日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 測地学・GGOS

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:松尾 功二(国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)

17:15 〜 18:45

[SGD01-P11] 小型GNSS観測装置の開発と試験観測

*松本 紗歩1小林 知勝1中川 弘之1松尾 功二1古屋 智秋1 (1.国土地理院)

キーワード:GNSS、地殻変動

国土地理院では,日本全国に約1,300点の電子基準点を整備しており,その観測データ及び解析結果は地殻変動の観測等に利用されている.一方で,電子基準点の配点間隔は平均約20kmであり,対象となる地殻変動の空間的な規模がメソスケール(数十㎞)以下の場合,電子基準点では配点密度が不足するため,それを補う観測が必要となる.このような背景の下,近年,機動性に優れた小型のGNSSアンテナおよび受信機が普及し始めている.これらを用いて十分な計測精度の観測が可能となれば,電子基準点のみでは網羅できないメソスケール以下の地殻変動を対象として高密度なGNSS観測が可能となり,高い空間分解能で変動の時空間変化を精密に捉えることが期待できる.
国土地理院では,高い配点密度のGNSS観測で地殻変動を把握するための手法の開発を行っている(小門,2020).本研究では,高密度観測を実現するため,機動性に優れた小型GNSS観測装置を開発してきた.開発した小型GNSS観測装置は,GNSSアンテナ(Septentrio PolaNt-x MF)および受信モジュール(Mosaic)を内蔵した受信機部より構成され,持ち運びが簡便にできる点が特徴である.外部の商用電源を利用する方法以外にも,ソーラーパネルから自律的に発電することも可能である.地殻変動把握への適用可能性の検証のため,令和2年12月頃から活発な地震活動が継続している石川県能登地方および局所的な地殻変動が顕著な千葉県内に装置を設置し,観測を開始した.
石川県能登地方では,地殻活動観測の強化を目的として,令和4年7月にREGMOS(可搬型GNSS連続観測装置)が国土地理院により2台設置された.REGMOSは,太陽電池パネルを搭載し電源がない過酷な環境下でも自律したGNSS観測が可能であり,電子基準点をサポートするGNSS観測点として国土地理院が従来使用している観測装置である.小型GNSS観測装置の検証を目的として,珠洲市狼煙町に設置されたREGMOSと同じ敷地内に小型GNSS観測装置を設置しREGMOSとの比較観測を開始した.本研究では,段階的に条件を変えながら,観測の安定性の評価を行った.まず,受信性能の評価のためREGMOSの筐体にアンテナを設置して観測した.電力はREGMOSから供給した. 得られた時系列データを比較したところ,REGMOSの解とほぼ同じ振る舞いを示すことを確認した.続いて,電力はREGMOSから供給したまま,簡易的な三脚型のアンテナ架台を用いて自律した観測を実現させた上で,装置全体の安定性の評価を行った.地上用アンテナ架台へ取り付け前後の標準偏差を比較すると,東西,南北,上下方向でそれぞれ0.9mm→1.1mm, 1.3mm→1.2mm, 3.8mm→3.6mmとなり,大きな変化は見られず,本観測装置におけるアンテナの設置安定性を確認できた.残念ながら,日照不足によりREGMOSからの電力供給が2023年1月に止まり観測を停止した.その後,専用のソーラーパネルを設置することで電源を独自に確保し観測を再開させた.その間,令和5年5月5日に,設置場所のほぼ直下を震源とするマグニチュード6.5の地震が発生したことから,観測停止期間前後のデータを用いて地震時変動を計算した.小型GNSS観測装置とREGMOS(M珠洲狼煙)のデータから同じ期間におけるそれぞれの地震時変動を比較したところ,小型GNSS観測装置では東西,南北,上下方向でそれぞれ(11.5mm,1.8mm,120.7mm),REGMOSでは(10.8mm,0.5mm,122.9mm)となり,各成分約2mm以内で両者整合した変動量が得られた.これは,小型GNSS観測装置がREGMOSと比べ簡易的な架台ではあるものの,アンテナの設置安定性に大きな問題が見られなかったことを示す.
また,局所的な地盤変動の見られる房総半島でも,令和2年から10点,令和4年度から20点の計30点の観測装置を設置して観測を行っている.本発表では,当該地域におけるこれまでの観測の様子と検証の結果についても報告する.

参考文献:
小門(2020): 低価格アンテナ・受信機を用いたGNSS連続観測システムの開発, 日本測地学会第134回講演会要旨集, 135-136.