日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG44] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2024年5月27日(月) 13:45 〜 15:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、田阪 美樹(静岡大学 )、東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)、座長:桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、澤 燦道(東北大学大学院理学研究科地学専攻)

14:15 〜 14:30

[SCG44-09] 断層発達過程の力学モデルによる研究

*山田 光希1波多野 恭弘2、狐崎 創3 (1.奈良女子大学大学院 人間文化総合科学研究科 数物科学専攻、2.大阪大学理学研究科、3.奈良女子大学研究院 自然科学系 物理学領域)

キーワード:剪断集中帯、物理モデル、トライボロジー、粘弾塑性体

断層面のすべり挙動を調べる室内実験や発生する地震の規模の分布を力学モデルで再現する先行研究では、多くの場合、あらかじめ1つの断層面を想定しているが、岩盤中に剪断面が複数発達する場合がある。断層の形成過程や形成条件、断層が複数ある場合の相互作用は未解決の興味深い問題である。そこで、図1のようなすべり面が複数ある岩盤を単純化したバネブロックモデルを作成し数値シミュレーションで調べることにより、断層構造の発達について理論的に研究したこのモデルには、各隣接要素の間のすべり面に速度に依存する摩擦法則を適用した。図2のように速度が大きくなるにつれて摩擦力が急激に大きくなった後で減少するような摩擦則を採用すると、単一あるいは複数の断層が発達する過程が再現され、力学系として解析を行うことでそれらの発達条件を明らかにすることができる。今回は、系の歪み速度と各要素の弾性率を表す2つの無次元パラメータをV, p とし、すべりの時空間分布や摩擦力の平均値に注目した。

数値計算の結果、すべりの時空間分布に振る舞いが定性的に異なる4つの相を発見した。すべりの空間分布の一様性の尺度としてエントロピーを定義し、その値を元にV-pグラフで作成した相図を図3に示す。Vpも小さい場合には全時空間で速いすべりは発生せず一様な変形(クリープ)のみが起きる。この相は一様定常解に当たり、摩擦則の傾きが正の範囲でのみ線形安定である。

これに対してVまたはpが大きい場合には、一様定常解が不安定になり、3種類のすべりパターンが現れる。それぞれの典型的な速いすべりの時空間パターンを図4に示した。図3a)で示した相では、図4a)のように様々なすべり面で短時間だけ続く速いすべりが見られた。速いすべりが生じる場所は遷移しながらも系全体ではどこかが常にすべる複雑な時空間構造が見られる。図3b)で示した相は、V-pグラフ上で小さな島状の領域でのみ現れ、図4b)のように全空間で速いすべりが常に発生しているという特徴がある。一方、図3c)で示した相では、図4c)のように速くすべり続ける面が局所的に発達しており、剪断集中帯の発生に対応していると考えられる。

モデルの各要素間に与えた摩擦力は岩盤をつくる岩石自体のミクロな摩擦力に対応する。それに対し、岩盤全体が加えられた力に対してどう抵抗するかを表すマクロな摩擦力は岩盤内のすべりの発生の仕方に依存し、ミクロな摩擦力と一致しない。数値計算で両者を比較した結果を図5に示す。マクロな摩擦力は速いすべりが発生しているときはミクロな摩擦力より大幅に小さい値を示すことが分かった。

岩石―岩石間の摩擦実験から、岩石の摩擦力は接着時間が長くなるほど大きくなることや、速度log(v)に依存して小さくなることが知られている。そこで、モデルにこのような実験から得られた摩擦則を適用することを試みている。今回の発表では、履歴を持つ摩擦則が断層の発達と複数の断層の相互作用に与える影響についても報告する予定である。