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[SCG46-P02] 野母半島長崎変成岩類のテクトニックメランジュに記録された交代・変形作用

キーワード:交代作用、マントルウェッジ、長崎変成岩類、テクトニックメランジュ
沈み込み帯におけるスラブとマントルウェッジの境界域は,構造的・岩相的に複雑な場所である (Bebout and Penniston-Dorland, 2016).この領域では,交代作用を含む様々な岩石・流体相互作用が起こっており,スラブとマントルウェッジの両方を起源とする岩体がテクトニックに混合したメランジュを形成している(Bebout and Barton, 2002; Tarling et al, 2019).本研究では,そのようなテクトニックメランジュがスラブ・マントル境界域においてどのような交代・変形作用を経て形成されるのかを明らかにするため,野母半島の長崎変成岩類に分布するテクトニックメランジュを対象に構造解析と地球化学的分析を行った.テクトニックメランジュは塩基性片岩と蛇紋岩の境界部に分布し,レンズ状の苦鉄質岩(塩基性片岩や曹長岩など)ブロックと周囲の塩基性マトリックスからなるblock-in-matrix構造を呈する.ブロックの一部はfault-fracture mesh 構造(Sibson, 2017)を示すことから,静岩圧を超える間隙流体圧下において開口破壊(モードⅠ)と開口剪断破壊(モードⅠ-Ⅱ)が同時的に発生することで形成されたと考えられる.塩基性マトリックスは主にアクチノ閃石,緑泥石,緑簾石,曹長石からなり,わずかにケルスート閃石、エデン閃石,炭酸塩鉱物が含まれる.アイソコン法を用いたマスバランス計算結果は,塩基性マトリックスが塩基性片岩に比べてCaOに枯渇し,Cr,MgO,Na₂Oに富むことを示す.Cr・MgO流体は近傍の蛇紋岩に由来すると考えられるが,CaOの供給源は不明である.塩基性マトリックスの一部にはアクチノ閃石と緑泥石が強い形態定向配列を示し,局所的な剪断帯を形成している.以上の結果は,もしマントルウェッジ近傍にスラブ由来の海洋地殻物質が存在する場合,高間隙流体圧下におけるfault-fracture mesh構造形成に引き続き,マントルウェッジ由来の流体が割れ目に浸透して力学的に弱い含水鉱物が交代作用により析出することで,マトリックス内において歪が局在化するようになる可能性を示唆する.
引用文献:Bebout and Barton (2002), Chemical Geology, 187, 79-106. Bebout and Penniston-Dorland (2016), Lithos, 240-243, 228-258. Sibson (2017), Earth, Planets and Space, 69, 113. Tarling et al (2019), Nature Geoscience, 12, 1034-1042.
引用文献:Bebout and Barton (2002), Chemical Geology, 187, 79-106. Bebout and Penniston-Dorland (2016), Lithos, 240-243, 228-258. Sibson (2017), Earth, Planets and Space, 69, 113. Tarling et al (2019), Nature Geoscience, 12, 1034-1042.