日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 月の科学と探査

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、仲内 悠祐(立命館大学)、小野寺 圭祐(東京大学地震研究所)


17:15 〜 18:45

[PPS09-P13] 月周回衛星かぐや/LRSの観測によるMare Frigoris地下構造の解釈

*坂井 優大1熊本 篤志1加藤 雄人1石山 謙2 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻、2.東京国際工科専門職大学)

キーワード:月、月周回衛星かぐや、Lunar Radar Sounder、氷の海

氷の海は,大きな海領域に隣接して形成され,Linear Gravity Anomaly(LGA)等の特異な重力異常が確認されている点に特徴を持つ.氷の海では分光観測やクレーター計数による表面の溶岩ユニットの識別・年代決定が行われた[Hiesinger et al.,2010,Kramer et al.,2015].また,Kaguya/LRSにより地下エコーが検出されている[Pommerol et al.,2010].氷の海形成過程を理解するためには,地下レーダで観測された地下構造から層序を理解することが有益となる.
本研究では,氷の海の中央西部(北緯55~65度,西経13~20度)においてLRSデータの解析によって確認された複数の地下反射面(浅い順に反射面1~3)に注目した.反射面1は,範囲が北緯57.8~60度,西経14~17度であり、西経14~15度の範囲ではほぼ平坦だが,西経15度付近から西に向かって浅くなり,西経17度付近では表面と区別できなくなる.反射面2は北緯58.5~59.6度,西経14~16度より西の範囲で見られ, 西経15度より東側では水平,西側では南向きの傾斜が見られた.反射面3は,北緯58.5~59.6度,西経14~16度の範囲でのみ観測され,西経15度より東側では水平,西側では南向きの傾斜が見られた.深さは反射面1が水平な箇所で約160m,反射面2が最も深い箇所で約260m,反射面3が水平な箇所で約430mだった (εr=6 として) .
各反射面の傾斜から以下の4点が示唆される.
1. 今回解析した反射面1~3は,いずれも溶岩ユニットWCF1(形成年代3.53Ga,[Hiesinger et al.,2010,Kramer et al.,2015])地下に分布していることから,3.5Ga以前に形成されたと推定できる.2. 表面と反射面1の間の溶岩層Aは,上端の表面がほぼ水平なのに対して,下端の反射面1は西経14~15度の範囲でほぼ水平,西経15度付近から西に向かうにしたがって高くなっており,上端の表面は水平なので,下端のような東向きの傾斜を含む地形の上に堆積したWCF1の溶岩層と推定される.3. 反射面1と反射面2の間の溶岩層Bは,下端の反射面2が,南西に向かって傾斜しているので,そうした地形の上に溶岩層が堆積したと推定される.溶岩層A堆積時に,溶岩層Bの表面は東向きに傾斜しているので,洪水状に噴出した溶岩層Bが水平に堆積後,傾いた可能性に加えて,噴出量の少ない溶岩層Bが西側から東側に拡大して東向きに傾斜した表面が形成されたことも考えられる.4. 反射面2と反射面3の間の溶岩層Cは,北緯58.5~59.6度,西経14~16度の範囲内に分布し,反射面2と3がほぼ並行していることから,溶岩層Cより古い溶岩層Dの水平な表面の一部に,何らかの理由で水平な陥没面が生じ,その内側に堆積したものと推定される.溶岩層B堆積時に,溶岩層C,Dの表面には南西方向の傾斜があるため,溶岩層Cの堆積後,南側が沈降するような変動が生じたと考えられる.
地下構造から示唆されたこれらの過程を説明する仮説を以下のように検討している.
(ⅰ)3.53Ga(WFC1堆積)以前に溶岩層Dが堆積.(ⅱ)グラーベンもしくはクレーターとして陥没面が形成,その内側を埋めるように溶岩層Cが堆積.(ⅲ)南側に存在する巨大な海領域(Imbrium)に堆積した溶岩が荷重となることで,周辺領域に伸長応力を発生し,表面が南側に沈降.(ⅳ)溶岩層Bが堆積.溶岩はWFC6(3.11Ga以降,[Hiesinger et al.,2010,Kramer et al.,2015])等のWFC1よりも新しい溶岩ユニットが多くみられる解析領域西方を火口として噴出し,噴出量も限定的で西経15度付近までしか広がらなかった.(ⅴ)溶岩層A (WCF1)が堆積.
(ii)の陥没面形成の要因として,グラーベン,クレーターの2つの仮説を検討している.南側ではImbriumに堆積した溶岩,北側では重力場観測からLGAが確認されており,これらの荷重によって正断層やグラーベンが形成される可能性がある.LRSで確認されている緯度幅は38km,LGAからの距離は25kmだった.この幅は現在地表で観察されるグラーベンに比べると大きい.一方,地下にLGAが存在する領域では,LGAを中心として平均的に地表が約200㎞の幅で沈降していることが報告されているが[Sawada et al., 2016],その幅に比べると小さい.経度幅は45㎞で,経度幅は45㎞で,それ以上東西に広がっているかはLRSデータでは確認できなかった.
もう一つの仮説のクレーターと見なした場合,クレーターの底の深さ,リムの高さは,直径38kmから経験則[Evans et al.,2016]を用いてそれぞれ1km,3kmと見積もられる.溶岩層C下端(反射面3)の深さは430mなのでクレーターの底ではない.またリムは2.7㎞程度地表に出ていなければならないが,該当する地形は確認できていない.