するメカニズムとして、揮発性物質を必要としないドレインバックも考えられる。しかし、地殻厚さや放射性熱源、揮発性物質の関与を示す表面地形との対応関係を考慮すると、マグマ先端に揮発性物質が濃集してできたガス空洞である可能性が高いと考えられる。本講演では、静かの海の近傍に存在する晴れの海と豊かの海の解析結果を加えて、異なる海領域ごとの違いについても発表予定である。
参考文献
[1] Saal et al. (2008), Nature. [2] Milliken et al. (2017), Nature Geoscience. [3] Head and Wilson. (2017), Icarus. [4] Ishihara et al. (2009), GRL. [5] Kobayashi et al. (2012), EPSL. [6] Qiao et al. (2018), Meteoritics & Planetary Science. [7] Zhang et al. (2020), JGR [8] Kobayashi et al. (2002), Earth, Planets and Space.
