日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC32] Volatiles in the Earth - from Surface to Deep Mantle

2024年5月26日(日) 15:30 〜 16:45 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:清水 健二(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、Caracausi Antonio角野 浩史(東京大学先端科学技術研究センター)、羽生 毅(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、座長:清水 健二(海洋研究開発機構 高知コア研究所)、Antonio Caracausi角野 浩史(東京大学先端科学技術研究センター)、羽生 毅(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

15:45 〜 16:00

[SGC32-07] 神鍋火山のメルト包有物を用いた地球化学的研究

*前田 治紀1,3柵山 徹也1清水 健二2牛久保 孝行2羽生 毅4、常 青4かん みんじぇ1 (1.大阪公立大学大学院理学研究科、2.海洋研究開発機構 高知コア研究所 、3.大同生命保険株式会社、4.海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

キーワード:神鍋、西南日本、メルト包有物、揮発性元素、水素同位体比

はじめに
中国地方における第四紀火山活動の多くはフィリピン海(PHS)プレートの沈み込みに伴うマントルウェッジの形成とPHSスラブ由来の脱水流体に起因した火成活動であると考えられている.一方,神鍋火山などの一部の第四紀火山には,PHSスラブの影響を受けたと考えられる島弧火山とは異なる海洋島火山の微量元素の特徴を持つ玄武岩が産出し(Kimura et al., 2014),PHSスラブとは異なる上昇マントルの寄与が考えられている(Nguyen et al., 2020).兵庫県から和歌山県下の上部マントル中には,PHSスラブ下の深さ約300kmから50kmまで続く地震波低速度域の存在が報告されており(Nakajima & Hasegawa,2007),この地域の温泉や火山活動との関連が議論されているが,火山活動との関連についての地球化学的な検討はまだ行われていない.本研究では神鍋火山から採取したスコリアに含まれる斑晶かんらん石中メルト包有物(MI)のEPMAを用いた主成分元素,SIMSを用いた揮発性元素(Cl,F,S,H2O,CO2),水素同位体比(δD),LA-ICP-MSを用いた微量元素,鉛同位体組成(207Pb/206Pb,208Pb/206Pb)の分析結果にもとづき,火成活動に関与した物質の供給源の解明を試みた.
地球化学的特徴
MIのH2O,CO2濃度範囲は0.1~1.9 wt%,100~7500 ppmでそのほとんどが1.4~1.7 wt%,2000~3000ppmであり,いずれも高濃度を示しMI内に揮発性元素の初生的な情報が保持されていることが期待できる.MIの主成分化学組成はSiO2=48~52 wt%の範囲を示し,SiO2の増加に伴いAl2O3とCaO,Na2Oは増加,MgO,FeO,K2O,P2O5は減少する.主成分元素では有意な違いはないが,微量元素組成ではNb/Yが一定でBa/Zrが大きく増加するグループ(High-LILE)とNb/Yの増加に伴いBa/Zrがわずかに増加するグループ(Low-LILE)の2つに分けられる事がわかった.High-LILEのH2O/Fは20~35,Cl/Fは0.3~1.0,水素同位体比は-50~-75であった.一方,Low-LILEのH2O/Fは25~35,Cl/Fは0.1~0.4程度,水素同位体比は-60~-90程度で,Low-LILEは水素同位体比の増加に伴いCl/Fは低くなる傾向がある.207Pb/206Pb,208Pb/206Pb は,High-LILE で0.85~0.86,2.11~2.13,Low-LILEで0.86~0.88,2.12~2.15であった.鉛同位体比は,Low-LILEではCl/Fが低くなるほど高くなる傾向を示すが,High-LILEではあまり変化しない.
考察
Kuritani et al.(2021)では,MIについて揮発性成分量及び水素同位体比を測定し,PACスラブ深度に応じてメルト包有物のCl/F,H2O/Fが系統的に減少すること,スラブ深度300km以深ではMIの水素同位体比(δD)は-60~-70(0/00)で一定になること,いずれの値もDepleted MORB Mantle(DMM)組成よりも高いことなどから,PACスラブからの脱水流体が火成活動に与える影響を議論している.High-LILEの示す揮発性成分の特徴は,太平洋スラブ由来の脱水流体に起因すると考えられている福江島に比較的近く,大平洋スラブ由来の脱水流体の寄与を受けたメルトと考えても矛盾しない.一方,Low-LILEのCl/FはDMMと同程度,H2O/FはDMMよりやや高く(Shimizu et al., 2019),High-LILEとは異なるClをあまり含まない脱水流体の供給があったと考えられる.また,特に低いCl/F を有するLow-LILE試料が示す高い鉛同位体比は,PHSやPACの堆積物・海洋地殻やDMMの組成範囲を逸脱しており,High-LILEとは異なる起源物質の存在が必要である.
神鍋直下にはPACスラブの割れ目がある可能性が報告されている(Obayashi et al., 2009).太平洋スラブ下アセノスフェアにはアウターライズ付近から深さ400km程度まで続く低速度域の存在が確認されており,プチスポット火山はそのアセノスフェアマントルに由来すると考えられている.プチスポット火山で報告されている207Pb/206Pb,208Pb/206Pbはそれぞれ0.87~0.91,2.13~2.20程度と高く,Low-LILEのMIが作るトレンドは海洋地殻・堆積物とプチスポット火山試料の混合で説明できることから,太平洋スラブ下アセノスフェアマントルに由来する流体の寄与が示唆される.