日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 海洋底地球科学

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

17:15 〜 18:45

[SCG48-P31] 南部沖縄トラフ軸部における現生底生有孔虫群集

*尾内 千花1亀尾 浩司1桑野 太輔2大坪 誠3木下 正高4、KH-23-11 乗船研究者一同 (1.千葉大学、2.京都大学、3.産業技術総合研究所 地質調査総合センター、4.東京大学地震研究所)

キーワード:沖縄トラフ、底生有孔虫群集、科学掘削、東シナ海

一般に,底生有孔虫は海洋中におけるその分布が周辺の環境に支配されていると考えられていることから,堆積物中に化石として保存される石灰質殻は古環境復元のために利用されている.その方法は様々であり,底生有孔虫の化石群集の解析や化石個体の地球化学的分析などが主要な方法である.一方で,底生有孔虫種の分布や,おのおのの種がどのような環境に適応しているのかなど,基本的な理解が進んでいるとは言いがたい.とりわけ,底生有孔虫の分布は地域性が高いと考えられるので,それぞれの海域における種の分布とその分布を規制する要因を理解する必要がある.本邦周辺海域,とくに比較的深い水深における底生有孔虫の分布については不明な点が多く,各種の地理分布についての情報を明らかにする必要がある.日本の最南端に位置する南部沖縄トラフは,日本近海でも低緯度域に分布する底生有孔虫が見られることが期待され,とくにその分布に表層流である黒潮の影響を検討することができる海域である.この南部沖縄トラフでは,水深約1000 m以深の水温・塩分がほぼ一定であることから(片山ほか,2020),底生有孔虫の群集変化の要因を考える上で,有機物含有量,溶存酸素など,水温や塩分以外の環境因子との関係を考察する上で有効である.ところが,沖縄トラフ南部の現生底生有孔虫群集は,東シナ海大陸棚および大陸斜面,南西諸島周辺では記載されているものの,水質の鉛直変化が特に安定していると考えられるトラフ軸部では十分に検討されていない.そこで,本研究では,2023年12月28日から2024年1月11日にかけて実施された白鳳丸KH-23-11航海で得られた海底表層堆積物を用いて,そこに含まれる底生有孔虫群集を解析した.同航海では,沖縄トラフ南部における水深1572–2268 mの5地点でマルチプルコアラーによる海底表層堆積物が得られるとともに,2地点でCTD観測が行われた.本研究では,各地点のマルチプルコア上部10 cmから産出した底生有孔虫の生体群集の概略を報告する.
採取されたマルチプルコアは,船上で1 cmごとに輪切りにされ,堆積物中に含まれる底生有孔虫の生体と遺骸を区別し,固定するために,ローズベンガルエタノールを加えてから密閉容器に保存された.下船後,桑野(1956)に基づいて堆積物を処理し,63 µm以上の個体を検鏡した結果,5地点全てで膠着質種と石灰質種の生体が確認できた.
堆積物最表層(0–2 cm)の群集については,いずれの地点もRhabdammina属,Reophax属,Saccorhiza ramosaLagenammina属といった膠着質種が優占的であった.これらの膠着種に伴い産出する石灰質種は,トラフ軸南側,西側,および東側でそれぞれその種構成が異なり,トラフ軸南側ではCassidulina 属,Globocassidulina属,西側ではUvigerina属,そして東側ではPullenia bulloidesが卓越する.このうち,西側においてはMartinottiella communis(膠着質種)も産出することが特徴である.また,南側では非常に高い多様性が認められた.亜表層(>4 cm)の試料からは,最表層でほぼ認められないChilostomella oolinaGlobobulimina 属が豊富に産出した.両種は西側に比べ,東側でより堆積物中に深く潜る傾向が見られた.
各地点の水深はトラフ南側,西側,東側の順に深く,CTD観測の結果では水温,塩分ともに,水深約1000 m以深ではほぼ変化しない.ここで,石灰質種は,生体・遺骸ともに,水深の増加に伴って,個体数と種数が減少する傾向が見られたことから,最表層における水平方向の群集変化の主な要因は,リソクラインの深さであると考えられる.加えて,トラフ軸南側の種の多様性の高さは,この地点のすぐ南側に位置する西表島からの栄養塩との関連が示唆される.亜表層の2種の生息深度の地点による違いは,堆積物の溶存酸素量に起因すると考えられる.

参考文献:
片山ほか(2020)地質調査総合センター速報(80),87–93.
桑野幸夫(1956)資源科学研究所彙報 (41–42),67–75.