日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC33] 固体地球化学・惑星化学

2024年5月28日(火) 09:00 〜 10:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、山下 勝行(岡山大学環境生命自然科学学域)、石川 晃(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、山下 勝行(岡山大学環境生命自然科学学域)、石川 晃(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

09:15 〜 09:30

[SGC33-02] 下部マントルにおけるSiO2相とメルト間の水素同位体分別

*仙波 芽美1栗田 直季1坂本 直哉2廣瀬 敬1圦本 尚義2 (1.東京大学、2.北海道大学)

鉱物-水流体間では高温であっても大きな水素同位体分別が知られている。近年、下部マントル中部以深まで沈み込んだ海洋プレート中では、SiO2相が最も重要な水のキャリアであることが明らかになりつつある。下部マントル起源とされるバフィン島のピクライト質玄武岩中には、重水素に乏しいメルト包有物が知られており、下部マントルに重水素に乏しい水を含む始原的な物質の存在が示唆されている(Hallis et al., 2015 Science)。そこで今回、下部マントルにおける水素同位体分別過程の理解を目的として、高圧下で融解実験を行い、SiO2相とシリケイトメルト間の水素同位体分別係数の決定を試みた。

高圧高温実験にはレーザー加熱式ダイヤモンドセルを使い、重水素を含む含水MORBガラスを出発物質として、下部マントル圧力下で融解実験を行った。40万気圧で行った実験試料を回収し、収束イオンビームを用いて加熱中心の断面を切り出し、融解組織を観察したところ、加熱中心にシリケイトメルト、その周囲をSiO2相が取り囲んでいることがわかった。無水の場合、下部マントルの全圧力範囲でMORB物質を融解させた場合のリキダス相がCaSiO3ペロブスカイト(davemaoite)であることが知られており(Tateno et al., 2018 JGR)、今回の結果は水の存在がリキダス相関係を変化させた(SiO2相のリキダス領域が拡大した)ことを意味している。

これとは別に、同じ試料を使って30–70万気圧、約4000ケルビンで融解実験を行い、回収した試料を北海道大学で二次イオン質量分析法(SIMS)を使い、主要元素に加えて、重水素/水素比(D/H比)の分析を行った。その結果、急冷凍結されたシリケイトメルトとそれを取り囲むSiO2相、それぞれのD/H比を比較すると、後者に重水素が比較的多く含まれることが明らかになった。学会当日は、本実験で決定されたSiO2相とシリケイトメルト間の水素同位体分別係数の詳細と、下部マントルにおける脱水や含水スラブ物質の融解に伴う水素同位体分別過程について議論する。